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今日も今日とて、首輪。





「……ん、朝?……きゃあ!!」



朝、目が覚めた私の目には美形な幼馴染の顔面が視界いっぱいに広がっていた。

幼い頃から一緒に居すぎてこの男が超のつくイケメンということを忘れていた。

睫毛、長っ。私の1.5倍はあるんじゃない?

何だか私の乙女心はフクザツね……。

黙っていればそこらの乙女はワーキャーと飛び付いてくるのであろうに。




と言うか何で一緒のベッドで寝てるのよ!!

ええと、ええっと……。

必死に昨日の記憶を辿ってみる。

昨日アレンに外に出る許可を貰えないか交渉して、何故かそこでアレンが怒って……。

それで、キスされて首輪を付けられてそれから……。



く、首輪!?!?咄嗟に私は自身の首元に手をやる。革の硬い感触と同時に首への圧迫感を理解すると、盛大にため息をついた。




「はぁぁぁ。この男、他に友達がいないからってまさかこんな事までするなんて……」




前々から『友達を作った方がいい』とアドバイスをしていたが、てっきりアレンは作る努力をしていないのだろうと思っていた。しかし、この前会った時には新しい友達に目星を付けていたのである。

でも一向にそれらしい姿は見えない。

ここから導き出される答えとは……!!

探偵セレスティア・ヴァニラは脳内でチッチッチ、とわざとらしく舌を鳴らす。

そして、ある答えへと辿り着いた。

アレン、友達作りに本気出しても私以外に友達できないのでは?




「ここまでしてぼっちになりたくないのね……」




この状況を説明するならば『アレン、たった一人の友達を失いたくなくて監禁しちゃった☆』である。

いや、当事者の私からしたらしちゃった☆では済まされ無いのだが。

他称ぼっちの私にもその気持ちが少しは分かる。

友達が他の子と仲良くしているのを見て不安になってしまったのだろう。

中学生女子によくあるヤツだ。





そう考えると、昨日のキスもこの首輪も納得がいく。昨日キスされたときは一瞬、『アレン、私に気があるの……?』と心の片隅で思ってしまったが、友達に対する独占欲だろう。

つくづくこの男は面倒臭いのである。

これは流石にやり過ぎだ。しかし、友達だからと言って好きでもない女にキスをする根性だけは褒め称えたい。

そう言えばゲームのアレンは女侍らせてる系イケメンだったわね、と遠い目をしてしまった。





何よ、気持ち良さげに寝ちゃって。

鼻でも摘んでやろうかしら。あとさり気なくお尻に手が当たってるの知ってるわよ。

この無駄に長い睫毛引っこ抜いてやるわ。




「……まずはこの首輪を解いてもらうのが先ね」



お腹が空いたし、アレンの朝食も作らなくてはならない。そろそろベッドから起き上がろう、とした瞬間であった。

起き上がろうとすると首輪に引っ張られ立ち上がることが出来ないのだ。

急いで後ろを振り返るとベッドの柵に首輪が繋がれて居ることに気が付いた。

何度力づくで起き上がろうとしても、得られるのは痛みと圧迫感だけ。




「おぉ、ティアおはよ。お前は朝から元気だな……」


「元気にさせてるのは誰よ!!!!ベッドに鎖を括り付けられちゃ、ベッドから出られないじゃないの!!」


「は?当たり前だろ、その為にやったんだからよ」



何よそのお前馬鹿か?とでも言いたげな顔!!!!

誰のせいで朝から無駄にガチャガチャと鎖鳴らして頭振ってると思ってるのよ!!と内心悪態をつく。




「この状態じゃ、トイレもお風呂もキッチンにも行けないわ」


アレンはハッと気づいた顔をする。


「ああ、そうだな!ティアの飯が食えないのは俺も嫌だ。」


「……!!じゃあ、この首輪解いてくれるわよね?」


期待を込めてアレンを見つめるとアレンは無邪気に笑った。

これは、いける……!!




「ばーか、それじゃ折角首輪作らせた意味がねえだろ??」



そうやって私の頭を小突くアレン。え、馬鹿って言われた。むむ、これでも成績は上位なのよ。

私は頬を膨らませる。


いやいや、今はそんな話をしている場合じゃない。

何でこの状況でいつものように話せるのだ。目の前に自分が首輪で繋げた幼馴染がいるんだぞ。

アレンはベッドに巻き付けてある鎖を緩め、今より10m程長く調整した。




「……よし!これで俺の部屋なら端っこまで歩けるだろ!!」




いつものように耳と尻尾を出した幻覚が見える程『褒めて!』と頭をこっちに向けてきた。

私はつい癖で撫でてしまう。アレンは顔を少し赤らめて嬉しさを噛み締めていた。

いや、何この状況??私は困惑する。

首輪を付けた女が男を撫でて照れされるって、一体どういうプレイよ。

無心で頭を撫で続けていると、アレンは「……ん」と言って目を瞑った。




「??どうしたの」


「そりゃアレに決まってんだろ!!……キッ、キス……だよ」




何を照れているんだこの男。

ますます私は『アレン・ルーデンス』という人間の生態が分からなくなっていた。

あれ?昨日私のこと友達って言ってたよね。

恋愛感情は無い訳だよね??



「アレン?アレンってひょっとして……、……私の事恋愛的に好きなの??」



核心を着くように尋ねるとアレンはまたしてもハァ?と言いたげな顔を向けた。



「いや、俺らはトモダチだろ?そんな安っぽいモンと比べないでくれよ」


「よ、良かったぁ……。じゃあキスはしないわよね!?普通に考えて」




ひとまず安心である。恋愛的となると、私がアレンルートの噛ませ犬にジョブチェンジされてしまうかもしれない。

折角一度折ったフラグをまた建築するなんて死んでも嫌である。




「??トモダチだからするだろ」


「え??キスって普通、恋愛的に好きだとするものでしょう?」


「ハハッ、ティアはお子ちゃまだから知らないだろうけどな。恋愛とか婚約者なんて、俺らみたいなトモダチの関係に比べたらゴミカスなんだぜ」




そう言って私の両肩を掴むアレン。

どんどんと顔を近づけてくる。え、ちょっ。

やばいわ。私のサードキッスまで奪われてしまう。

ぼっち過ぎて友達との関わり方が分からないのね……。ここまでくると流石に同情してしまう。

ええい、仕方ない。あの手を使おうではないか!




「ア、アレン……」


「どうした?ティア、早くキスしてぇんだけど」


「私、こんな所でキスはしたくないわ。折角の友達であるアレンとのキスなんだから、お城の中とか綺麗な海の砂浜とか、ムードのある所じゃないと」




名付けて『ティア、ムードないとキスできなーい作戦』である。相変わらずネーミングセンスは成長していない。それに正直勝率は限りなく低い。

馬鹿じゃないと引っかからないであろう。




「ハッ!!ごめんな、女は気にするよな。悪ぃ。そういうの俺気が回らなくって」




ば、馬鹿だったー!!

幼馴染は成績面では賢いが、たまに馬鹿になる。

とにかく、馬鹿で助かったわ。

物凄く失礼だけれど、本当に馬鹿で助かったわ。

ゲームとは違い、友達も婚約者も侍らせてる女も居ないことが勝因だったわね……。




「ええ、次私とキスするときはアレンの部屋じゃ絶対嫌だからね。したら口聞かないから」


「……っ!それは嫌だ!!俺、絶対この部屋じゃキスしねえ。ティアの為にトクベツに我慢してやる」




ふぅ……。これでキスは回避ね。それにもしキスをする事になっても外に出られる。

どう転んでも成功よ。流石はセレスティア・ヴァニラね。内心高笑いをしていたがそれ所では無いことに気がつく。

首輪の件は解決していないことに……。



もうっ、馬鹿は私の方じゃないの!!!!

心の中で私が私に怒鳴っている。すみません、私……。




でもアレンが意外にもチョロいことが分かって良かった。このまま上手くいけば、首輪無し外出自由生活ができるのでは……!?

まずは、どうしたら首輪を外せるかの確認が必要だ。その為にはアレンがここに居てはダメだ。

よし、次は『ティア、お外のご飯食べたーい作戦』をするしかないわね。ハァ、これ結構精神年齢がオバサンには辛いわね……。









無事に作戦は成功だ。アレンは「そうか、ティアが食いてぇなら急いでコックに作らせてくるぜ……!」と、走って部屋の外へ出ていった。

扉を確認したが、外側から鍵が掛けられていた。

くそう……。抜かりない男である。

しかし、私が我儘を言うと嬉しそうにするのは何でだ。特殊な性癖にでも目覚めたのか。





いつ部屋に帰ってくるか分からないのだから急いで調べないと……!

触ってみた感触で分かるのは高価な素材で作られていること。鏡で確認して分かったことは装飾の宝石だけで家一個買えてしまうということ。

鎖は素手ではどうやっても解けないこと。

首輪に鍵穴があること。……である。





前半二個はともかく後半の情報が分かったのはありがたい。

鎖は諦めた方がいいかもしれない。狙うは鍵穴である。出来るだけ早く鍵を見つけて首輪を外さないと……。

それでアレンが逆上したら、窓から逃げるしかないかしら。窓をチラリ、と見てみる。






…………?

あれ?今、窓から視線を感じたような……?

思わずゾワッと身体を震わせる。

アレン、では無いわよね。さっき別方向の扉から出て行ったんだし。

き、気の所為よね!!幽霊とかお化けとか非科学的なものは信じないわ……!!

頭では理解しても足元は小刻みに震える。







「ティアー!!悪い、待たせたな。はぁっ、昨年五つ星を取ったシェフに特上の素材で作らせた特上の料理だ……はぁっ」



急いで来たのか息を切らせたアレンが嬉々として話しかける。よ、よかった。安心した……。

って、この男が一番油断ならないじゃない私の馬鹿……!!

とにかく、怒らせないよう務めなきゃ。




「わーいやったー、嬉しいわー。流石アレンねー」


「……!そうか!!俺はティアのトモダチだからな!!これくらい当然だ!!」




キラキラとした目で私を見つめるアレン。

幼馴染として、ここまでチョロいと詐欺に合わないか正直心配である。

いやいや、私この男に首輪付けられてるんだった!!まずは自分の心配をしなければ。




1ヶ月が経つまでには絶対にルーデンス家から出ないとね……!!

どんどん遠ざかっているような気がしなくもない私の平穏な生活の為にも……!!






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