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今日も今日とて、トモダチ。





それから十日後、私は未だにアレンの部屋から出ていない。

今日こそ思い切って、アレンに聞いてみよう。

今は食後の『ティア補給タイム』を行っている最中だ。

何のためにあるのかは全く分からない。




「あ、あの……アレン?話があるのだけど……」

「ん?なんだティア。欲しいモンがあんなら言えよ。全部買ってやっから」



私を自身の膝の上に乗せ、腰に腕を回すアレン。

その表情は緩みきっている。

アレンって、精神年齢七歳のままで止まっているのでは無かろうか。妙齢の男女が恋仲でも無いのに近い距離感でいると周りに誤解されてしまう危険性がある。

この空間には二人しかいないのだが。




「いや、欲しいものはないけど……。ちょっと、外出てみたいな〜『は?』……とか、思ってみたりしなくもないかも……」



『外』。その言葉を口にした瞬間、アレンの顔から先程の表情が抜け落ちたのが怖くてつい語気が弱まってしまった。

毎日毎日美味しいお菓子を沢山食べているせいでそろそろスカートのホックが限界を迎えそうだ。




「なんでだ?ここには菓子だってあるし、生きていく上で必要なモンは全部あんだろ」

「いや、そういう事じゃなくね……最近人と話してないなー、と思って」

「??俺と話してるだろ」



アレンは心底不思議そうに私に問いかける。

流石に他称ぼっちの私でも前はメイド達が話しかけてくれたから一日両手で数えられる程度の人とは会話していた。それでも常人に比べたら少ない方ではあるが。



「アレン以外のってことよ」

「俺以外??ティア、俺以外にトモダチいないだろ??」

「い、いないけど……」



え、急に心にグサッと刺さる言葉を言われた。何だか目が怖い、ぼっち仲間がぼっちじゃなくなったら辛いよね。わかる。

しかしアレンに悪意は無さそうだから怒るに怒れない。



「アレンも、私ばかりと話していてもつまらないでしょう?」

「ティアと話してんのが一番楽しいぜ?」

「え、急に褒めるじゃん……」



ナイフのような言葉に続けて、今度は褒めてくれた。お世辞と分かっていながらも嬉しくて、つい前世の言葉遣いが出てしまった。いけないいけない。

今の私は淑女なんだから。




「ありがとう、アレン。でも色々な人と話す事で得られることもあるわよね」

「さっきからティアが何を言いてえのかがさっぱりだ。それに俺、ティア以外の人間と話しても何話したか直ぐに忘れちまうし」

「??ごめんなさい、私もアレンが何を言ってるのかよく分からないわ……」




友達想いなアレンだが、『何話したか忘れる』は少々言い過ぎている。本人の名誉の為にも言っておくが、アレンは成績優秀で馬鹿ではない。

アレンはおもむろに引き出しからペンと紙を取り出す。すると、三角形を描き出した。

その中心に一本の線を引き、上側に『俺』と『ティア』、下側に『その他の人間共』と書いた。

なんだろう、これ。




「えっとな、俺の『大切なものランキング』があるとするだろ?てっぺんが俺とティア、それ以外は全部下なんだよ」



えっ、自分を抜きにすると私しか大切なものがいないのか。お父さんとお母さんを書かないところが年頃の男の子って感じがするわね。

あと、新しい友達候補の子とは友達になれなかったのだろうか。

可哀想だし、深く聞かないであげよう……。



「で、今ここには俺とティアだけ。……俺の大切なモンは全部あんだよ。なのになんで他の人間なんかと話さなきゃなんねーんだよ」

「私は、他の人とも話したいけどな」




そう呟くとアレンはすかさず支えていた私の腰をグッと掴み、息がかかる距離に引き寄せる。

真紅の瞳に至近距離で見つめられ思わず身体が硬直する。



「俺のトモダチはティアだけ。お前のトモダチは俺だけ。いつになったら分かんだよ」

「……ア、アレン?」



酷く冷たい声で私に囁く。アレンは『友達』に固執しているような気がする。お互い友達がお互いしかいない為、距離感がおかしくなっているのかも。

やっぱりこれ、普通の距離感じゃないわよね。

アレンの将来の黒歴史となってしまう前に間違えを訂正してあげないと……!




「あのね、アレン。普通の友達はこんなにも近い距離で話さないし、他の人とも普通に話すし、一緒に寝ないと思うわ……アレン?どうしたの?」




私が諭すようにアレンに話しても、アレンは黙りこくっている。すると、アレンは私の腰に回していた片手で私の両手首を掴み頭の上の方で拘束し、残った片手で私の頬を撫でる。




「……っ!アレンッ!やめて!!流石に怒るわよ!!」



明らかに友達の距離感では無い。それに、何だかアレンが怖い。私の頬を撫でているアレンが何だか知らない人のようでゾワゾワとする。



「ティア、ティア。俺の、俺だけのトモダチ」

「アレン、聞いてるのっ?!……っ!!んっ!」



そして、そのまま私の唇に自身のそれを重ね合わせた。全力で抵抗するがビクともしない。

五秒程経ったあと、アレンは離れた。



「なに、するのよっ!!アレン!!!!」

「なんだよティア。トモダチなんだから普通だろ?」



『友達』『普通』アレンはこればかりだ。

友達の意味を履き違えている。

これは、友達では無い。



「なあ、ティア。俺キスは初めてなんだ。お前もそうだろ?」


急にキスの体験の有無を聞いてくるアレン。

もうアレンが何を考えているのかが分からない。

私は馬鹿正直に答えることしかできなかった。



「……あるわよ。レオと、一度だけ」

「は?なんでだ?アイツは『婚約者』だろ?『トモダチ』じゃない」



??婚約者とキスをするのは普通じゃないだろうか。友達とキスする方がおかしい。

文脈がおかしいことにアレンは気づいていない。

心から、そんなこと思っているのか。



「ええ、婚約者だけど……」

「じゃあなんでキスすんだよ。初めてのキスとか、女は気にすんだろ」



何を言っているのか分からない。理解ができなくて私はひたすら困惑する。

それと今気づいたが、アレンは相当怒っている。

じっと私を見つめ、こめかみに青筋が立ちピクピクと動いている。



「トモダチってのは何より大切なモンなんだよ。

家族とか婚約者とかゴミみたいなモンより余っ程な。ティアは今、俺と言う一番大切なトモダチを裏切ったんだ」

「アレン?どうしちゃったの……?」




ただひたすらに目の前の幼馴染が怖かった。

そしてアレンは暗い瞳のまま言った。



「トモダチなんだから、話すのも、手を繋ぐのも、キスも、その先も、全部俺としかしちゃいけねえんだよ。……なあ、ティア??」

「……っアレン、貴方は友達の意味を間違えているわ」



私が反論するとアレンは、「黙っていろ」とでもいうように近くにあった布を私の口に素早く巻き、縛った。

声が出せない。



「……んんー!!んん!!んー!!」

「アイツに無理やりされたんだよな、可哀想に。ホントは初めてのキスは俺とが良かったよな。ああ、ぶっ殺してえなぁ、アイツ」



でも、と言葉を続ける。





「トモダチを裏切ったティアは仕置きが必要だよなあ??」




アレンは所謂お姫様抱っこで私を持ち上げ、ベッドへ連れて行く。そこに私を乱暴に放り投げると、懐から何かを取り出した。

ガーネットがあしらわれた、真っ赤な首輪。

何が起きるのか理解した私は持ちうる力全てで抵抗する。



「んー!!んっ!んっんー!!!!」

「こら、暴れんな。ガーネットの宝石言葉知ってっか?『友愛』だってさ。……俺らにピッタリだろ?」



抵抗も虚しく、私はアレンに首輪を付けられる。

首の圧迫感と変わってしまった幼馴染を見て、私の両目から涙が滲む。これはあまりにも、友愛と呼ぶには愛情が偏っていた。




「やっぱりティアには赤が映えるな。だってこの世でたった一人のトモダチの俺の色だもんな」




『友達』『友達』『友達』

その言葉を聞いていると、友達が何なのか分からなくなってくる。

ひょっとしておかしいのは私の方で、アレンが正常なのかも。なんて考えに及びそうになった私を心で殴る。

絶対におかしいのは幼馴染のこの男だ。



「あっ、悪いな。口縛られてたら喋れねえよな。ごめんなティア。……この首輪、特注なんだぜ。かっけーだろ?」

「……ぷはっ、げほっげほっ……!!」



まるで、いつものように時計やアクセサリーを自慢するかのように、友達の為特注で作ったという首輪の話をするアレン。





今のアレンは、親の愛情を必死で求める子供のように見えた。

元のアレンに戻って欲しい。

酸欠で消えゆく意識の中、私はそればかりを願っていた。






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