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今日も今日とて、別れの挨拶。



翌日、ヴァニラ邸はまさしく『カオス』といった状況にあった。



「お嬢様あああ……。私たちがいない場所で話す相手がおらずとも泣かないで下さいましねえええ」


「向こうではもうぼっちを辞めてどうか幅広い交友関係を持ってくださいねえええ」


「料理を食べ過ぎて向こうのメイド達には引かれないようにしてくださいねえええ」




屋敷にいる全てのメイド、執事、コック、庭師……。沢山の人が咽び泣きながら私を囲む。

向こうのメイド『には』って君たち私の食べっぷりに引いてたんかい、というツッコミは今はやめておこう。



「ぐすっ、お嬢様の食事をもう作れないなんて……」


メイドだけでなく料理長のロータスも泣いている。



昨日のヒューリーさんもそうだが、皆私と今世の別れでもするつもりなのだろうか。

結婚したら向こうの家で平凡に暮らそうとは思っているが、少なくとも半年に一回は顔を出しに来るつもりなんだけど……。



帰ってきて欲しくないのだろうか??と言う考えが直ぐに頭に過ぎってしまう私は根っからの陰の者である。



皆から別れの言葉を伝えられ、プレゼントや手紙を渡される。

それら全てを受け取って居たら両手いっぱいになるまでになっていた。





大事な日には着飾ってくれて、私の話し相手にもなってくれていたアンを初めとしたメイド達や執事達。

お菓子作りやランチ作りを手伝ってくれたロータスや他のコック。

ガーデニングを教えてくれた庭師のヒューリーさん達。



沢山の人に愛されているんだなぁ……。

ふと目頭が熱くなる。ゲームのセレスティアが断罪されていた時はここにいる皆、大変な苦労を背負っただろう。私が絶対にそんなことにはさせない、という強い意思を持って脳内で架空のゲームのヒロインを殴る。



一人ひとりに感謝の言葉を伝え、握手をする。

この泣きっぷりの中で、「実は定期的に帰ってくるよテヘペロ☆」なんて言えなかった。

プレゼントを自室に大切に保管し、手紙は後でゆっくりと見ることにしよう。向こうでホームシックになってもこれがあれば大丈夫よね。




「お嬢様、旦那様と奥様がお呼びです」


私にそう呼びかけるメイドに返事をした後、

私は緊張した面持ちで二人のいる部屋の扉を開けた。





そこには、先程のカオスを超えたカオスがあった。




「ティアぢゃぁぁあぁぁん!!いがないでえええ」

「ディアああぁあ!!」


私が赤子の頃から学園に入学しているまでの写真が部屋の床中に並べられ、それらの中心で両親が咽び泣いていた。

う、うわあ……。思わず白目を剥きそうになる衝動を必死に堪える。



「お、お母様??お父様??どうしましたの?」


「だっでええ、もうティアちゃんと会えないなんて悲しすぎるわぁぁ!!」

「今まで仕事ばっかりで家にあまり帰ってやれなくてごめんよおおおぉお」



ぎゅーっと渾身の力で私を抱き締める父と母に私は困惑の表情しか出せなかった。

えっと、お父様とお母様も私と一生の別れをするつもりなのだろうか……。



するとお父様とお母様は私の腕を引っ張り椅子に座らせ、『ティアちゃんの成長No.1』というアルバムを1ページずつ感想付きで読み聞かせる。




「これは、パーティーを欠席して1人で読書するティアちゃん。懐かしいわ……ぐすっ」


「うっ、こっちは1人で花を観察するティア……。なんて可愛いんだ……ぐすっ」




涙を堪えながら語る両親。全ての写真に家の人達とアレン以外の人物が居らず、ほぼ1人の写真なのが私のぼっち感を際立たせる。



視界の隅に『ティアちゃんの成長No.113』が見えた気がするが、一体これ何冊あるんだ……。

それから数時間、No.148まで読み終えたところあたりで、私は精神が崩壊しそうだった。



「あ、あの二人とも……。何も一生会えない訳じゃないんだし……」


私が嫁ぐだけでこんなに悲しんでくれるのは嬉しいし、誇らしい。けれど流石に悲しみすぎじゃないだろうか。




「何言ってるのティアちゃんっ!!レオくんから聞いたわよっ!!もう宮殿で暮らして学園も辞めるんでしょ……ぐすっ」


「そうだぞティア。妃教育が忙しくてこっちにはもうほぼ帰ってこられないんだろ…うぅ」




へ?へ?へ?

聞き慣れない単語を頭で反芻する。『宮殿』『妃教育』……?



私の平凡な人生設計には微塵も入っていない単語の為、脳みそがキャパオーバーを起こしてしまった。

あれ?宮殿は昨日ヒューリーさんも言ってたなあ。

宮殿ってなんだっけなあ。

王様と妃様とその子供の皇太子様とかがすんでるんだよなあ。

考えれば考える程頭が混乱する。




私は両親にあの……と声を掛ける。


「私は普通の家で普通に幸せを掴む筈なのですが……?」


すると目を合わせ抱き合いまた泣き出すお母様とお父様。




「皇太子様と婚約して宮殿で暮らすことを『普通』だなんて、……なんて強くて聡明で自信に満ちた女性に成長したのおおお」

「流石はお父様達の娘だああああ」




『コウタイシサマ』……『皇太子様』


頭の許容量が100パーセントだとすると、とっくに私の脳みそは1000パーセントを超える情報量のせいで死にかけであった。




私の脳は完全に考えることを放棄し、「ハイ」しか言えなくなってしまった。

そのまま『ティアちゃんの成長No.321』まで読み終えると、ようやく解放された。




すると、今度は真剣な面持ちで私を見つめる二人。


「ねえ、ティアちゃん。私たち貴女が私たちの娘で心から嬉しいわ」

「ああ、親として君を誇りに思うよ」



その優しくて暖かい視線が私の涙腺をくすぐった。

また抱き締められるとその暖かさについに私も涙が溢れる。


「お父様、お母様……!私もお二人のことが大好きです」


そう伝えると二人は心底幸せそうに笑った。





その日の夕食は屋敷の全ての人達と食べた。

私の好きなカボチャスープに、魚の蒸し焼き、素朴なパンに固めのプリン。


メイドも執事も、庭師もコックも、お父様もお母様も……。皆で食べた食事は人生で一番美味しく感じられた。


今夜だけはテーブルマナーなんて気にせずに、音楽に乗せて踊りながら食事を楽しむ。

途中ヒューリーさんが酔っ払ってロータスに絡んだり、同じく酔っ払ったメイド達が「早く結婚してーな」と婚活魂を語ったりと色々あったが、皆執事長に叱られていたっけな。

お父様とお母様も手を取り合って踊っていた。




ゲームでは有り得なかった現実を感じでまた泣きそうになる。





パーティーもお開きになり、ベランダでひとり星を眺めていると、アンがブランケットを私の肩に掛ける。



「……お嬢様。宮殿に行ってしまわれても私達はお嬢様の幸せを一番に願っておりますよ」



いつもおちゃらけたアンの真剣な言葉。

しかし、私は今までの疑問をアンに尋ねる。




「あの、皆が言ってる宮殿って何のこと?あと皇太子って……?」


「もう!!お嬢様!!人が折角真剣に想いを伝えてるのにふざけないでください!!」




ぷりぷりと怒るアン。別にふざけてる訳じゃ……。

アンが続けて言った言葉を私は生涯忘れることは出来ないだろう。













「お嬢様がこの国の皇太子であるレオナルド・アーサー様とご婚約なされたんでしょうが!!!」















ひょえ?????


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