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今日も今日とて、婚約の挨拶。




「一生をかけて幸せにします。━━セレスティアさんとの婚約を認めて下さい」




幸せなプロポーズの翌日、レオは私の屋敷を訪れ両親にそう言った。

私の母であるユリア・ヴァニラと父のルイス・ヴァニラはそれはもう私を溺愛している。

だから、ゲームのセレスティアはあんなに傍若無人になったのであろう。


二人とも美人とイケメンであるが少し気の強そうな風貌をしている。

が、私に「嫌い」と言われたら泣き叫ぶ様子が容易に想像できてしまう。



レオが平民であることはまだ伝えずにここまでの経緯を話したが、父と母は何も言葉を発しない。

私が幼少の頃、「平民と婚約してもいい」という

言質は取ってある。最悪の場合はこれに頼るしかない。


肩を震わすお父様とお母様。やっぱり反対されるのだろうか。



「ティアちゃんに婚約者がでぎだなんで〜〜!!」


鼻水を啜りながら喜ぶ私の母。



「ルーデンス家の坊ちゃんとの婚約を断ったときは心底心配していたが……。こんな真面目な青年を連れてくるなんてな……!!」


同じく泣きそうな顔で喜ぶ父。

これはなかなかの好感触である。


「えっと……。婚約を認めてくれるということで良いのでしょうか??」


私が恐る恐る聞くと首が弾き飛ばんばかりに上下に動かすお母様とお父様。

え、これ大丈夫なのかな。明らかに人間の速さではないんだけど。



「こんなにも優しくて聡明なご両親がいるなんて、ティアは幸せ者だね」



レオがそう言って微笑んだ瞬間周りに花が飛ぶ両親。


「んまあ!レオさん、もう私達は貴方の家族なんだからお母様と呼んで良いのよ」

「そうだぞ、レオくん。俺の事もお父様と呼んでくれ。息子も欲しかったんだ」




もう明らかに歓迎ムードである。ドアの隙間から多数のメイドが覗いているが、皆ハンカチを片手に震えている。




「じゃあそう呼ばせて頂きます。美しいお母様と頼りになるお父様ができて嬉しいです」

「なんていい子なの!!ティアちゃんは昔から変わっていてね……。でもこんなに素敵なお婿を連れてくるなんて、やっぱり私の娘ね!!」

「変わり者の娘だが……。こんなに良い旦那を持つなんてな……!!」




すごく『変わってる』を強調されたが、この際気にしない。


「あの変わり者のお嬢様が……!」

「万年ぼっちのお嬢様がね……!」

「シッ!聞こえるでしょ……!」



ドアの向こうのメイド達の声も聞こえるが、内容はともかく皆鼻声だ。

なんだか、こんなに泣かれると少し気恥しい。





ふと、レオが私に耳打ちする。


「ねえ、ティア。ちょっとだけお父様達と三人きりにしてくれないかな」

「え、ええ。分かったわ」



何の話をするんだろう??私が居ると言いづらいのかな。

ひょっとして平民であることを伝えるのだろうか。

その話なら、別に私がいてもいいのに。



ぐるぐると頭で考えながら「少し席を外しますわ」と両親に伝えて外に出る。



ドアを開けると十数人程のメイドに囲まれ、揉みくちゃにされた。皆の涙やら鼻水やらが飛び交い、収拾がつかない事態だ。



「おべでどうございまず〜!!」

「わだじだちうれじいでず〜!!」

「ぼっぢのおじょうざまがげっごんなんで〜!!」



いつも私に辛辣気味なメイド達も心から喜んでいてくれるようだ。

日頃ゲームのセレスティアとは違い私はメイドに下に見られているな、と思っていたがそこにはちゃんと愛がある。

それにしてもなんだか様子が変だ。

普段のクールなメイド達さえ変えてしまう、それが婚約というものなんだろうか。



「ぞれもあんなにごうぎながだど……!!」

「ごうだいじざまとげっごんなんてびっぐりでず〜!!」



もう鼻声過ぎて何と言っているのか理解ができない。

しかし私を祝おうとしている気持ちはちゃんと伝わってきた。


「みんな、ありがとう……。幸せになるわ」



私が微笑んだ瞬間であった。

バッターンッ。

先程私が席を外した大広間から何かが倒れる音が聞こえてきた。



私は走ってドアを強引に開ける。

と、同時に有り得ないものを目にする。

そこには━━━倒れた母と腰を抜かす父がいた。




「お母様!?お父様!?大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。大丈夫だ。いや、大丈夫じゃない」



文脈がおかしい。明らかに大丈夫では無さそうだ。

いつも(私関連以外で)冷静なお父様が随分慌てている。

なんて分析している場合じゃなかったわ、お母様は大丈夫かしら!



「お母様〜!!お母様、どうしたのですか!?」

「はっ!!ティアちゃん貴女……さすが私の娘ね……」



気を失っていた母が意識を取り戻す。と同時に私を強く抱き締め、頭を撫でた。

二人の様子がおかしい。私はレオに尋ねる。



「レオ、二人に何と言ったの??」

「俺はただ俺の家の話をしただけだよ」

レオは悪戯に口元を緩ます。



ああ、やっぱり平民であることを言ったのか。それでお父様とお母様は驚いてしまったのね。

実の娘が平民と結婚なんて、貴族の親としては嫌なのだろうか。……反対されてしまうのかも。




しかし、予想は裏切られた。


「ティアちゃん、良かったわねえええ!!」

「ティア、なぜそんな方と婚約出来たん

だ……!!」



母と父が私の肩を揺する。凄い勢いである。

でも、婚約をする事を反対はしていないようだ。

……逆に先程よりも応援してくれている??

お母様、お父様……。

二人も私が平凡な幸せを掴むことを願っていてくれたのね……!!

流石私の両親、愛だけではなく懐も深い。




「こんなに祝福してくれて嬉しいよ、ティア」

「そうね、本当に嬉しいわ……」




レオは微笑んで私を抱き締める。私も抱き締め返すと、「反対されたらどうしようかと思ってた」

と呟くレオ。

その顔がとても怖く見えて思わず怯えてしまう。しかし、すぐにいつものレオに戻る。




「……でも良かった。ティアのお父様とお母様が聞き分けのいい人で。強硬手段はしたくなかったんだ」



強硬手段?何の話だろうか。



「大丈夫よ、レオなら気に入られるって私分かっていたもの。……だってこんなに素敵な人なんだから」




素直な気持ちを伝えると思わず顔に熱が集まる。

レオは一瞬固まって私をもっと強い力で抱き締めた。



「ああ、可愛い。可愛すぎるよティア。……これでようやく囲い込めた」


後半は声が小さくて聞き取れなかったが、かわいいと言われてもっと顔が暑くなる。




そんな様子をお父様とお母様が幸せそうに見つめていた。



「レオ様、もう遅いし泊まっていかれたらどうですか。こんなくたびれた家で良ければですが」

「そうですわ。レオ様、辺鄙な場所で良ければ」




……ん??『レオ様』??

『くたびれた家』『辺鄙な場所』??



様をつける冗談なんて、こんな時でもユーモアのある両親だなあ。

しかし、この屋敷が辺鄙な場所にあるくたびれた家だとしたら王様の住む宮殿くらいしか勝るものはないだろうに。



「『様』と敬語ははいりませんよ。もうお二人は俺の両親なんだから」



それに乗っかるレオに思わず笑ってしまう。

するとレオは人差し指を私の唇にくっつけしーっとジェスチャーをする。



「是非、泊まりたいです」



それを聞くと急いでメイドを呼び寄せるお父様とお母様。どうやらお泊まりセットを用意させるようだ。……ん?あれ?

今まで聞き流していたけど、『お泊まり』!?

まってまって、いきなりハードルが高くないだろうか。



「ティアと一夜を明かせるなんて夢みたいだ」



……私の心臓は持つのだろうか。




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