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今日も今日とて、プロポーズ。



「すー、はぁー。……レオ」

私は1度呼吸を整えてから、アレンに向かって声を掛ける。

約束の時間より少し早く着いてしまったがまさかレオも着いているとは。



レオは振り向いた瞬間固まって動かなくなった。

いつも制服にほぼすっぴんに近い化粧しかしていなかったため、今日のお洒落は少し気はずかしい。

あまりにも無言の時間が続くため気まづくなる。

あれ?今日は特別にフラワーイベントのやる夜の部からはドレスOKだったよね??



ひょっとして間違えていたのだろうか。

学園祭のパンフレットはしっかりと読み込んだ記憶があるけれど、間違えて解釈していた可能性も……。考えれば考える程不安になる。

私は無言の空間に耐え切れず、勇気を出してレオに聞いてみることにした。



「レ、レオ……私何かおかしいかしら?」

「誰が見たの」




レオは真顔で私に尋ねる。私の質問からズレているため、私の脳は即座に理解できなかった。


「……へ?」思わず素っ頓狂な声が出た。

誰が見たの、とは何をだろうか。

考え込む私にレオは続ける。





「今のティアを俺の他に見た人っているのかな?」


今度は打って変わっていつもの様に優しげな笑顔で私に問いかける。……が、長い前髪の奥の目がどこか笑っていない気がした。

そんなに似合っていないのだろうか。

可愛らしい衣装が似合わない悪役顔の自分が憎くなる。




「えっと……。今日はメイドが頑張ってくれて私なりにお洒落してみたのよ。馬子にも衣装だったかしら」



あれ、自分で言ってて何だか悲しくなってきた。どうしよう、『確かに馬子にも衣装だな』なんて思われていた。明日から合わせる顔が無くなってしまうわ。



「違うよ。ティア」


レオは人差し指で私の顎を持ち上げる。

ふわり、と甘くて爽やかな心地の良い香りが鼻腔を擽った。



「あまりにもティアが綺麗だから、月の女神と見間違えてしまったよ」



つ、『月の女神』!?思わぬパワーワードにまた頭が混乱する。

16年間生きてきて、前世も合わせても2度の人生で1度も言われたことが無いセリフだ。

レオは急にどうしてしまったのだろうか。



「こんなに綺麗なティアを、俺以外の誰かが見たところを想像すると腸が煮えくり返るよ」



あははっと乾いた笑いを出すレオは笑ってはいるが、まったく面白くなさそうだ。

握り込んだ拳には、血管が浮き出ている。

私は勇気を出して、本心を伝えることにした。




「レオに会うから」

「……え?」

「レオに会うから、お洒落してみたのよ。……だからレオとメイド以外に見た人は居ないわ」



どう?とドレスの裾を軽く持ち上げる。

そう言った瞬間、レオは急いで後ろを向いてしまった。

耳だけでなく首まで真っ赤である。

すると、校内のスピーカーから学園祭の案内放送が流れた。



「あと3分程で本日の目玉、フラワーイベントが始まりま〜す!!」



明るく陽気な放送の声が聞こえた私は、慌てて今日ここに来た意味を思い出す。



「レオ、今日私をここに呼んだ理由を聞かせて」




私は真っ直ぐに彼を見つめた。レオは頷いて、ベンチを指指す。




「取り敢えず、座って。ティアの脚を疲れさせる訳にはいかないよ」



私がベンチに腰掛ける。するとレオはぽつり、ぽつりと呟き出した。

いつもより小さくて寂しげな声色に、私は何故だか胸が締め付けられる。



「俺ね、秘密があるんだ。大きな秘密。」

「……秘密って?」



私はレオの瞳を隠す前髪を見つめて尋ねる。その言葉が指す真意を測ることは到底出来なかった。

けれど、私に出来ることなら彼の力になりたいと思う。

出会ってから短い期間でも、私は彼のことをそこまで好いているのだ。



「その秘密のせいで皆から忌み嫌われたり、はたまた勝手に愛されたりする……けど、ティア」



『君は本当の俺を愛してくれた』


そう言ったレオは儚い雰囲気を纏っていた。

何だかレオが消えてしまいそうで怖くなって、私は思わずレオの左手を握る。彼は一瞬驚いたように肩を跳ねさせて、話を続ける。



「今日、ティアに聞いたよね。『ふたりぼっちはどうかな』って。ティアが賛成してくれて、本当に嬉しかったんだ」



私は頷きながら耳を傾ける。



「それで考えてたんだ。……ずっと前から。君と俺、ふたりぼっちになるにはどうしたらいいんだろうって」

「それで気付いたんだ。……秘密のせいで俺は一生孤独だと思ってた。だけど、こうすればいいんだ、ってね」




真剣な表情で私を見つめるレオに私はドキリとして大きく頷く。

レオはおもむろに立ち上がりベンチに座っている私の前に跪いて右手を掴む。

レオは長身だから、私より目線が低いなんて何だか新鮮だ。







そして━━━━━━






「一生俺だけを見て、一生俺の隣で、一生幸せに暮らして欲しい」




レオがそう言った、瞬間。

急に庭園がライトアップされ、色とりどりの花と花弁が私たちを囲むように舞う。大きなもの、小さなもの、赤色、青色、黄色に紫色。

その全てがスローモーションのように空間に静止して見えた。



なんて、綺麗なんだろう。




あまりにも美しいその光景に私は息を呑んだ。耳まで熱を持っていく感覚がする。レオの前髪の中にはきっと、私を見つめる真剣な眼差しがあるのだろう。

私は、レオを見つめて微笑む。



「私も、貴方と一生を過ごしたいわ」



レオは私を引き寄せ抱き締める。私は胸がいっぱいになって、目頭が熱くなる。

好きだ。私はレオがどうしようもなく好きだ。何度も何度も頭で反芻しては、幸せな気分に浸ってしまう。

レオは私の耳元で囁く。



「それって、結婚してもいいってこと?」


分かりきってる癖に、レオの綺麗な唇はニヤリと悪戯げに上がっている。

私は返事の変わりに、レオの頬にキスをする。






悪役令嬢として生まれた絶望も、この恋によって全て溶けてしまうような気がした。




これでようやく、私の平凡な幸せは幕を開けるのだ。

豪華な世界じゃなくていい。ありきたりな幸せを2人で分かち合いたい。

一緒に働いて、家事をして、休みには一緒にピクニックをしたり……。

前世で得ることが出来なかった普通の幸せを、レオとなら手に入れることが出来る。

ああ、なんて幸せなのだろう。






ふと、私はあることに気がつく。


「そう言えば私、レオの前髪の下の素顔を見たことが無いわ」

「……あぁ。そうだったね」




興味ありげにレオを見つめるが、レオは何だか乗り気じゃなさそうだ。

自身の前髪を弄ぶように指に巻き付けては、溜息を吐いていた。





……見られるのが嫌なのかしら。

だとしたら無理に見なくてもいい。私がレオに惹かれたのは彼の優しい心なのだ。




「俺の顔を見たら、ティアは俺から離れて行ってしまうから」



そう答えた彼の声は、まるで何かに脅えているようだった。

どうやらレオは顔にコンプレックスがあるようだ。

私は微笑んでこう答えた。




「私が顔を見たくらいでレオを嫌いになると思う?」

「……じゃあ、ティアが本当に俺から逃げられなくなったら見せるね」



逃げられなくなるまで、なんて。そこまで自分の顔が嫌いなのだろうか。私はそんなの気にしないのに。

どれだけ彼の見目が悪くても、全く気にしないだろう。

彼の声が、性格が、笑い方が。

全部全部、大好きだから。



「ええ、分かったわ。」




それから閉会の時間まで談笑を楽しむ。

私たちはお互いの両親に婚約の許可を貰うことになり、最初は私の両親に会うことに決まった。




「じゃあ、明日には帰ってくるから、私の両親から挨拶に行きましょうか」

「うん、……緊張するなぁ」




レオならきっと、お父様もお母様も平民でも許してくれるだろう。

こんな時になると、自分の家柄が嫌になってしまう。

なんて、きっとこの世界では贅沢な悩みなのだろうけれど。

けれど、『もしも』を想像しては辛くなってしまう自分がいる事も事実なのだ。






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