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今日も今日とて、お宅訪問。




レオに結婚宣言(仮)をされた私はウキウキした足取りで馬車へ乗り込むと、アンに学園祭のお土産を手渡した。

ちなみに学園祭中は、校内をいつ出入りしても良いのである。



「これは、牛肉を串焼きにして胡椒をかけたものね。それでこれは、トウモロコシを炭火で炙ったものらしいわ。それでこちらは……」

「お、お嬢様。もう待てません……!!頂いても宜しいでしょうか!?!?」



私が買ってきたものの説明をしているとアンの口から段々と涎が垂れていることに気がついた。

瞳はキラキラと輝き、串焼きに手を伸ばそうとするのを必死に抑えている様子だ。



自分が買ってきたものでここまで喜ばれて悪い気はしない。

むしろ、誇らしい気持ちでいっぱいだ。

私が「貴女のものなんだから、好きなだけ食べればいいのよ」と言うと、アンは見るからに嬉しそうに笑った。



「ほ、ほひょうはま〜!!!」

「もう、全部飲み込んでから喋ってよ」

必死に食べ物を頬張りながら涙目でこちらを見るアンの口をハンカチで拭く。



前世で小学校のとき、飼育委員会に入っていたけどその時のウサギのミミちゃんに似ているなぁ。

ミミちゃん元気かなぁ。

ふと前世の家族のことを思い出す。

就職してからは一人暮らしで、会う機会が取れなくて結局最期まで親孝行できなかった。



「初めは慣れないだろうけれど、貴女ならきっと大丈夫よ。離れていても私たちは応援しているからね。」

そう言って目に涙を溜めるお母さん。


「無理だけはするなよ」

ぶっきらぼうだけど、優しいお父さん。


「ねーちゃん、向こうでも食べ過ぎんなよー??」

生意気だけど私によく懐いていた、可愛い弟。



あ、やばい。

そう思った瞬間、両目から大粒の涙がポロリと落ちた。

急に泣き出す私にアンはおろおろとしながら背中をさする。


「お、お嬢様!?どうされました!?」

「だ、いじょぶ、ちょっと目にゴミが入っちゃって……」

「大丈夫じゃないでしょう!!いいからこれ食べて下さい!!」


アンは半ば強引に私の口に串焼きを突っ込む。とろけるお肉にいい塩梅の塩胡椒。

おいしい……。

串焼きをもぐもぐと咀嚼しているうちに、いつの間にか涙は止まっていた。



今はただ、アンの気遣いが嬉しかった。

前世での悲しみを今世でも繰り返してたまるものか。

私は絶対に普通に幸せになるんだーー!!

心の中で山へ向かって叫ぶ私の声がこだまする。



ぎゅっと両手を握り締め、固く決意する。




「もう大丈夫よ、アン!!次はアレンの屋敷へお土産を渡しに行くわよ!!」

「はい!!お嬢様」


アンは元気を取り戻した私にほっとした様子で微笑んだ。

それから5分程アンと食べ比べをしていたら、アレンの屋敷へと辿り着いていた。



さすがアレンの家、私の家と同じくらいに大きく立派だ。

しかし、雰囲気は全く異なる。

私の家は上品で慎ましやかなもので、ここは『The お金持ち☆』といった感じである。

門をくぐり抜け、玄関の扉を開ける。

私はアレンと付き合いが長いから、基本的にお互いの屋敷には顔パスで入れるのだ。


「アレンは今どこにいるのか知っているかしら??」

私がもうすっかり顔馴染みの執事長に尋ねると、アレンは最近自室に篭もりきっていると返答した。どうやら体調が悪いという訳でも無いらしい。



な、なんと!!!

アレンが引きこもりになっていた!!!

反抗期息子が不登校になった母親の気持ちになった私は戦慄する。

いや、息子が出来たことはないのだが。



「アレンに会ってもいいかしら??」

「いいえ、セレスティア様。アレン様に『誰も通すな』と仰せつかっておりますので……」


な、なんと!!!

面会拒絶である。

思った以上に重症なアレンをどう引っ張り出せば良いのか……。

いち友人として、非常に心配である。


「そう、分かったわ。また日を改めることにするわ。」

「大変すみません、セレスティア様。」


私はしおらしく振る舞うと、申し訳なさそうな執事に「いいのよ」と伝える。

大人しく来た道を辿り、玄関の外へ見送られる。


そのまま馬車へと乗り込む……とでも思ったか!!!!

内心高笑いをした私は、見送りの侍女たちが居なくなったのを確認すると、コソコソと庭の木の裏へ隠れる。

気分はすっかり世紀の大泥棒である。



この屋敷にはなんと、私とアレンしか知らない秘密の抜け道があるのだ。

私は黄色の薔薇が植わっている大きな鉢植えを動かす。

「ふ、ふんぬっ……!!おりゃあ!!」


気合いで持ち上げ移動させると、人ひとり入るくらいの穴が出てくる。

これは私たちが8歳のとき、アレンが

「これは、トモダチ同士の秘密だ」

と言って教えてくれたものだ。


私はそこへ潜り込む。土のせいで制服が泥だらけだが、反抗期息子の為ならしょうがない。

自分の生命の為にはあまり関わらない方がいいと知っていながら、私はすっかりアレンに友達としての情があるのだ。


「よっこいせ……っ!!」

私が土へ潜ってから30秒程経ったあと、目に光が入り眩しくなる。光の方へ私が体を持ち上げると、久しぶりにアレンの部屋の風景が見える。


大きな部屋の中、ひとりで必死に何かを紙に書き続けるアレンは私に気がついていないようだった。


「レオ・ヴィクター……。クソ、いくら調べても身元が分かんねえ。うちのコネをここまで使っても名前すら出てこないって、一体どういう事だ……??」



ブツブツと呟くアレンが何を言っているか私は聞き取れなかった。


「……ねえ!!アレン!!」

「……え?ティア??」


アレンは余程驚いたのか自分の頬を抓りあげている。

私は続けて言う。

「アレンが学園をここ最近ずっとサボっているから気になって来てみたのよ」


「え、ひょっとしてお前……抜け道を使ったのか??」


アレンは泥だらけの私を見て理解したようだった。

しかし、アレンの目の下にはクマがありいつもの覇気がない。ひどくやつれているようだった。


「そうよ。あと、これ。……今日学園祭だからおサボり幼なじみに、私からありがたいお土産よ」


そう言ってポケットから甘いお菓子を沢山取り出す。それらを全てアレンの手に持たせると、アレンは呟いた。


「ごめんな、ティア。」

「え、なんで?いいわよこれくらい」


アレンは顔を歪めながら言う。


「そんな泥だらけになるまで俺に会いたかったんだよな。俺、ずっと休んでてごめんな。トモダチがいない学園なんて行く意味が分からなくて辛かったよな。あの目隠れ野郎との昼食なんて想像するだけで気持ちわりぃよな。でも俺とティアの将来の為だからもうちょっとだけ我慢してくれ……な?」



お、おお。アレンの聞き取れないマシンガントークに私は若干引きながら「え、ええ」と答える。


長い間人と接していないと、そりゃ人と話したくなるわよね。

前世のお隣のおばあちゃんも、旦那さんが亡くなってからは誰かと話すのが大好きなお喋りになっていたなぁ。

幸い、レオとの約束までだいぶ時間がある。

仕方ない。


優しい幼なじみがお喋りに付き合ってあげようじゃあないか!!



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