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第九話 滝音 ハル

 今日から転入初日、学習面に心配はないけど、クラスメイトと仲良くなれるか心配かな。

 今まで私服で学校に通ってたから新しい学校の制服は、なんだか身が引き締まる感じがする。

 制服を着て毎日仕事をしてる使用人さんは毎日こう言う感覚なのかな。


 私のお世話をしてくれている日村さん。

 最近、妹のアキのイタズラに毎日付き合ってもらってるから疲れてるのかしら、難しい顔をしてる。

 そんな過酷な労働の中でも、いつも丁寧に見送ってくれる。私の方こそ、頭が上がらないわ。

 日村さんって不思議な人よね。

 島田さんと会話されてるのを見ると、たまに自分のことを「オレ」って男の人みたいな事を言うの。可愛らしい女の子が「オレ」って言うのは、不思議な感覚だなぁ。


 でも、すごくいい人だから。


 あれ?学校過ぎちゃった...。


「運転手さん?学校過ぎましたけど、どうかされましたか?」


「あんたは誘拐されてんだよ、世間知らずのお嬢様。」


 バックミラーに映っていたのは、女性運転手さんではなく、長髪のカツラを被った私の苦手な野蛮な見知らぬ男の人だった。

 

 私はここで記憶がなくなった。

 

 目覚めた時は、両手両足は紐で結ばれて、声を出さないように口にガムテープを貼られていた。

 十一年前と一緒だ。

 周りを見渡すと、砂埃で汚れている廃墟だった。新しい制服が、砂埃で汚れてしまった。

 日差しが強く、空調設備がないため空気が皮膚に刺激を与えるほど暑い。この日差しの強さからして、誘拐された時間からまだそんなに時間は経ってないみたい。

 

「お目覚めのようだな...喉渇いただろ?口移しで水飲ませてやろうか...けけけけ」


 私を車で誘拐したあの男ともう一人男が座っていた。


「いいなぁ、俺にもやらせろよお」


 どうして男の人ってこんなに野蛮で、乱暴で汚らわしくて悪いことばかりするの?

 

 男の人って大嫌い!


 ガタガタガタ...ダン


 私の背後から大きな物音がして、何か大きな物体が落ちる音がした。


「いってええぇー...そ、そこまでだ!」


 派手に転げ落ちてきたのは、砂埃まみれの日村さんだった。


「お前ら、うちのお嬢様になんて事しやがんだ!オレが許さん!」


「何だオメー?随分ブスなメイドだなぁ?」


「一人できたのか?アホか?痛い目に合いてーよーだな!」


 誘拐犯の1人が日村さんのお腹に向かって、膝を強打させ、日村さんはその場に倒れた。倒れた日村さんを二人がかりで踏みつけている。彼らは笑っていた。


 女性に暴力を振るうなんて...もうやめてよ!

 見てられない光景だった、私は怖くて何もできない。ただ、ガムテープで塞がれた泣き叫ぶ声を男たちに聞かせることしかできなかった。


 「こんなもんかよ...」


今にも消えてしまいそうだけど、はっきりとその問いは聞こえた。


「こんなもん、うちのお嬢様のイタズラと藤原教官のしごきに比べたら...全然屁でもねえ!」


 乱暴な言葉と共に立ち上がって、今まで見たことない鋭い目をしながら日村さんは男たちに向かって言葉で噛みついていた。


「お前らのような野蛮で乱暴で汚い奴らがいるから、男=犯罪者みたいなクソ方程式が植え付けられちまうんだ!!健全で紳士的な男まで嫌われちまうんだよ!!」


「なんだ?コイツ?」


「だから、オレは暴力に屈しない!何度だって立ち上がってやる!!お嬢様に本物の男ってヤツを見せてやる!!」


 日村さんの勇敢な姿勢とその言葉は私の中にとても響いていた。

 たしかに私は、男の人は全員野蛮で乱暴な人達だと思っている。全員そうではない事は、心のどこかではわかってはいたけれど、私は、紳士的な男の人を知らなかったし、知ろうとしてなかった。

 日村さんの言葉は、私を大きく動かそうとしてくれた。


 突然、廃墟の窓ガラスを身体で突き破って突入してきたのは島田さんだった。島田さんは、映画のスーパーヒーローみたいな軽やかな着地だった。普段の華奢な島田さんからは想像できないほどの豪快さだった。


「遅くなってごめんね!カズ...くん?」


「なんだテメーは!?次から次へと変なヤツばかり来やがる!」


 島田さんは、足跡まみれの日村さんをじっと見た。島田さんから今まで聞いたことのない音が聞こえ、それは拳を握る音だった。


「お前ら!俺のカズに何してやがんだあー!」


 もう一人男の人がいるのかとおもった。周りを見回しても、島田さんしかそこにいない。私が聞いた声は、地面が唸るような成人男性の声だった。


「な、何だテメェは!?」


「許...さん...!!」


 島田さんは、唸る拳を突き上げ、片手だけであっという間に犯人を取り押さえた。


 島田さん...強い...!


 サイレンの音が鳴り響いて、犯人達は逮捕され、私は救急車に運ばれた。後に事情聴取を受けて、一旦この事件は幕を閉じたのでした。


 あの後、日村さんはあんなに怪我をしていたのにも関わらず、病院に行かなかったみたい。

 何もないといいけど。


 私はどうしても日村さんと島田さんにお礼が言いたくて、退院後二人に会いに行った。二人は、使用人控え室にいた。ノックをしても返事がなかったのでドアを開けた。


「カズくん、軽い打撲で済んだからよかったね。このくらいで済んだのは受け身が上手なんだね。あー背中のアザひどいね。でも、なんて可愛い背中なんだろう、見惚れちゃう。」


「やめろよ!早く湿布貼ってくれよ!」


「あの...日村さん...島田さん...あ、あ」


 私は見てしまった。

 メイド服を腰まで下ろし、上半身が露わになっている日村さん。その日村さんに島田さんが湿布を貼っている...。

 こんなこと言うのは恥ずかしいけど、日村さんの胸は、普段はふっくらとしているのにそこにはまっすぐ平な胸があって、島田さんがなぜ日村さんを“カズくん”と呼ぶのか...。

 日村さんと島田さんは私を見て驚いた顔をしている。


「ハルお嬢様...あの...これには...」


 私は、今までの日村さんの言動が走馬灯のように駆け巡り、あの時の“本物の男”に納得してから大きな声で叫んだ。


次回

3月9日(火)12時更新予定

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