第五話 たきおん あき
4月×日
新しいクラスになって、なかよしの子とはなればなれになっちゃった。
学校も家もつまんない。
4月○日
またメイドがやめた。
あのおばさん、ぜんぜんおもしろくなかった。遊んでもくれないし、話もつまんない。
あたしのトラップのことをくだらない物って言ってきた。
5月□日
新しいメイドがやってきた。
ヒム子って変な名前だからすぐに覚えた。
あたしがこの名前だったら、死んだ方がマシだと思う。
見た目は、ちょーダサイ。見上げたとき、アゴがほんのり青いの。なんかイヤ。
追い返してやろうと思って色んなところにトラップをしかけた。
どうせすぐ辞めちゃうんだから。
しさくひん びりびりちゃん せいこう
6月×日
このメイドは、今までのメイドとはちがう。
やられてもやられても、すぐ立ち上がってまたトラップに引っかかる。頭が悪いメイド。でも、おもしろいメイド。
すごく楽しい。
ぬるぬるちゃん ろうかAブロック せいこう
6月□日
・壁
・滑り台
・部屋
ふりこちゃん1号 ろうかBブロック ふはつ
7月△日
どんなにトラップに引っかけても、なんかスッキリしない。さびしいな。1まいしかない家ぞく写真を見ていても、あたしには家ぞくの思い出が少なすぎる。
おとしあな3号 おにわ Gブロック せいこう
おとしあな4号 おにわ Hブロック せいこう
おとしあな5号 おにわ Iブロック せいこう
ビリビリちゃん4号 せいこう
ヒム子は頭が悪い
8月○日
みんなが帰ってくる。すごくうれしかった。こういう世の中だから、すぐには帰ってこれないらしい。待ち遠しいなぁ。
かいだんすべりだい かんせい
ドアノブびりびり せいこう
ふりこちゃん3号 せいこう
8月□日
みんなが帰ってきた。
すごくうれしいけど、
みんな、あたしのことを聞いてくれない。
おうちに家ぞくがいなかった1年、どんな事があったとか、学校のこととか、ヒム子のこととか。
やっぱり、ゆうしゅうなお姉ちゃんの話ばかり。
あたしの知らない昔の話ばかりで、その話何回も聞いたよ。
話にも、思い出にも、あたしはいない。
とうめい人間だった。
ココにいるのに誰も見てくれない。
だから、こまらせてやろうと思う。
あたしは明日、家を出る
っていう
トラップをしかける！
ドアはりせん せいこう
かいてん式 かべおとしあな せいこう
ビリビリちゃん5号 せいこう
・朝起きてベッドの上に手紙を置く
・家中のトラップの中にかくれる
8月△日
あたしのトラップがかんぺきすぎたせいで、だれかが引っかかって、いばしょがバレちゃった！
オトメルームは、絶対バレないと思ったのに！
お母様はカンカンにおこってた。
なんて答えていいかわからない。
色んなきもちがまざってまとまらなかった。
あのヒム子がお母様たちに言ってくれた。
ヒム子はあたしのこと、ずっと見てくれてたんだね。
じみで変な名前で、あごが青いけど、あの時のヒム子はかっこよかった。
夕食はあたしの話をたくさん話した。
学校のことや、ヒム子が頭が悪いって事とか。
ヒム子って一体何ものなんだろ。
ヒム子の事って何も知らないな。
ヒム子が来てから、毎日楽しかった。
ヒム子は頭が悪いけど、私のトラップを貶したりはしない。
本人の前では言いたくないけど、ヒム子大好き。
8月×日
ふりこちゃん1号 せいこう
ふりこぺんき缶1号 ごはつ
ヒム子、死す
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「ねぇ、ヒム子ぉ。ちょっとこっちにきてよ。ヒム子のお話ししてよ。」
あたしは、ヒム子のこと何も知らないから、おやつの時間に聞いてみた。
「その手には、引っかかりませんよ...」
また頭の悪いことを言っている。
「そうやって近づけて、トラップに誘導するつもりですか？」
ヒム子は、振り向いてめっちゃダサい丸メガネを光らせて、変な笑みを浮かべていた。
ちがうのに！
「お嬢様のトラップは、ワンパターンですね。流石に、ひっかかりませんよ。どうせ振り子かビリビリですよね。はっはっは。そんなことよりもお嬢様、学校の宿題は...バフっ」
頭にきたあたしは、持っていたクッションをヒム子の顔に目掛けて投げた。
もう、知らないっ！
「これでわかりましたよ...くくく。やっぱりトラップだったんですね。トラップがバレたからって、ムキにならないでくださいよぉ〜はっはっは。ここに、落とし穴ですか？一歩も動きませんよ〜。」
やっぱり、ヒム子は頭が悪い。
次回
3月5日(金)12時
