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第十九話 家族


 オレが部屋から出るとそこには穣さんがいた。


「か、一馬くん?」




 姉ちゃん、ごめん。

 オレのせいで縁談が...



「コトリさんから聞いてるよ。末廣さんのところで使用人の仕事してて訳あって女装してるって。こうしてお化粧をすると、コトリさんにそっくりだね!」


 なぜそれを穣さんがというよりも、姉ちゃんが知ってたことに驚いた。



「もしかして、仕事しながら顔合わせ来てくれたのかな?ありがとう。」



 オレは、怒られても仕方ないことをしているのに...自分たちのことよりもオレの仕事のことを察してくれた。



「申し訳ございません。まさか、日程が重なると思ってなくて...二人の一生で一度の大事な日なのに、オレは...」



「一馬くん。僕はコトリさんの家族思いなところや一生懸命仕事をする姿を見て一緒になりたいと思ったんだ。君も家族も大事だし仕事も大事にする。断ろうと思えば断れた。君はコトリさんと同じで、人に対する思いが強いからね。断れなかったんだろうな。」



 オレは恥ずかしくなった。

 初めて会ったのに、この短時間でオレのことをよく見てくれて...考えてくれて...。

 ホント、姉ちゃんは良い人を見つけたよ。

 ホント、オレ達は人に恵まれてる。


「一馬くん、ご挨拶遅くなりました。この場所で大変申し訳ないのですが.....コトリさんを一生大事にします!コトリさんとの結婚をお許しください!」


 ここはホテルの廊下。

 穣さんは、土下座をしている。


 オレは、なんてことをしてしまったんだ。

 本来なら、きちんとした場所で挨拶をするつもりだったのだろう。わけわからん場所でわけわからん女装した義理の弟に頭を下げさせてしまった。申し訳ない。


「穣さん、頭を上げてください。穣さん、ふつつかな姉ですが...どうぞ...よろしくお願いします...。姉ちゃんを幸せにして...あげてください!」


 

 オレは、泣きながら土下座をした。

 頭が上がらないのはオレの方だ。



「ありがとうございます...。なんだか僕まで泣けてきたよ...。一馬くん、ここは任せて、仕事に戻りな!具合が悪くなったから帰らせたと伝えておくから。大丈夫。コトリさんにもうまく伝えておくから!一馬くん、頼りない義理の兄だけど、これからよろしくね!」


 姉ちゃんが選んだ理由がとてもわかった。

 こんなに真面目で律儀で優しい人はなかなかいない。


 涙でメイクがぐちゃぐちゃになったから、直してアキお嬢様のバースデーパーティーへ戻った。



「どこ行ってたのよおおおお!もうパーティーは終わりよ、ヒム子!どうしたの!?目が真っ赤だよ!」



「花粉症です。」



「え?十月なのに?」



「何かしらのアレルギーが出たのかもしれませんね!カズくん?」


「なんで島田は、ヒム子のこと“カズくん”って呼ぶの?」


「えーっと、それは...“数が数えられないから”...です。」


「キャキャキャ!!ヒム子は頭悪いもんねぇーーー!」





「あの!皆様、大変申し訳ございません!大事な用があるのでこちらで失礼させていただきます!」




「え!?あたしの誕生日よりも大事なことって何よ!」



「アキお嬢様、申し訳ございません!家族のところに行かなくては...たった一人の家族のところに!だから...。」


「ひ、ヒム子...!?......わかった。早く行ってあげて!」


「ありがとうございます!」


 アキお嬢様に寂しそうな顔と気を遣わせてしまったのは申し訳ないと思った。



 オレは、必死になって姉ちゃんのところに走って行った。



「姉ちゃん!」



「一馬?あんたなんつー格好してるのよwww」



 穣さんのご両親が帰った後のようだ。

 穣さんと二人でいた。


「姉ちゃん、ごめん!オレ、姉ちゃんの大事な日に...たった一人の家族のために...仕事休めなくて...ごめん...。本当にごめん...」


「何言ってんのよ。そんな格好でwww私にそっくりすぎて笑うんだけどwww大丈夫よ。穣さんがフォローしてくれたから。ホント、賢くない弟を持つと苦労するよ...でも、一馬。あんたは、最高の弟よ。使用人として他人のためにここまでして一生懸命になれるんだもんね。誇らしいよ。」


「姉ちゃん...ありがとう!オレも姉ちゃんが誇らしいし、姉ちゃんがオレの姉ちゃんでよかった!!幸せになってな!」


「あったりまえよ!あんたも早く結婚して甥っ子姪っ子見せなさいよ!これからもずっと家族なんだからね!」


「穣さん!ありがとうございました!どうぞよろしくお願いします!!」



 こうして【ダブルブッキング】は、とんでもない方向へ行ったが、終わった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「お姉ちゃん、ヒム子って家族が一人しかいないって言ってたけど...。」


「そうね。日村さん、あまり自分のこと言わないから知らなかったね。」


「パーティーに最後までいてくれなかったのは寂しかったけど...ヒム子があんな悲しそうな顔でお願いしてくることなんてなかったから。」


「今までどんな苦労をされてきたのかしら。」


「思い出をたくさん作るためにって、コレをくれたけど、あたし達でヒム子に何かしてあげられないかな?」


「そうね...何かしら...私達にできることって。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日

 寒々とした空の下、冬がすぐそこにきている。今日もこの屋敷でハルお嬢様とアキお嬢様の使用人として働く。


 仕事があるっていうのはいいことだ。うんうん!



「ヒム子!」


「アキお嬢様、昨日は大変申し訳...」


  アキお嬢様がいきなりオレに抱きついてきた。


「ヒム子...あたし達も家族だよ。なんで家族が一人しかいないのかはわからないけど、あたしはヒム子の家族だよ?だから、一人で苦しまないでね。」


 いきなりどうしたんだ?

 昨日のか...。

 あの取り乱し感やばかったもんな...そりゃ心配させちゃったよな。


「ご心配をおかけして、申し訳ございません。そのお言葉を頂けただけで嬉しいです。」


「日村さん...私達、日村さんの事何も知らなかったから...。何かお手伝い出来ることがあれば言ってください!」


 ハルお嬢様の心配そうな表情は、とてもオレの胸が痛かった。

 この二人にこんな顔をさせちゃ、使用人としてダメだよな。


「そうだよ!カズくん!ボク、知らなかったよ!ご両親が交通事故で亡くなったなんて!」


「「え!そうなの!?」」


 さすが姉妹だ。息ぴったりの反応だ。

 悪気はないのだろうけど、オレは島田くんに余計なことを言うなよと思ってしまった。


「アキお嬢様くらいの時かな交通事故で亡くなりました。オレも同乗してたらしくて...実は、その時の記憶だけ喪失してて...この話はやめて明るいこと考えましょ...!」


「ワタシ、ことりんのところを優先しなさいって言ってあげられなくてごめんなさい...」


「ヒムラ、お前変態のくせに...お前の愛情の原点は家族にあったんだな...」


 五人は泣いていた...自分のことのように。


「う、うぅ...なんで言ってくれなかったの?ヒム子〜。」


「言う必要はないと思ったから...です。」


「辛い過去を...日村さん、ごめんなさい...。」


「...中学で地元戻った時に、カズくん引っ越してたのは...そういう事だったんだね...。」

 

 オレの事でこんなに悲しんでくれてる。

 ホント、オレは人に恵まれてる。

 こんなに優しい人たちに囲まれて、感謝しかない。


「島田とヒム子ってどんな関係なの?」


「ボクとカズくんは恋」


「幼馴染です。」


「ヒム子ぉ...あたし達とたくさん思い出をづぐろゔね...!」


 オレは、この五人が泣いてる光景が面白かった。

 写真を撮って、アキお嬢様のデジタルフォトアルバムに入れておいた。

 

次回


3月19日

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