第十七話 十月二十六日
末廣さんが“なっちゃん”だったとは...。
なっちゃんは、姉ちゃんが仕事で家にいない日にオレの面倒を見てくれたお兄さんだった。
子供ながら、不思議な雰囲気があるなと思っていたがすごく優しくて料理も上手だっから大好きだった。
よく怪我をして帰ると、オレの傷には見合わない、ヒーローマンの絆創膏を常備していて貼ってくれた。
代表取締役なのにオレみたいな新入社員にこんなによくしてくれるのはたしかに話が良すぎるよな。
久々の再会が女装だったことで何か誤解を招いてしまっているのではないかと聞くに聞けず。
姉ちゃんの結婚の話は、嬉しかった。
両親が九歳の時に死んで、姉ちゃんが親の代わりに育ててくれて、大学まで通わせてくれて。とても感謝している。
オレがいなければ、姉ちゃんは苦労をせずに幸せになれたのではないかと思ったこともある。
姉ちゃんは、以前「あんたがいたから、ろくでもない大人にならずに済んだ。」と言っていた。
姉ちゃんらしくて、かっこいい。
「そうそう、顔合わせのことなんだけどさ、十月二十六日にやろうと思ってて、この日仕事休んでもらえるかなって。那由他どう?」
「ことりんの一生で一度の大事な日でしょ!何としてでもお休みにするわよ!」
「つーことで、一馬。十月二十六日よろしこー」
オレのスケジュールは、末廣さん管理なのか...。この日はなんかあった気がするんだよな...。
「会場は、覇王ホテルの個室レストランだから、ちゃんとした格好で来なさいよwww」
ちゃんとした格好?
もちろんドレスコードがあるだろうから、そりゃスーツで行きますよ。
姉ちゃんは、一体何が可笑しくて、語尾に草を生やしてるのかオレにはわからなかった。
そして、季節は十月中旬。
あのオトメルーム事件以降、屋敷を改造したトラップ禁止令が出ているので、アキお嬢様は退屈そうだった。
「あーあ、もっと安全性があればこんな退屈なことにならなかったのに!ヒム子、何かいい案ないの?」
「今は、トラップの勉強をする期間だと思って、色んなカラクリを勉強してみてはいかがでしょうか?」
「ヒム子にしてはいい提案ね!じゃあ、教材持ってきてよ!」
提案してみたものの、トラップの勉強になる教材かあ...。そういえば、アキお嬢様くらいの子供がトラップを仕掛けて悪者を懲らしめる映画があったな...。
「面白い映画があるので、こちらを参考になってみてはいかがでしょうか?」
アキお嬢様にその映画をお勧めすると、見事にハマり、その主人公の子供のことを“師匠”と呼びはじめた。
「ヒム子にしては、なかなか面白い映画知ってるじゃない!そんなヒム子には特別に、あたしのバースデーパーティーにご招待しちゃう!」
「ありがとうございます。たしか、アキお嬢様の誕生日は...十月二十六日....ああああああ!!」
オレはやってしまった...。
そうだアキお嬢様のお誕生日だった!
アキお嬢様のお誕生日会は、サプライズをするからということで、奥様からもお誘いがあったのを忘れていた。
「なによ!急に大声出して!」
「申し訳ございません...。」
「あたしのバースデーパーティー来れないって言うの!?」
「いや...違うんです...その、」
「もう!覇王ホテルの個室レストランでやるから必ず来てちょうだいね!あたしとの約束よ!」
末廣さんに相談しなきゃ!!!
「あらそうだったわ!!アキお嬢様のお誕生日よね。あらあら。」
あらあらじゃないっ!
「幸い、同じホテルですから、仕方ない...。部屋を一室借りて、着替えて行き来するしかない。」
「これはワタシにも責任があるわ!ひむりん、ごめんね!ワタシも全力でサポートするわ!」
今更、行けないなんて言えない...。
末廣さんと緻密な作戦を練って、【ダブルブッキング】をなんとか対応することになった。
日村一馬と日村ヒム子がごっちゃにならなければいいのだが...。
次回
3月17日(水)12時更新予定