表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

第十四話 【ハルお嬢様使用人争奪戦】閉幕


「カズくん!」


「なんで...島田くんが...?ハルお嬢様は?」


 オレの目の前にいるのは、ハルお嬢様の格好をしている島田くんだった。


「私はここにいます!」


 マイクから伝わる声は震えていた。

 会場の中心に設置されているリングに目を向けるとハルお嬢様が泣きそうな顔で立っていた。


「はあああ!!よかったあああああああ!!」


 ハルお嬢様の無事が確認できてオレはその場に倒れ込んだ。


「Ms.スエヒロ!どう言う事ですか!?」

 

「エリオちゃん、あなたの負けよ。決闘を申し込んだ時点であなたは負けたのよ。使用人としてそして一人の女性としてね...」


 エリオは、負けと言われて悔しかったのだろう、その場に崩れた。


「ハルお嬢様は“物”じゃないの。あなたの自分よがりの言動は、愛ではないわ。愛って言うのはね、相手に強引に認めさせるものじゃないのよ。愛に呪われてはダメよ。」


 オレは末廣さんがエリオに何を言っているのかわからなかった。

 愛だの何だの、オレにとってそんなことはどうでもよくて、ハルお嬢様に失礼な問題やらトラップやらの方がどうかしてると思った。


「エリオちゃん、あなたがハルお嬢様を愛しているのはよくわかったわ。あなたは、愛があるから、全て捨ててここまできたんでしょ?」


「うぅ...ワタシは、ハルに...愛されたかっただけなのに...」


「振り向かせるより、自分が振り向く立場になるくらい魅力的にならないと!」


「今のお言葉...ボクにも刺さりました...ボクもカズくんを追い越して振り向く立場になれるようにがんばります!」


  末廣さんの言葉は、エリオだけでなく、島田くんにも刺さったようだ。


 このわけわからん争奪戦は、幕を閉じたのである。


 後に分かったことは、全てこの争奪戦は、末廣さんの策略だったそうだ。カメラはダミーで、歓声は録音、観客は手の空いていた使用人たち、無礼な問題と演出は、滝音家の了承を得ていたらしい。

 最後までトラップアスレチックをやらなかったことに対して、発案者のアキお嬢様はだいぶご立腹のようでした。

 


 ここまでする必要はあったのだろうか...。



 末廣さん的には、争奪戦の案が出た時にオレにビシッと言って欲しかったらしい。

 この争奪戦に対して違和感はものすごくあった。

 だけど、末廣さんが一番張り切ってたじゃんか!


 

「ひ、日村さん!」



  珍しくハルお嬢様から話しかけてくれた。男と知ってから避けられがちだったから、この進歩は嬉しい。


「この前は、黙っててごめんなさい!日村さん、とてもかっこよかったです。」


 オレと目を合わすのはまだ難しいらしいが、ハルお嬢様は耳まで真っ赤にして、あの日の活躍を誉めてくれた。


「ハルお嬢様がご無事でよかったですよ。あの時は、本当心配しまし...」


 オレの語尾が突然失われた。

 エリオがオレの顔面を大きな手で掴み、指が顔に沈んでいく。


「【コンプラ】変態野郎、今回はワタシの負けだが、お前のハルに対する愛情を見習ってハルに追いかけてもらえるように努力する。ワタシを弟子にしろ。」


 これが弟子として入門する態度か...?

 

「ハル、ワタシは、ヒムラに負けないくらいの愛情を身につけて、振り向く立場になってみせるからね!」


 指と指の間から見えた、エリオの笑顔は、とても可愛かった。

 

「いいねいいね!やっぱり身分の違った恋愛はいいね!キャキャキャ」


 独特な笑い声のアキお嬢様が割って入ってきた。


「あたしは応援してるよ!それとさぁ、ずっと聞きたかったんだけど。エリオちゃんがヒム子に“本当に男か?”って言ってたけどあれは何?」

 

 アキお嬢様の純粋な質問が空気を凍らせた。


「ななな何、おかしなこと言ってるの?さあリビングに行きましょ!」


 慌ててハルお嬢様が階段を降りようとした時、オレはとても嫌な予感がした。




 ガタン




 階段の段差が素早く傾斜となり、あの階段滑り台と変形した。

 ハルお嬢様が足を滑らせて、滑り台に吸い込まれるように倒れていく。


 この時のオレはとても冴えていた。


 ハルお嬢様の頭を守るように自分の胸に寄せて右手でハルお嬢様の後頭部を守り、左手はしっかり、ハルお嬢様の体を抱きかかえた。

 自らが受け身をとれるように、ハルお嬢様を上に向けるように回転した。

 叩きつけられた背中に痛みはなかったと言うよりも痛みなど気にしていられなかった。

 そのまま滑り落ち、壁にぶつかるも壁は回転式になっておりどこかに繋がっていた。

 壁の向こう側へとオレ達は消え、階段滑り台はまた通りになり、壁も本来の硬い壁に戻った。


「ハル!!」


「え?なんで!?ヒム子の体重で反応するようになってるのに!!誤作動起こしちゃったみたい!」


 オレは必死でハルお嬢様を抱えた。暗闇の中、ボブスレーのコースかと思うくらいの滑らかさと激しく左右に揺れ流れ落ちていった。

 このまま何事もなく落ちるだけならいいのだが。



 その考えを打ち消すように、何かに激突し、オレは気を失った。

次回

3月15日(月)12時更新予定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ