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第十三話 【ハルお嬢様使用人争奪戦】開幕

 【ハルお嬢様使用人争奪戦】の前日、藤原教官から電話がきた。


「久しぶりだなぁ!お前の活躍は聞いているぞ!主人に仕える者に男も女も関係ない!これは、平等に与えられた使命だ!健闘を祈る!」


 一方的な会話だったが、オレの心にとてつもなく刺さった。


 そうだ、男も女も関係ないーー。


 オレは、ハルお嬢様とアキお嬢様の幸せを望む、それだけだ。

 決闘で使用人を決めるなんておかしい。

 使用人を決めるのは、末廣さんと滝音家だろ?

 オレはこの決闘に違和感を感じたが、会場に到着した。


 決闘とはどんなことをするんだ...?


 かなりお金かけてるな...こんな大々的にやらなくてもいいのに...しかもここは...


「懐かしいなぁ〜!!ボクもここでよく試合したなぁ!」


 いつのまにか島田くんがオレの右隣にいた。


「カズくん、ごめんね!この前はエリオさんを応援するって言ったけど、負けちゃったら、一緒にお仕事できないんだよね...ボクそんなの嫌だ!負けないでね!カズくん!」


 可愛らしい顔が、オレの顔にコツンと当たりそうなくらい近づいてきた。

 待て?負けたら一緒に働けないって...職を失うのか?


「あ、ありがとう。」


 やはり、違和感だけが残り、会場に入った。




「皆様、お待たせ致しました!!【ハルお嬢様使用人争奪戦】開催いたします!」


 

 ド派手にライトアップをされて、花火が噴水のように吹き上がる。

 会場の中心にはリングが設置されている。

 中心に向かって入場の合図がでた。


「にぃーーーーーーしぃーーーーーー!!ヒームーコーひいいいいいぃむううううううぅるああああああああ!!!」


 このクセ強アナウンス、これから格闘技の試合が始まるのだろうか。


「ひぃーーーーーーがーーーーーーしぃーーーーー!!エーリーオーるおおおおおおおおおおんぐこおおおおおおとおおおおおおお!!」


 湧き上がる歓声と黄色い声。

 ここからはっきりと見えるわけではないが、なぜ観客がいるのだろうか。

 このご時世にどこから集めたんだ...?

 無名の使用人の争いに誰が興味あるんだ。

 カメラまである、これから何が始まるんだ。

 何も準備してこなかった。

 決闘を引き受けたことを後悔し始めた。

 こんなことになるなら、普通に仕事していたかった。


 エリオは、美しい顔が台無しなほど恐ろしい形相でオレを睨みつけている。

 司会進行及び審判は、末廣さんが務める。副審判は、藤原教官だ。

 滝音夫妻とアキお嬢様は、特別観覧席で観ている。


「それでは、三番勝負!第一試合!【ハルお嬢様クーイズ!】」


 このリングの意味あるのか?

 リングには、テレビで見るようなモニターが付いている座席がそれぞれ用意されて、クイズの回答が映し出されるようになっていた。

 



 第一問

 ハルお嬢様の誕生日はいつ?




 こんなの簡単だ。答えは「四月二十日」だ!

 書いた答えが足元のモニターに映る。


「両者、正解!」


 このレベルの問題なら、全問いける!そんな気がしたが...




 第二問

 ハルお嬢様のお気に入りの入浴剤は何?




 は?いきなり難易度上げてきやがった!オレが知るわけが無いだろ!男のオレがハルお嬢様のお気に入りの入浴剤を知ってたら引くだろ!!

 でも、思い出せ...ハルお嬢様の匂いを...ってオレは何を考えてんだっ!お嬢様の!しかも未成年の!匂いとか...ああああああああああ!!


「タイムアーーップ!両者の回答をどうぞ!」


 足元のモニターに答えが映し出される。





 オレの答えは「薔薇の入浴剤」...だ。





「両者、正解!!」


 正解した喜びなどなく、罪悪感だけが残った。

 ハルお嬢様、どうかこの変態をお許しください。




 第三問

 ハルお嬢様が男嫌いになった理由は?





 ...おい...末廣さん、何考えてるんだ?この問題は、いくらなんでもダメだ...。こんなセンシティブな事を問題にするなんて...こんな大勢の人の前で!!

 オレは回答をしなかった。



「エリオちゃん、正解!」



「そんなことも知らないのか?お前にメイドなど務まらん。さっさと負けを認めて、おうちでママに慰めてもらいな!」


 エリオに嫌味を言われても、悔しくはなかった。


 この後の問題は全然覚えていない...。

 この決闘に対する違和感が増す一方だった。



 このまま何も答えず、一回戦は終わった。

 もちろん、エリオが勝った。




「第二試合【アキお嬢様のトラップからハルお嬢様を守れ!】」



 巨大なアスレチックがリング場外に設置されていた。アキお嬢様監修のトラップアスレチックだ。


「使用人たる者、お嬢様を危険から守らなければいけません!五つのステージをクリアして、どちらが先におハル嬢様のところに辿り着けるか、先にゴールできた者が勝者です!」



 ゴールはかなり遠く離れている。ハルお嬢様の姿は、顔が見えないほど遠すぎる。

 なんだか嫌だな。あんなところに置き去りにして、ハルお嬢様をビーチフラッグのフラッグとして考えてるみたいで...。



「両者の妨害は認めます!」



 スタート地点にエリオとオレは立っているが、ソーシャルディスタンスすぎて妨害できない。

 

 「スタート!!」


 五十メートルほどのランウェイを走り出そうとした、その瞬間。

 エリオがスタートと共にオレに体当たりをしてきた。

 オレは、あっさり場外へ。

 なんとしてでも勝ちたいと言う気持ちが転落した痛みと共に伝わってきた。


 数々の鉄球の振り子が走りを妨げる。

 第一ステージはふりこちゃんだった。


 エリオは、見事にかわす。どんな身体能力をしてるんだ!


 場外に吹っ飛ばされたオレはやっとの思いで、ランウェイに上がり、ふりこちゃんへと向かう。

 オレはトラップに飛び込んでいるかのように、ふりこちゃん達にボコボコにされる。

 毎日のように引っかかっているから受け身は抜群なのだが...一気にエリオに差をつけられる。


 ふりこちゃんを抜けると、階段があった。この階段の仕掛けは予想がつく。

 エリオは、階段を五段ほど飛ばしながら進み見事に突破した。

 オレは、そんな身体能力はない。せいぜい四段だ。四段目に足をかけると階段は滑り台へと変わり振り出しに戻される。

 


「階段も登れないのか!本当に男なのか?情けないお前に、ハルの使用人は務まらないね!」



悔しいが、この情けなさは認めざるを得ない。



 第二ステージの階段滑り台を気合で乗り越え、先に行くエリオの後を追いかける。



「ヒムラが弱すぎて、妨害するほどでもないな!」



 妨害をしてまで勝ちたいと思う気持ちが理解できない。

 



 第三ステージは、ぬるぬるちゃんだった。

 アキお嬢様の特製ぬるぬるちゃんは、何の材料を使っているかはわからない。

 とにかく足元がぬるぬるして歩きにくい。

 これは、エリオも苦戦している。

 なかなか前に進めないし、身体にまとわりつくぬるぬるちゃんは、次のステージにも支障をきたす。


 なかなかこのステージを抜け出すのは、難しい。

 


 そう思っていた瞬間だった。



 会場内は、アラートが鳴り響き、ゴールにいるハルお嬢様のステージ下にはハルお嬢様の苦手な男性の群れがゾンビのようにステージを囲んだ。手を伸ばし、ハルお嬢様に触れようとする。ハルお嬢様は、あまりの恐怖にステージの真ん中でしゃがみ込み、泣いているように遠くからでも確認ができた。



「ハル!今助けに行くからね!」



 エリオは、律儀にトラップをこなそうとしている。


 そうじゃないだろ...。

 オレは、怯えるハルお嬢様を見て、怒りが込み上げてきた。



「ふざけるな!」



 会場は静まり、オレに注目が集まる。



「末廣さん!こんなの...おかしいだろ。こんなので使用人が決まるなら...ハルお嬢様を苦しませてまでこんな試合をするくらいなら...メイドなんて辞めてやる!!」


 オレは、アスレチックを降り、ゴール下にいるゾンビ集団の元へぬるぬるする靴を脱ぎ捨てて走っていった。

 

「お前ら!どけ!怖がってるだろ!やめろおおおお!!」


 オレの運動神経は普通だと思う。この時だけは、なぜか過去に見た事ないくらい、爆速で走っていた。

 ゾンビ集団達を押しのけて、ゴールステージに這い上った。


「カズくん!」


「へ?」


 ステージの中心にいたのは、ハルお嬢様の格好をした島田くんだった。






 この時、オレは思った。

 あの真ん中のリング、本当に必要だったのか?

次回

3月13日(土)

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