第十二話 Elio Longcoat
ハルが、日本へ帰ってしまった。
ハルが日本に帰ることなんて分かっていたが、彼女はワタシに大きな穴を開けていった。
とてつもなく深く、誰も入る事を許さないキミが作った穴。
ワタシは、誰よりもハルを愛している。
ハルに出会う前のワタシは女性を取っ替え引っ替えにして遊んでいた。
女は愛に飢えている。女のワタシだからこそ、女という生物がどんなものか手にとるようにわかった。
数々の女達は言った。
「こんなに愛してるのにどうして愛してくれないの?」
この甘くて重たくも苦しい恋の先にある、“愛してる”は簡単には言うものではない。
だが、彼女たちは自分が愛されたいから愛してると言うのだ。
手に入ってしまったら、恋は面白くないのに。
彼女達は、“愛”に呪われているようだった。
ワタシを満たしてくれる、女などいなかった。
すぐに手に入ってしまうから、つまらない。
そんな時に、日本からハルがやってきた。
ハルは、男が嫌いと聞いて、純粋無垢で実に落としがいのある少女だった。何も知らないからこそ、落とし甲斐がある。
だが、ハルは落ちなかった。なぜだ?
ハルの気持ちが全く見えない。
ハルに「かわいい」と言っても
「エリオもかわいいよ」と言う
ハルに「優しいね」と言っても
「エリオも優しいね」と言う
ハルに「好き」だと言っても
「私も」と言う
ハルに「愛してる」と言っても
「ありがとう」と言う
ハルは、受け入れているようで、全てを跳ね返す。
ワタシも“愛”に呪われていた。
彼女達は、こんな思いをしていたのか。
甘さを与えられず、飢えて苦しい。
ハルに振り向いて欲しい気持ちで、ハルの母国語を覚え、二人だけの世界を作った。
ハルは、男性恐怖症を病として考えたくないということから、男嫌いという言葉に置き換えているように見えるが、ハルは男嫌いではない。
ハルの恋愛対象は、男である。
ストレートな子達でも、ワタシは落とせたのに、ハルは振り向いてくれなかった。
鈍感すぎるせいか、冗談だと思ってワタシの気持ちに真正面から向き合ってもらえない。
だからといって、男になりたいわけじゃない。ワタシは女だから、女であるワタシを好きになって欲しい。
あっという間に、ハルの帰国が決まり、ハルの呪いがかかったままこの国に取り残された。
帰国後は、メールでのやり取りはしていた。
九月の頭、ハルは事件に巻き込まれたらしい。
ハルの使用人が助けたらしいが、なんとこの使用人、女の格好をしたヒムラという男だった。
この【コンプラ】変態野郎がハルの側で世話をしていると思うと、居ても立っても居られなくなって、日本へ行くことにした。
この、ヒムラという男はワタシよりも小さくて、男にしてはまだマシな女装だが、ワタシの方が美しい。
見れば見るほど、憎たらしい。
ハルの男嫌いを克服するために仕込まれた使用人らしいが、なぜそこまでして治す必要がある?ハルは、望んではいない!
ワタシの方が、ハルを愛しているというのに。
ハルとの再会は、胸が締め付けられるほど、嬉しかった。
ハルの匂いも体温も身体の小ささも変わっていなかった。
だが、ハルの心は少し変わってしまった。
「ヒムラの事を悪く言うな」と言った。
あんなに男が嫌いだったのに、なぜ男を庇う。キミにひどい事をしてきた男という存在をなぜ?
あのかわいいハルを変え、ワタシが入ることができなかったハルの心に、すんなりと入っていったヒムラが許せない。
ワタシは、決闘を申し込んだ。
ハルの横に相応しいのはこのワタシだ!
ハルのためならなんでもしてみせる。
あんなヤツに渡さない。
次回
3月12日(金)12時更新予定