「コントロール出来ない日々から逃げたくて -電光掲示板-」
何かを変えたくて、そう思ったわたしは……。
光の文字と数字の群れが流れてくるのを眺める。
次々と目に飛び込んでくる、光の渦と人の波。
ぼんやり眺める。
瞳は文字を追うのに、内容は全く頭に入らない。
人なんか、ただの残像として端から端へと流れていく。
自分は何処へ行きたいのだろう。
何かを変えたくて、自分の生き方を変えたくて、とりあえずスーツケースに荷物を詰め込んで、親の制止を振り切って家を飛び出していた。
行く先も、行く当ても、お金もそんなに無いのに……。
冬の月が登りきる頃、電光掲示板に流れる光の情報の量も少なくなってきた。
白い息がマフラーの間から漏れる。
いつの間にか、人もまばらになった無人駅のホーム。
気付いたらベンチに一人だけポツンと残されていた。
結局、何も変えられないと悔しさに涙が滲む。
黒猫が足元に寄ってきて、「にゃあ」と鳴いた。
「お前も一人、わたしも一人、か……」
腕に、嫌がる様子を見せない黒猫を抱いて目を閉じた。
どれくらいそうしていたのだろう。
目の前に人影が立ったのに気付いた。
何故か開けるもんかと意地を張っていると、
「ほら」
との母の声。
なおも目を閉じたままでいると、ふわりと良い香りが。
思わず、目を開けた。
目の前に差し出されたのは、肉まんだった。
お腹が鳴る。
また、涙が滲む。
「帰ろうか。肉まん食べてから」
母の声が、胸に染みた。
「しょうがないから、肉まん食べたら帰るよ」
わたしは言った。
「お母さんは、あんまんとピザまんとカレーまんとあと肉まんも大好き」
「結局全部じゃん」
「もちろん、あなたが一番大事だけどね」
「…………」
「さあ、帰ろっか。家に」