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第6話 祭礼と雑魚と満月と


 旧陽ノ下家とその周辺には、あれからパッタリ悪さをする奴らは現れなくなった。


 そのため祭礼の催しは和やかに順調に行われている。

 北野家を皮切りに、東野家、南野家、西野家と時計回りに一巡し、陽ノ下家の舞でクライマックスを迎える。

 いつもなら、楽しんでいる人々にやっかみから悪さをしてくる雑魚どもも、今年はなぜか姿を現さない。





 その代わりだろうか、万象たちの時代が騒がしい。


 フリーエネルギーの中継施設に久々に雑魚が現れて扉を壊しているところを、たまたま巡回していた技術者からの連絡で万象たちが駆けつけたり。

 この間の校外学習でせっかく作成した廃材テーブルやベンチをガタガタにしたり。

 畑を荒らしたり。

 それを受けて、また以前のように腕に覚えのある者たちが、順に警戒に当たってくれることになった。万象と四神、鞍馬だけではとても手が回らないからだ。

ケケケケケ

「また来た!」

「こいつらも懲りない奴らだな!」

「よし、行くぞ」

 雑魚は弱いが数だけは半端ないし、それにハシュナが表れてからというもの、いちどに現れる数が増えているような気がする。


 今日も陽ノ下の学びどころへ出勤? する万象を囲むように、ボコボコと道が盛り上がって雑魚が飛び出してくる。

「うお! まったく、どっから湧き出て来るんだよ!」

ドンドン、ドン!

 すかさず銃を抜いて応戦する。

 万象はここのところ、どこに現れるかわからない雑魚どもに対抗するため、トラばあさん特製のホルスターを装着している。

「バンちゃん、加勢するわあ~。ちょうど今、実践練習してたのよ~」

 すると、そこへ飛んできた大きめのドローンから声がした。

 雀だ。

 もともと、彼女の能力は、いわゆる予知のようなものだ。

 なので本人は、戦いの場へ行っても足手まといになるだけな事を、ちょっぴりすまなく思っていた。そのため少し前から執筆の合間に、万象と玄武にシューティングゲームのレクチャーを受けて猛特訓? し、かなりの腕前になっている。


ビイン! ビイン! 

 超小型ドローンが雑魚を狙って飛んで行く。

キュー! キュー!

「すべて命中。雀おばさん、やりい!」

「ありがとお。これもバンちゃんと玄武のおかげよお~」

 そのうち、騒ぎを聞きつけた屈強なおっちゃんが向こうの畑から飛んできて、その場は難なく切り抜けたのだ。


 そしてもうひとつ。

 トラばあさんがちょっとした武器を開発していた。

「それがこれじゃ」

「なんですかこれ? 腕輪?」

「失礼じゃな、ブレスレットと言え」

 トラばあさんが示して見せたのは、二の腕に巻き付いているブレスレットだ。

 よく見ると、なんとも可愛いハートが着いている。

 複雑な表情でそれを見つめて言葉に詰まる万象をよそに、トラばあさんはいかにもご機嫌で説明を始める。

「これはの、お前たちは知らんじゃろうが、その昔のテレビ漫画、キューティー○ニーちゃんが使っていた、対、雑魚用のブーメラン型武器からヒントを得たものじゃ」

 トラばあさんが、ポン、とそのハートを押すと、するりと腕輪が手首の所まで落ちる。

「投げ方はどうでも良いんじゃ。雑魚に確実にあたるよう、あの気味の悪い声の周波数を研究し尽くしてある。今はマトじゃが……、ほれ」

 と、トラばあさんは腕を縦に振るようにしてブレスレットを投げた。

ヒュウン

 軽い音を立ててマトに飛んで行きながら、なんと、ハートがゲンコツに変形した!

ボコッ

 ゲンコツは的に当たってそのまま落ちるのかと思いきや、くるりと旋回してばあさんの手に帰ってきたのだ。そしてまたハートに戻る。

「「おお~」」

「まあ」

 そこにいた万象と龍古、そして玄武は感嘆の声を上げる。

「1回で雑魚が1体、当たり所が良ければ2体くらいは行けるかのお」

「すごい! これ、なんで帰って来るの? 僕もやりたい!」

「おお、これはな、雑魚にあたった後、正確にこいつめがけて帰って来るようになっておる」

 と、手首にとどまっている細いリングを見せる。

「へえ。まさにブーメランだな」

 万象の言葉に、ニイッと笑ったトラばあさんは説明を続ける。

「まあ、こいつは1回投げて1体しか倒せんからの。どちらかというと防御とか、逃げるための隙を作る用じゃ。わしが、もしものためにの、ガハハ」

 豪快に笑うトラばあさんに、玄武が言う。

「でも、僕も使っていいでしょ? もしものために」

「じゃあ、私も持っておきたい。もしものために」

 龍古までが言い出したので、トラばあさんは目を丸くしたあと、またガハハと豪快に笑うのだった。





 そして満月の夜がきた。

 祭礼クライマックスの夜だ。


 2000年前の陽ノ下家特設舞台では、飛火野の剣の舞が始まった。

 彼の舞は優雅と言うより、ひとつひとつの動きにキレがある。クールな飛火野の気質そのままだ。

 剣の一振り一振りが輝く月を反射して、光が舞っているようだ。

「きれい」

 舞台の周りで自然に声が上がる。

 1度音楽が途切れてまた始まる。中央にうずくまっていた飛火野が起き上がり、剣を天に突き出すと、大きな炎が剣から立ち上る。

 目を見張る人々は、飛火野の後ろに一回り大きく影のような炎が舞っているのが見える。

「《こうじん》……」

 人々は誰ともなくその名を口にするのだった。

 その《こうじん》は、飛火野の舞が終わった後、世界を見守るため、時すらない高い天に登り静かに目を閉じる。


 続いて四神が舞台の東西南北に立つ。

 優雅に静かに舞が始まる。

 それぞれが個性的でありながら、すべての連携がとれている、見とれるような舞だ。

 東西南北たちは、その立ち位置がどんどん入れ替わっていく。だが、舞の最後には、元いたとおりの場所に、ぴったりと納まっていた。


 最後に森羅が渾身の舞を舞い始める。





 同じ日。

 万象はちょっとへろっとしながら、とっぷりと暮れた道を、陽ノ下家から東西南北荘へと帰っていた。

 あれから、倒しても排除しても撃退してもデリートしても……。

 まあとにかく、あちこちで雑魚が出てくるわ、出てくるわ。いいかげん腕の立つ者たちも疲弊している。

 もちろん万象だって。

 これがハシュナの魂胆なのだろうか、このまま休みなしに雑魚を送り込んで皆を疲れさせて、戦う意欲をなくすつもりか。そのうち寝る暇すらなくして、皆が倒れていくのをほくそ笑みながら眺めるつもりだろうか。復讐にしてはずいぶんとゆるゆるだけど。

 そんなことを考えながら、ちょうど両家の中間あたりにさしかかる。

「ああ腹減った。雑魚さんよ、今日は出てこないでくれよお」

 ふと何かに気づいて振り向くと、大きな黄色みを帯びた月が昇ってきたばかりだった。

「ああ、今日は満月か」

 つぶやいた万象はしばし思いにふける。

 そういや忘れてたけど、この満月の日に森羅たちが舞を舞うって言ってたな。あーあ、こんなに忙しくなけりゃ、見に行ったのになあ。

 空腹も忘れて、万象は月に見入る。


 そのとき。

ドドドゴオン!

 いつもとは桁違いの音がして、立っている大地が揺れるほどの勢いで盛り上がる。

「うわっ、なんだ!」

 すると、案の定、雑魚たちがわんさと出てきた。

「くそ! 出てこないでくれなんて、言わなきゃ良かった」

 後悔しても後の祭り。

 万象はホルスターから銃を引き出す。


 しばらく雑魚を相手にしていると、少し向こうで土が爆発のようにはじけ飛んだ。

 かと思うと。

「ヴヴ……、ぐうおお……」

 恐ろしげな、と言うより、苦しげな声を上げて、ハシュナが頭を抑えてそこに姿を現したのだ。

「やめろ、やめろお……、感謝、など……、戻るものか!」

 ハシュナはうなるように言いながら、足をドン! と踏みならす。

 キューとそばにいた雑魚が消えていく。

 手練れは恐れて離れていく。

「ハシュナ?」

 驚いた万象が、確かめるように名前を呼ぶと、ハシュナはこちらを振り返る。

「!」

 彼の目は赤く血走っていた。自分を呼んだのが万象だと気がつくと、苦しげな声が憎々しげな声に変わる。

「森羅万象……、万象……、お前が、お前さえ、お前が、いなくなれば……、」

 そう言うと、びゅう! と手を伸ばしてくる。

 すんでの所で逃れた万象だったが、ケケケと嗤う雑魚が彼の足を取った。

「うわっ!」

 倒れた万象に雑魚たちが躍りかかる。


 これは……、超ピンチ、だな。俺1人じゃ、とても太刀打ちできなさそうだ。

 押さえつけてくる雑魚たちを、力の限りなぎ払い。

 信頼する仲間を呼ぶことに、万象は何のためらいもない。

 彼は東西南北荘に向かって、大声で叫んでいた。

「玄武! 一大事だー!」






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