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第3話 落ちぶれた神さまが敵?


 今度の敵は、今までと少し違っていた。



 森羅と万象は、一乗寺から話を聞くと、すぐさま四神を引き連れて屋敷の外へ飛び出していく。

 飛火野は、小トラと桜花、そして大切な使用人たちを守るために陽ノ下の護衛とともに屋敷に残っていた。

 そうこうするうち、雑魚がわらわらと塀の上に現れる。

 護衛たちは刀を手にそちらに向かう。飛火野もするりと《こうじん》の剣を抜いて応戦する。



「いたぞ!」

「万象、近寄りすぎ」

 接近戦は苦手だというのに雑魚の中へ飛び込もうとする万象に森羅が釘を刺す。はっと気がついた万象は、慌ててブレーキをかけた。

「お、おう!」

「まったく、血の気が多いんだから」

 その彼を追い越して森羅は雑魚の真ん真ん中まで走り込み、いつもの羽のような剣を振るう。

キュー、キュー

 と、気持ち悪い声を上げて消えていく雑魚たち。

ケケケケ

ドオン! ドオン!

 死角から襲いかかろうとする卑怯な雑魚は、万象の格好の的だ。

「卑怯者め」

「雑魚に騎士道は通用しないよ」


 もう一つ向こうには、雑魚の他に手練れも現れていた。

 そちらには四神たちが急行している。

「…、…、…」

キュー! キュー!

 耳に手を当てて口を開き、人には聞こえない声で雑魚を追い払う玄武。


「やりますね玄武。私だって」

 一乗寺は板に付いてきた薙刀で雑魚を蹴散らしていく。


「こっちはまかせて」

 手練れには朱雀のペンと、

「こっちもまかせろ」

 白虎の剣で応戦する。


 少し息が上がった頃には、

「皆さん、ちょっと休んで下さい」

 と、青龍が目をカッと見開いて雑魚や手練れを幻惑してくれる。


 彼らの手にかかれば。

 雑魚は薄気味悪い笑い声を発してやってきては、キューっとやられてしまう。

 手練れも少しは骨があるが、四神にかかればあっという間だ。

「くそお、覚えてろ!」

 白虎と朱雀にボコボコにされた手練れが悔しそうに言いながら、消えていく。

「残念。綺麗なお姉さんなら覚えてるけどー」 

 ニヤニヤ笑いながらぐるぐると腕を回す白虎を、朱雀があきれたように見ていた。

 ここまではいつも通りだ。



 様子が違うのは、ラスボスと思わしき者だ。


 これまでなら、悪さするラスボスは大げさに笑ったり、どうでも良いことを長々としゃべったりしながら、破壊や攻撃をしてきたものだが。

 そいつは一言も発せず、雑魚や手練れをけしかけることもなく、ただ奴らの後ろの方で黙って不気味に彼らを見ているだけだ。しかもその顔にはなんというか、生きている感じ、生気が全く感じられない。



 そのうち、雑魚が祭礼に使う飾り物に気がつき、それを壊そうとそちらへ駆けだした。

「あ!」

 最初に気づいた一乗寺が飛んで行って、薙刀を振るう。

「祭礼を邪魔する者は、許しませんよ!」

 続いて朱雀が、また白虎がやってきてそれらを護るように立ちはだかった。

「ほんと! あんたたちにはたいした意味はないでしょうけど、神さまに失礼よ!」

「俺たちは神さまが、だーい好きなんだからさあ」

 そこへ青龍と玄武もやってくる。

「大丈夫、この飾りは僕たちが護る!」


 すると、死んだような目をしていたラスボスの瞳に、わずかに光が灯ったように見えた。

 ラスボスは、「祭礼……、かみがすき?」と、つぶやくように言っていたかと思うと、デンデンと飾り物の方へ迫って行く。

「なんだあいつ!」

 飛び出していこうとする万象を引き留めて、森羅が彼の前に躍り出た。

「これは、この地の神に感謝を捧げる祭礼の道具。お前がどういう意図で出てきたのかは知らないが、それを邪魔しようというのなら、私たちはただこれを護り抜くだけだ。さあ、理解したのなら、早々に退散してもらおう」

 いつぞやのように、あたりに響き渡る澄んだ声で言う森羅に、ラスボスは思わず足を止める。

「神、感謝、……神……感謝?」

 うわごとのように繰り返す言葉に「なんだこいつ」と、万象が眉をひそめて言うと、そいつは万象に目をとめる。

「おまえは、……ちがう」

 そうつぶやくと、そいつはもう一度万象を睨め付けるようにしたあと、ゆっくりときびすを返して「行くぞ、ここに用はない」と、雑魚と手練れを呼んだ。

「ええー? そりゃないよお」

「ソリャ、ナイー」「ソリャナイ」

 ぐだぐたと文句を言い出した奴らをラスボスがひと睨みすると、キューっと縮こまった奴らは、慌てて後を追いはじめる。

 そしてあっという間に、悪さをする奴らの姿はどこかへ消えてしまった。


「なんだ? もう終わり?」

「いいじゃない。祭礼の飾りが無事で」

 ペン型武器を納めながら朱雀が白虎に言っている。

 すると。

「私は屋敷が心配なので、先に行きます」

 のんきな2人を尻目に、走り出す一乗寺。

「僕も行く!」

 玄武が後を追って走り出した。

「あ、おい待て、俺も!」

 と、血の気の塊のような万象がその後を追うのは目に見えていた。

「あれま、若い子はいいねえ。じゃあちょっくら俺も、……どうした? 森羅さま?」

 追いかけようとして、森羅と朱雀、そして青龍の方を振り返った白虎は、森羅が何やら考え込んでいるのに気がつく。

「あの顔、どこかで……」

「えーと、しんらさまー」

 森羅の顔の前で手を振る白虎。

 それにはっと気がついたように顔を上げると、森羅は、

「俺ちょっと図書室に寄ってから行く」

 と、屋敷の通用口へと走り出したのだった。



「ハシュナしん?」

 ここはまた旧陽ノ下家の食堂。

 図書室で調べ物をしていた森羅が、分厚い本を抱えてくると、皆に食堂へ集まるようにと伝言してきたのだ。

「はい、あのラスボス、どこかで見た顔だと思ったら、ハシュナ神とそっくりだったんです」

「ハシュナ神か」

 こちらのメンバーが納得したように頷くのに、1人取り残されている万象。

「え? なんだよそのハシュナ神って」

「ああ、万象は知らないんだね。今、説明するよ」



§§§


 遠い昔のこと。


 戦いの神に、ハシュナと言う者がいた。

 彼は、同じ戦いの神々の中でも飛び抜けた強さと技量を持ち、そのうえ満ちあふれるような正義感も持ち合わせていた。


 その昔は、戦いと名がついても殺し合いではなく、互いの技量をぶつけ合うもの。

 人間は戦う神々の技に感嘆し、その美しさに驚嘆する。

 神々は、勝っても負けてもお互いをたたえ合う。

 人はそんな神々が自分たちを護っていることに大いに感謝するのだった。


 だがそれが、人間に広まると、戦いと呼ぶものが無残な殺し合いへと変わっていったのだ。

 強い神は勝って当たり前。

 ハシュナはその最たる者。

 けれどハシュナは、戦いと名がつく殺し合いなど愚の骨頂だと、どの戦いにも参加しなくなった。

 卑怯者と呼ばれても、意気地なしと言われても。


 あるとき、小狡い人間がハシュナの正義感を逆手にとって彼を騙し、戦いの場へと彼を引きずり出す。

 そこでも剣を手にしないハシュナは、人々から罵られ、石を投げられ、挙げ句の果てにそんな神はいらないと人の世から追放されてしまったのだ。


 そのあと正気に目覚めた人間は、自分たちのとんでもない間違いに気づき、大いに反省し、ハシュナに許しを請う。

 帰ってきてほしいと懇願する。

 何度も何度も。誠心誠意。心を込めて。


 だが、ハシュナは自分をだまし、ないがしろにした人間をどうしても許すことが出来ないままに闇に墜ち、人を護らぬ事こそ自分の正義であると思い込んだまま、この世界に帰って来られずにいる。


§§§



「ふうん。そんな伝説があったんだ。けど、2000年後ではその話、聞いたことないぜ」

「君たちの時代は、神さまに願い事ばっかりしてるみたいだからね。神話もすたれていったんじゃない?」

「な、うるせー」

 読み聞かせ? を終えた森羅が、本のとあるページを開いて指さす先に、人物画があった。

「ホントだ、こいつ、さっきのラスボスにそっくりだ」


「ほほう、ハシュナではないか、懐かしいのう」

 すると後ろから誰かの声がした。

 じいさんのような言葉遣いに、万象は、また白虎がふざけているのだと思って、顔を見もせずにその背中をバンと叩く。

「ふざけるのもいい加減にしろよ、白虎」

「え? なあに?」

 すると、テーブルの向かい側にいた白虎が不思議そうに返事した。

「え? 白虎? え? じゃあこいつは誰?」

 ゲホゴホとむせながら上げた顔を見た旧陽ノ下家の面々が、「ああっ!」と声を上げた。

「《こうじん》!」

「いえい、久しぶり」

 そこには、これぞ神さま! と言うような白ガウンに杖をつき、あごに山羊のようなひげを生やした老人が、ピースサインを繰り出して立っていた。






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