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第2話 神さまへの対応の違いって?


 朝日がさんさんと降り注ぐ、旧陽ノ下家の食堂。


 すでに朝食の席に着いていた面々は、寝坊しているお坊ちゃまを律儀に待って……、はいなかった。

「それにしても遅いのう、森羅の奴め」

「まあまあ。昨日も祭礼の打ち合わせに引っ張り出されて、大変だったみたいですから」

小トラと言うただ者ではなさげな婆さんと、桜花と言うほわんとした奥様が、朝食を取りながら、のんきにおしゃべりしている。

「お祭り、楽しみだね」

「うん、そうね。今年は舞を頑張らなきゃ」

 彼女たちの右斜め向かいに座るのは、青龍と玄武。とは言えその実態は、中学生くらいの美少女と、可愛らしい男の子だ。

「俺、舞はあんまり得意じゃないんだよなあ」

「なーにが。いつも綺麗なお嬢さんの腰を抱いて踊ってるくせに」

「あれは舞って言わないの」

 そして左斜め向かいには、白虎と朱雀。はたまたその実態は、大柄のイケメンと、ナイスバディの美女だ。


「……おはよう……ございます」

 そこへ、今はボロッとくたびれているが、よく見るとなかなかの好男子が入ってくる。

 彼は小トラと桜花の真正面の席(とは言えけっこう距離がある)に座ると、ゴロンとテーブルに突っ伏した。

「ああ、……北野のじいさんめ、どれだけ飲ませれば気が済むんだ。俺が未成年だって知らないのか」

 ぶつくさ言う彼に、小トラが吹き出して言う。

「ずいぶんとうのたった未成年じゃの。のう、森羅」

 彼は森羅。

 もちろん森羅は未成年などではない、嫌味で言っているだけだ。

 すると今度はトレイにグラスを乗せた少年、いや、千年人が食堂に入って来て、そのグラスをコトリと森羅の顔の横に置いた。

「……これは?」

 顔を上げもせずに森羅が聞くと、その千年人、一乗寺がニッコリ笑って答える。

「はい、二日酔いのお薬です」

「うげ、薬なんていらない」

 ゴロンと反対側を向いてしまう森羅。

「あ、説明が足りませんでしたね。これは、万象さまと鞍馬さんが色々研究して作られた二日酔いにものすごく効くドリンクだそうです。向こうですでに効き目は検証済み、とのことですので、どうぞ安心して召し上がって下さい」

「ふーん」

 ようやく顔を上げて座り直した森羅のすぐそばに、いつの間にそこに来たのか、クールな表情の男がテーブルのグラスをまじまじと見つめている。

「飛火野さん、どうされたんですか?」

「いえ」

 無表情のまま、彼はすっと直立の姿勢に戻る。

 ぽかんとしてそれを見ていた森羅が、うつむいて笑い出した。

「飛火野~、鞍馬が作ったから興味津々なの~? ホントお前は鞍馬が好きだねえ、ハハハ……、うう、頭痛い、から……これ……飲んでみる」

 笑いの振動で頭痛をもよおした森羅は、やおらグラスを手に取ると、一気にそれをあおった。

「うぐ」

 タン! とたたきつけるようにグラスを置いた森羅は、またテーブルに突っ伏してしまう。


「森羅さま?」

「おい、森羅」

 その体制のまま、1分ほどが過ぎた。

 さすがに心配になって、一乗寺と小トラが声をかける。

 その直後。

がばっ

「わあ!」

「おお、なんじゃ?」

 擬音がするほど勢いよく飛び起きた森羅が、うーんと伸びなどし始めたのだ。

「あー! すっきりした!」

「森羅さま、お薬が効いたんですね」

「うん、っつつつ、ってまだちょっと頭は痛いけど、すごいよこれ。今のでほとんど抜けたみたいだ。さすがは万象と鞍馬。後でお礼言いたいから来てもらおう」

「礼を言うのに来てもらうのか? 逆だぞ」

「ですが、今は祭礼の準備でここを離れられませんから。あーでも、鞍馬は来られないな」

「では、鞍馬には私がお礼を伝えに行ってきましょう」

「飛火野……、君ってホントわかりやすいねえ」

 またハハハと笑う森羅に、不思議そうに首をかしげる飛火野だった。




 と言うわけで、今、万象は森羅の部屋に遊びに来ている。

 もちろん鞍馬には、飛火野がお礼の言葉と品を渡すべくあちらへ行き、ついでに手合わせをして、ほくほくで帰ってきたばかりだ。

「でもさ、祭礼の準備で来られないって……。その祭りってどんなんだよ」

 森羅からわけを聞いた万象が、持ち主のベッドを占領して、一乗寺が置いていったおやつなどをつまみながら言う。

 こちらの祭礼は、収穫が終わって時の流れが緩やかになった頃に行われる。毎年、何月何日と厳密に決まっているわけではない。カレンダーすら頼りにしないこちらでは当たり前の話だが。

 最初はどうにも違和感があった万象も、今ではこの2000年前という所はそう言うもんだと、抵抗なく受け入れられるようになった。


「けど、祭りか~、楽しそうだな」

「うん、楽しいよ。神さまも僕たちも」

「で? その祭りは何を祈願するんだ?」

「祈願?」

「ああ、五穀豊穣とか、国の安泰とかさ」

「なんで祈願なの? 祭礼って言うのは神さまに感謝を捧げるために執り行うんだよ」

「え? 感謝ってそれは願い事が叶ってからじゃないのか」

「ええ? 万象の時代は願わないと護ってももらえないのか? おかしいな」

「なにが」

「神さまって言うのは良い友達だって前に話したよな。お前だって、善き友は無条件に助けるだろ? 俺だってそうだ。だから神さまも何もなくても始終俺たちを護ってくれてる。それこそ休みなくね。万象たち風に言うなら、1年365日、24時間休まず営業しております!ってね」

「えーと、返す言葉もない」

「それなのに、感謝もせずに、その上まだ願い事するなんて。ひどい!」

「ひどいってなんだよ。俺たちの時代では、祭りってのは祈願のためにするもんなんだ! で、感謝はその後に捧げるの!」

「うわ、もっとひどい。じゃあ願い事が叶わなきゃ感謝しないってことか? なんて自分勝手なんだ。目に見えないからってその扱いはないだろ。だいたいこんな不完全な身体で見えてるものなんて、世界のほんの一部なのにさ。目に見えない者に対する畏敬の念や感謝がなくなったとき、世界は滅びるんだぜ」

「んな馬鹿な」


 そこまで議論して。

 2人の間の、と言うより、二つの時代における神さまへの対応の仕方を、改めて痛感する森羅と万象。

 けれど先に納得したのは、万象の方だった。

「あーでも」

「なに?」

「そう言えばそうだよな。神さまは俺たちが知らなくても願わなくても、俺たちを護ってくれてるんだよな。それなら毎日感謝しなくちゃな」

「やっと気がついたか」

 面白そうに言う森羅に、万象はお得意の〈すねる〉を発動する。

「なんだよ、人が珍しく素直に言ってるのに」

 ふん! と寝ころんで壁の方を向いてしまう。いつものことだな、と、森羅はちょっと情けなさそうに苦笑した。

「けど……」

 向こうをむいたままつぶやく万象に、森羅は「なになに?」とベッドに肘などついた。

「ヤオヨロズ、ってお前も知ってるよな」

「うん」

「あいつがさ、何かにつけて言うんだよ。お前たち、って俺たち人のことだけど、が、可愛くて可愛くて仕方がない、ってさ。だから無条件に護りたくなるのかな」

「そうだなー、神さまから見れば、俺たちってまだよちよち歩きの幼児みたいなもんなのかな。危なっかしくて仕方がないんじゃない?」

 すると万象はくるりとこちらに向き直った。

「可愛いと危なっかしいはちょっと違わないか?」

「はあ? そうかな、うーん」

 森羅はそこで考え込む。

「あ、でも、小さい子って転んでも可愛いじゃないか。コロン、としてて」

「はあ……、まあ……、そう……、か?」

「俺なんかがこけてもどうって事ないけど、玄武兄・弟と一乗寺が、3人あわせてコロンと転んだりしたら」

 玄武はともかく、なぜ一乗寺なのかはこの際置いておくが。

 そこで2人の脳内で妄想が展開され……


「可愛いなー」

「可愛いだろー」

 祭礼の議論は、なぜかとんでもない方向へと向かってしまったようだ。



 そのときだった。

ドゴォーン!

 大地を揺るがすような音がした。

「なんだ!」

「!」

 声を上げてガバッと身体を起こす万象と、無言のまま部屋を飛び出す森羅。


「森羅さま!」

 遠目に、一乗寺が叫びながら駆けてくるのが見えた。





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