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 血を吐き、崩れ落ちるサオリを支えるラスター。そのラスターに斬りかかるマルトーだが、ラスターの風魔法に邪魔されて近づくことさえ許されなかった。


「クソッ!」

「くくくっ。虫けらが何を勘違いしているのでしょうかね、全く。おや?勇者様の能力を侮っていたようですね。」

 ラスターの腕の中にいたサオリだったが、今はマルトーの後ろへと移動していた。その胸は血に汚れていたが、汚れているのは心臓から外れた場所だ。


「あの一瞬で、狙いをそらしましたか。残念ですね、心臓さえ治せてしまうのか興味があったのですが。」

「・・・移動魔法。」

 サオリはラスターを睨みつけて、マルトーの腕をとると移動魔法を使って移動した。

 移動した先は、岩肌がむき出している場所、森の外だった。


「サオリ、大丈夫か!?」

「私は平気・・・それにしても、なんであいつがここに・・・危ないっ!」

 サオリは突然マルトーを突き飛ばす。そして、剣を抜いたかと思えば、ものすごい速さで突っ込んできたラスターと剣をぶつけ合う。


「なかなかやりますね。これが勇者様のお力というわけですか。」

「くっ・・・」

「では、こちらも少し本気を出させていただきましょう。」

 マルトーの目がぎりぎり追える速さで、2人は剣を交える。マルトーにはついていけない戦いだったが、2人にはまだ余裕がありそうで、本気でないことは明らかだった。


「まだ、お仲間にお話ししていないのですか?あなたの能力を。」

「黙れっ!」

「話せませんよね。だって、あなたは自分以外を信用していない。あぁ、でもルドルフ様のことは信用なさっていましたね。」

 サオリの手が止まり、ラスターは素早く剣を振った。サオリの剣があっけなく弾き飛ばされ、丸腰になるサオリ。


「裏切られた・・・わかりますよ、その気持ち。ですが、裏切られたなんて思いたくないでしょう?」

「・・・何が言いたいの?」

「裏切られたと頭でわかっていても、認めたくない。ですが、それは事実・・・でも、それを否定する方法がありますよ。」

「裏切られてことは変わらないでしょ。・・・それに、勝手に信用した私が悪いんだよ。」

「いいえ。裏切られたという事実を変えることはできます。簡単な話です、あなたも裏切ってしまえばいい。」

「何を言ってるの?私が裏切ったからって、裏切られたことはなくならない。ただ、やり返しているってだけじゃない?」

「裏切るのはお仲間ですよ。そこの、虫けらなどを裏切るのです。」

「話にならない。」

「そうだ、サオリ。魔族の言うことなんて聞くな。所詮ひとじゃねーんだ。」

「人・・・それに何の価値があるのでしょうか?人なんて、理解できないものを排斥する、弱い動物でしかありません。」

「とにかく、話をする気はないよ。」

「おやおや、得物もなくて何をしようというのです?」

 サオリは、ラスターを睨みつけながら移動魔法を使おうとしたが、ラスターはその隙を与えない。サオリに向かって剣を振る。


「口を開けると舌を噛みますよ。」

「くっ・・・」

「サオリ!おらの剣を使え!」

 マルトーが剣を投げるが、ラスターが風魔法で邪魔をして、剣はサオリのところまで届かなかった。


「さぁ、どういたしますか?ルドルフ様のもとへ来るというのなら、痛い思いをしなくて済みますよ?」

「・・・いど・・・!」

「移動魔法は使わせません。あなたは、ただ頷くだけでいいのですよ。くくくっ。」

 サオリは、移動魔法で剣を取るのを諦めて、懐から短剣を取り出した。


「おや・・・これはこれは、お久しぶりです。」

 その短剣は、四天王の一人クグルマの素材を使って作ったものだ。かつての仲間だったものを見ても、さして何とも思っていない様子でラスターは剣をふるい続ける。


「あなたが殺したのですよね、勇者様。このことお仲間は、知らないのですよね?」

「・・・」

「楽しいですか?自分より弱い仲間に守られて、その仲間が傷つくさまを近くで見るのは。楽しいですよね、わかりますよ?」

「楽しくなんてないっ!」

 ラスターの剣を、短剣で弾き飛ばそうとしたサオリだが、あまりの力にラスターの剣が折れた。


「おやおや・・・よろしいので?お仲間に見られていますよ?」

「誰のせいだと!」

 サオリは、回転して遠心力を味方につけて、ラスターを蹴り飛ばした。


「誰のせいだと思っている!」

「私のせいですね。今のは少しきましたよ。」

 地面に転がることなく、体制を整えたラスターは、愉快そうな笑みを浮かべて、風魔法でサオリを吹き飛ばした。同じく、サオリも体制を整えるが、ラスターはさらに氷のつぶてをサオリにぶつけた。


 顔を手でかばうサオリだが、そのせいで接近するラスターへの反応が遅れて、そのまま地面に踏みつけられた。


「ぐっ」

「いい眺めですね。」

「サオリっ!クソッ、おらが相手だっ!」

「おや、まだいたのですか虫けら。ウィンド。」

 サオリを助けようとしたマルトーだが、またしても風魔法に阻まれて近づけない。


「そろそろ終わりに致しましょうか、勇者様。」

「・・・」

 愉快そうにサオリを見下ろすラスターだったが、サオリが顔を上げてその目を見た途端、素早くラスターは後ろに下がった。


「なんだ?」

 その様子を見ていたマルトーは訳が分からず、冷や汗を流すラスターを見た後にサオリを見た。そして、サオリの姿と師匠の姿が重なった。


「はははっ!なんで逃げるの、ラスター。」

「いえ、悪い予感がしたもので。あなた、何をしようとしました?」

「私の能力は知っているでしょ?あーあ、残念。でもいいよ、まだこれは知られたくないし。」

「・・・そうですか。その能力も気になるところですが、私はここでお暇させていただきましょう。」

「え?終わらせたかったんでしょう?大丈夫、切り刻んで終わらせてあげるよ、あなたの人生を。」

 ラスターは、危険を察知して転移魔法を使うが、サオリの移動魔法と違い、この魔法は黒い影のようなものを作り出し、その中へと入る必要があった。たった数秒のその時間だが、サオリにとっては、言ったことを実行するのに十分な時間だ。


 ラスターに詰め寄ろうとするサオリ。しかし、いざ踏み込もうとしたとき、腕をつかまれた。腕をつかんできたのは、マルトーだった。


「サオリ、やめろ。」

「マルトー?」

 師匠のことを思い出したマルトーは、サオリを止めることにした。これ以上、サオリが人を殺すことに快楽を覚えないように。


「それでは、ごきげんよう。」

 マルトーが止めている間に、ラスターは転移魔法でその場から立ち去った。


「四天王は、倒しといたほうがよかったんじゃないの?」

「・・・お前が倒す必要はない。おらが、いつか倒す。だから、お前はもう・・・殺すな。」

もう後悔したくないと思ったマルトーは、できるはずのないことを約束した。


「・・・もう、殺すなって。私が誰を殺したの?」

 その質問に、マルトーが思い浮かべたのは四天王クグルマだったが、何も言わずに首を振った。


「なら、誰も殺すな。」




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