84 真夜中の訪問者
真夜中、部屋の中に自分とは別の気配を感じて目覚めた。
「サオリさん、夜分遅くに申し訳ございません。」
「ゼール?」
ランプを片手に立つゼールがいた。
「少しよろしいですか?」
「・・・何?」
無視して眠ってしまいたいが、それはそれで身の危険を感じるので話を聞くことにした。そういえば、オブルはどうしたのだろう?私の警護をやっていたはずだが。
「少し眠ってもらっています。」
「・・・そう。」
心を読まれたように答えてきた。しかも、手練れのオブルを眠らせたとか、さらっと言ったことも、まるっと無視して起き上がる。
「私から提案がありまして、これから移動魔法の実験をいたしませんか?」
「・・・それって、明日じゃダメだったの?」
こんな真夜中にする話かと、苛ついて聞いたが、ゼールはだめなのだと話す。
「昼間は人の目が多いですから。私の仮説が正しければ、移動魔法の能力はかなり危険な代物です。あぁ、サオリさんに危険はありませんよ?ですが、この能力を知られれば・・・サオリさんの身の危険も高まるでしょう。」
「・・・」
まさか、と思った。もしかして、ゼールが今からやる実験とは、私がクリュエル城でさんざん実験した、人体を切り離す力のことか?
「サオリさん、とりあえず私の屋敷・・・ウォームの方へ移動していただけますか?詳しい話はそちらで。」
「・・・わかった。移動魔法。」
景色が変わり、もう見慣れた部屋の景色になった。
ここに来るということは・・・これからこの部屋が真っ赤に染まるようなことをやるのだろうか?
昔はここでおぞましいことが行われていたらしいから、ここで流血沙汰になってもいまさらといった感じだろう。
「こちらへどうぞ。」
ソファを勧められたので、私は座った。それを見たゼールも座って、胡散臭い笑みを浮かべる。
「ずっと考えていたのです。サオリさんに与えられて能力のことを。」
「移動魔法のこと?」
「いいえ、自動治癒と戦闘能力についてもです。サオリさんに能力を与えたのは、女神でしたよね。その女神は、サオリさんに魔王を倒させることが目的だった。なら、その能力も魔王を倒すためのものでしょう。」
「そうなるね。なのに、なんで移動魔法なんだろうって、感じだよね。」
実は一番やばい能力がこの移動魔法なので、メインの能力なのも納得だ。移動だけでなく、敵を殺せる能力でもある。うまく使えば、無傷で敵を殺せる能力だ。
それこそ、戦闘能力や自動治癒が必要ないのではと思うほどに。
「言うまでもありませんが、魔王を倒すのに戦闘能力は必要でしょう。そして、一撃で魔王を倒せないのなら、戦いを継続させるために自動治癒も必要です。この2つの能力は、魔王を倒すために与えられたことが明らかです。」
「移動魔法は異質だよね。この魔法のせいで、私はあの城でひどい目にあったよ。ま、女の時点で待遇は悪かったと思うけど。」
「そうでしょうね。ですが、サオリさん私は思うのです。その移動魔法も魔王を倒すために与えられたのではないかと。」
「・・・どういう意味?」
移動魔法で人が殺せることに気づいたのか?ゼールが気付いたかもしれないという不安で、気が気でない。
「そのままの意味です。サオリさんは、その能力を戦闘に活用なさったり、離脱のために使用されているようですが・・・それは、女神の思惑とは違うのではないかと思います。」
「・・・戦いや逃げるのに使うのは・・・確かにちょっと違うのかもしれないけど・・・それくらいしか使えないでしょ?」
「サオリさん、移動魔法の名前を考えてください。戦闘能力、自動治癒・・・3つともわかりやすい名前の能力だと思いませんか?」
「そうだね。でも、移動魔法については、私もいろいろ考えたよ。どうやって移動するのかな、とか。移動速度が上がる魔法なのかとか、ただ単に移動する魔法なのかとか・・・」
「それで、サオリさんは移動魔法をどのように使いましたか?」
「・・・どうって、最初は逃げるために使って、次もそのために使って。」
初めて使ったときは、牢屋から玉座の間へ。その後に、玉座の間から牢屋へと移動して、牢屋から鉄格子の外に移動した。
「サオリさんは、移動魔法の実験をするために、旅に出た後この屋敷にたびたび移動してきましたね。」
「うん。それはどの程度移動できるか調べたかったから。とりあえず、今はクリュエルの王都からウォームの王都まで移動できることが分かったね。」
「・・・サオリさんは、いつも訪れたことがある場所に移動していますね。」
「いや、それはそうでしょう。」
行ったことがない場所に行こうなんて思わないから当然だ。
「そうですね。至って普通の思考ですよ、それは。でも、サオリさんに能力を与えたのは女神なのです。そして、神とされる存在が与えた能力を、私たちは過小評価しすぎていたのではないかと思います。」
「・・・つまり、どういうことなの?」
「私の考えが正しければ、サオリさんは今から魔王城に行って、魔王を倒すことができるのではないかと思います。」
「・・・はい?」
いきなり何を言い出すのかと驚く。
「サオリさんの能力、移動魔法は、行きたい場所に行ける能力なのではないでしょうか?」
「・・・それって・・・魔王城に行きたいって思えば、行けるってこと?」
「私の考えですけどね。それが正しいかどうか、今から実験しようかと思いまして。」
理解した。
つまり、私はこの世界のどこにでも移動をできる。それは、私が行ったことがない場所でも可能である。それを、実験するのだ。
「・・・わかった。でも、魔王城はさすがにまずいと思うけど。」
「当たり前です。なので、今から私の故郷に移動してもらおうかと思いまして。」
「ゼールの故郷?ウォームの王都で育ったわけじゃないんだ?」
「・・・私の国は、滅んだのです。」
「え?滅んだ?もしかして、魔物に滅ぼされたの?」
「いいえ。滅ぼしたのは人間です。東の、魔物の影響が少ない地域では、国同士が争っているのですよ。その戦いに敗れた私の国は、滅びました。故郷とはいっても、もう私の国ではありません。」
「・・・なんといえばいいのか、ゼールも大変だったんだね。」
「確かに大変ではありましたね。・・・さて、実験を始めましょうか。とりあえず、私の故郷に行くことをイメージしてください。」
「え、さすがにそれは無理だと思うけど・・・ま、やってみるよ。ゼールの故郷、今は滅んだ・・・全くイメージできないけど。」
「これで移動できなければ、情報を追加していくだけです。」
「そうやって、必要な情報がどれくらいなのかも調べるんだね。わかった。・・・移動魔法。」
ゼールの腕をつかむのを忘れずに、私はだめもとで移動魔法を使った。




