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8 クリュエル城を襲ったのは?



 泣き疲れて眠ってしまったさおりをベッドに運んだアルクは、ノックの音を聞いて返事をした。




「おや、眠ってしまったようですね。なら。」



 入ってきたリテは、短く呪文を唱えて自分たちの声が外、さおりにも届かないように魔法をかけた。



「これでいいですね。それで、お話は聞けましたか?」


「あぁ。俺、この国が嫌いになりそうだ。」



 アルクは、さおりから聞いたことをリテに話した。



「ひどい話ですね。」


「だろ。」


「それにしても、厄介な能力をお持ちのようで、これでは戻っても大変ですね。」


「移動魔法のことか?」


「・・・それよりも、自動治癒ですよ。」


「は?まさか信じているのか?ありえないだろう。きっとひどいことをされたせいで、幻覚でも見たんだろう。」


「よく見てください。」



 リテは、さおりに掛けられた掛布団をめくった。さおりは、今メイド服を着ており、その肌はほとんど隠されている。そんなメイド服のスカートを太ももの辺りまでめくる。



「な、ちょ!」


「見てください。傷ひとつありません。」


「いや、見ろって・・・」



 かなりきわどいところまでめくっているので、アルクは真っ赤になりつつ見た。確かに傷ひとつない、貴族のお嬢様のような肌だ。



「おかしいと思いませんか?」


「何がだよ。もう見たから、さっさとスカートをもとに戻せ!」


「はぁ。サオリさんの足を見て、赤くなるだけですか。いいですか、サオリさんがいた場所は、地獄のような場所でした。」


「そうだな。牢屋にもいれられていたというし。」


「・・・あの城の人間は、ほぼ死んでいました。そういう場所にいて、傷ひとつないというのはおかしいです。」


「それは、そうだな。そういえば、着ていた服もぼろぼろで、血だらけだった・・・あっ。」


「やっとわかりましたか?サオリさんは、無傷というわけではありません。おそらく、致命傷を受けたのでしょうが、回復したのでしょう。自動治癒によって。」



 アルクは、穏やかな寝息を立てて眠るさおりを見た。その顔には、痛々しい涙の跡が残っている。



「痛かっただろうな。」


「それは、記憶をなくしてしまうほどに、痛かったでしょう。襲われたショックかもしれませんが。」



 リテはそう言うと、掛布団をかけ直して、頭を撫でた。スカートはいつの間にか戻していたようだ。



「俺、決めた。」


「奇遇ですね。僕も決めましたよ。」


「きっと、俺と同じだな。なら、一緒にこの子を守ってやろうぜ。」


「いいえ、私はサオリさんを妻にしようかと思っていました。」


「つま?妻っ!?」


「冗談ですよ。これから、共に守りましょう。」


「じょ、冗談か。冗談はわかりやすくしてくれよ、全く。」



 力なく笑うアルクを見て、リテはそういえばと切り出した。



「他にも生存者がいましたよ。」


「え、嘘だろ・・・」


「どうやら気絶していたようです。でもまぁ、話を聞ける状態ではなさそうでしたけどね。メイドの女性で、ぶつぶつ何か言っていたと思ったら、突然奇声を発したりして。」


「それだけ怖い思いをしたのだろう。」


「意味のある言葉も発していましたが、「あいつが来る。笑い声が聞こえる。笑いながらあいつは殺している。」などと言ってました。」


「殺しを楽しんでいる感じか。」


「そのようですね。参考になるかはわかりませんが。」


「確かに、精神を病んでしまった者の話はうのみにできないからな。まともな生存者はこの子だけか。」


「精神を病んでいないかは、わかりませんよ。」



 リテは、さおりの頭を撫でながら、痛ましそうな目をする。



「そうだな。」



 目を伏せるアルクの声は、いつもより低い。



「死体についてですが。」



 仕事モードに入ったリテにならい、アルクも感傷に浸るのをやめて、話しを聞く。



「廊下などで見たのは、心臓を一突きにされたものが多かったのは覚えていますか?」


「あぁ。そういう流派だとか言っていたな。」


「それとは他に・・・全く別の殺され方をしている者が多くいました。玉座の間に多かったのは、首を斬り落とされている者です。」



 斬り落とすの部分で、さおりの話を思い出して顔をしかめる。



「それがどうしたんだ?」


「殺され方が、玉座の間の外と中では大きく違っていました。玉座の間では、様々な殺され方をしていましたが、目を引いたのは先ほど言った殺され方です。アルク、あなたは敵を殺すとき、首を斬り落とすことなんてしますか?」


「したことがない。」


「ですよね、私もそうです。面倒ですし、技術もいります。なのに、そんな死体がゴロゴロいました。しかも、傷口が異様に綺麗で・・・ぞっとしましたよ。」


「・・・お前、よくそんなもの見れたな。」


「仕事ですから。それにしても、かなりの手練れがいると言うことです。それも、国を亡ぼすことを平気でする、狂った者が。」


「・・・そんなのが何人いるんだか。てか、そいつは本当に人間なのか?」


「そう考えるのが自然ですね。魔人であると、そう考えた方が理解できますが、一つ質問です。魔人とはどのような特徴がありますか?」



 リテからの質問に、一拍置いてアルクは答えた。


「人間と変わらない容姿だが、美形が多い。寿命が人間の何倍もあって、老化が遅い。知力・筋力・魔力、どれをとっても人間以上の力を持っている。」


「そうです。魔力ですよ、アルク。魔人は必ず魔力を有しています。魔法が使えるほどに。なら、なぜ魔法で殺された形跡がある者がいないのでしょう。」


「それは・・・」



 魔法を使えば、多くの人間をたやすく屠ることができる。なら、なぜそれをしなかったのか?魔人であれば、魔法の2つや3つ簡単に使えるはずだ。なのに、なぜ使わなかったか?



「魔法が使えなかった・・・つまり、人間だった?」


「そうとも考えられますし、そう私たちを騙すために、あえて使わなかったのかもしれません。ま、考えても仕方がありませんね。もう少し調査すれば、わかるかもしれませんが。」



 答えの出ないまま、2人は調査を別の者に引き継ぎ、さおりをウォーム王国へと連れ帰ることになった。




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