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7 涙



クリュエル王国の城下町にある宿屋。その一室で、私はウォーム王国の騎士に事情を話した。事情を聞いてくれたのは、アルクという騎士で、もう一人はいない。


勇者として召喚されたが、投獄され実験動物のように扱われていた。今日は、服を破かれて襲われそうになって、そこからはよく覚えていない。

淡々と話す私の前で、アルクは怒りをこらえるようにして聞いていた。けれど、服を破かれたという話で、我慢の限界が来たようだ。



「なんて国だ!」



 どんっと、机を叩くアルクに驚いて、肩をあげた私にすまなそうにアルクは謝った。それから深呼吸をして落ち着いたアルクは、頭を下げる。



「事情は分かった。本当に申し訳ないことをした。こちらから呼び出しておいて、望む能力の持った者ではないからと投獄するなんて。おそらく、お前が女だったこともまずかったな。」



 その言葉で、ここは私が済む時代より遅れているのだろうと感じた。



「男尊女卑?」


「そうだ。だが、俺たちが来たからにはもう大丈夫だ。俺たちの国、ウォールは男女平等とまではいかないが、ここまでひどくはないし、勇者に対して投獄なんてこともしない。お前に罪はないからな。」


「そう。」



 ほっと息をつく。これでまた投獄されたら、絶望するしかない。



「それで、移動魔法だったけか?それはどういう能力なんだ?」


「まだ使ったことが無いからわからない。でも、たぶんテレポートのようなものだと思う。確かに、魔王を倒すことは出来ないかもしれないけど・・・役に立つよね?」


「テレポート?」



 わからないと言った様子の彼に、言葉をたして説明すると、あれか、と納得して頷いてくれた。似た魔法を知っているのだろう。



「そうだな。なぜクリュエルがお前を雑に扱ったのか、不思議に思うほどだ。それだけ王が馬鹿だったのか?ま、死人の悪口は言うもんじゃねーな。」


「・・・治癒能力のせいかな。」


「あぁ、そんなものもあったな。だが、本当なのか?」



 手や足を斬り落とされても回復するという話を信じていないようだ。もしかしたら、投獄されたショックとかで、頭がおかしくなったとでも思っているのだろうか?


 ここで見せるのは簡単だ。だけど、それでまた同じことが起きたら?そんなことになってはたまらない。実験動物の生活なんて、もう送りたくない。


 この自動治癒という能力は、正直誰もが欲しいものだと思う。これが他人にも使えるものならいいが、私にしか治癒は施されない。なら、この能力の種を明かして、他の人間に同じようなことをできるようにならないか、と思うだろう。

 おそらく、クリュエルの王もそんな感じだったではないかと思う。


 自動治癒が無ければ、荷物運びなどの道具として使われるだけだっただろうが。


 ここは、あいまいにさせておいた方がいいだろう。



「この世界には、回復魔法はあるの?」


「あぁ。使い手は限られているし、腕をくっつけるやつとか、かなり希少だがいるにはいるぜ。だが、お前が言うような、勝手に回復するなんて聞いたこともない。」


「なら、もしかしたら、そういう人が後から治してくれたのかも。」


「・・・ま、その方が現実的か。」



 納得はしていないようだが、アルクは後から私が治癒されたと思ったようだ。もしそうなら、なぜ私は何度も腕を斬り落とされたりしたのかって話だけど。それに、あの差別的な王が、私に希少な使い手を使うかどうか・・・ま、納得してくれたならいいか。



「移動魔法に自動治癒・・・は保留だな。で、他に何か能力はあるか?」


「ないよ。」



 嘘だ。本当は戦闘能力がある。でも、それを伝えれば、私は魔王と戦わされるだろう。そんなのごめんだ。

 何が悲しくて、自分から危険に突っ込まなくてはいけないのだ。私に自殺願望はない。



「そうか。国として・・・人類として、それは残念なことだが、俺は良かったと思うよ。女は守ってやるもんだからな。」



 優しく頭を撫でられる。大きな手。


 殴られて、押し倒した、あの手と同じ男の人の手。なのに、なぜか安心できる。


 ぽたっと、手にしずくが落ちた。雨漏り?さっきまで晴れていたのに。

 窓を見るが、視界が歪んでよく見えない。私、泣いているの?



「頑張ったな。」



 アルクの言葉が、心にしみて、もう我慢ができなかった。


 あふれる涙を止められず、声をおさえられない。


 痛みに慣れた私は、腕を斬り落とされたって泣かないのに。今は痛くないのに泣いてしまう。アルクの胸を借りて、私は泣いた。


 汗と、血の匂いがする。でも、それは私も同じ。



「・・・あたたかい。」



 思わずかすれた声で呟けば、アルクは優しく返してくれた。



「そうか、お前もあったかいぞ。」



 冷たい床に、もう倒れこまなくていい。

 熱いほどの痛みを、もう感じなくていい。


 今は、ただこの暖かい場所で、枯れるまで泣こう。


 泣いて


 泣いて


 泣いて


 そしたら、この辛さもなくなる。この苦しみから解放される。でなければ、私は救われない。


 救われなかったら、私はどうすればいい?

 もうこれ以上にないほど苦しんだ。なら、もう救われたっていいはずだ。


 それでも、救われず、苦しみが続くというのなら・・・

 すべてを恨み、同じ苦しみを味あわせてやる。




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