表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/111

62 希望



「お待ちください!」

 音を立てて、大きく扉が開かれた。そこに立っていたのは、ルト。みんな彼を見て驚き固まった。

 ルトは、四天王との戦いで大けがを負ったので、部屋で休んでいるはずだった。


「寝ていろと言っただろう、ルト。傷は癒えても体力は回復しないんだから。」

「そうです。体に障りますから、部屋に戻って・・・」

 自分を案じる言葉を、ルトは扉をたたいて制した。


「そんなことは、どうでもいいのです!それよりも、帰るとはどういうことですか?まだ、魔王は倒していません。目標を達成していないのですよ!」

「・・・ルト、お前だってわかるだろ。」

 ルトがアルクに目を合わせたが、アルクは目をそらした。


「俺たちでは、魔王には勝てない。」

 その言葉が、胸に刺さる。そんなこと、わかりきっていたから。でも、それでも、ルトは彼らと一緒に戦う決意をしていたというのに。


 彼らは、諦めてしまった。


 ルトは、クグルマを倒した時、サオリが言った言葉を思い出した。


「ルトがクグルマを倒したことにしてくれる?」

「嫌とは言いませんが、無理がありますよ。」

「わかっているけど・・・」

「クグルマから逃げ切ったことにしてはどうですか?」

「それはできないの。だって、そしたら・・・希望が無くなる。」

「希望?」

「そう。みんなクグルマに負けた。それは圧倒的だったでしょ。こんなんじゃ、魔王討伐になんていけないでしょ?」

「それはそうですが・・・それではだめなのでしょうか?」

「え?」

「だって、サオリ様は戦いたくないんですよね。なら、いいじゃないですか!勇者だからって、魔王を倒す必要なんて、ありませんっ!」

「ルト・・・」


「悪いけど、魔王は倒さなくっちゃいけないの。」


 ルトは、そう言ったサオリに従うと言った。その時のことを思い出し、彼は声を張り上げた。



「魔王は、倒さなければなりません。勇者にそう決意させておいて、あなた方は逃げるんですか。自分たちの世界だというのに!」

「・・・!」

「それは・・・」

「現実を見なさいよ、ルト。」

「現実なら、嫌というほど見ました。それでも、僕は・・・最後までこの旅を完遂させます!魔王を倒すその時まで、旅を続けます!それがサオリ様の決めたことだから。」

「おらたちがいなくてもか?」

「あなたたちがいなくても、僕はサオリ様に付き従います。そして、サオリ様は・・・僕に最後まで剣を握らせ、旅を終わらせるでしょう。あなたたちなんて関係ない。僕は、サオリ様に付き従うだけだ。」

「弱い犬がよく吠えるわね。」

 その言葉は、真実だ。ルトは弱く、四天王の部下にですら負けるだろう。でも、それでもサオリの希望にはこたえなければならない。


 そう、ルトは希望にならなければならない。


「弱い・・・ですか。あなたたちを圧倒的な力でねじ伏せたクグルマを倒したのは、僕ですよ?」

 無理がある嘘。ルトもそう思っていたし、サオリにも言った。サオリ自身もそう思っていたようだが、この嘘をつきとおしたのだ。


 ルトは笑った。これは、ゼールに教えてもらったことだ。嘘をつくときは、余裕を持たなければならない。そして、笑うことは余裕の表れだと。


「先ほどは止めましたが、しっぽを巻いた犬など不要です。どうぞ、お好きなように。ですが、僕のご主人様の邪魔だけはしないでください。もし、邪魔立てするなら・・・牙をむきますよ。」

「しっぽを巻いた・・・犬?」

「降伏状態ってことだな。ルト、一ついいか?」

「なんでしょう、アルクさん?」

「魔王を倒すっていうのは、サオリの意思なんだな?」

「もちろんです。でなければ、このような面倒ごとほっぽり出していますよ。それで、それがどうかしましたか?」

「・・・そうか。なら、俺はサオリに付くぜ。」

「アルク!?」

「あんた、正気?」

 アルクはルトの隣に来て、笑った。


「ま、俺はサオリの騎士だしな。あいつについていくのが自然だろ?」

「止めるべきです!あなたは、サオリさんを死なせたいのですか!?」

 リテの言葉に、アルクの表情が険しくなった。


「お前、本気で俺がそう思っていると思ってんのか?いくらなんでも不快だぜ。リテ、お前は帰ったほうがいい。いても、サオリの邪魔になるだけだ。」

「アルク・・・」

「プティさんとマルトーさんも、口だけ達者な方だったのですね。少し幻滅しました。」

「ルト、いい加減口を慎んだらどうかしら?」

 アルクとリテ、ルトとプティで、お互いにらみ合う。


「お前たちは、サオリを信じているのか?」

 アルクとルトを見て、マルトーが聞いた。その問いに2人は頷いて答えて、それを見たマルトーは重ねて聞いた。


「それは何でだ?いや、何を信じている?まさか、サオリが魔王を倒せる・・・なんてことを思っているわけではないだろう?」

「さすがにそれはないでしょう・・・」

「ありえないわ。」

 あきれるリテとプティだが、マルトーは真剣そのものだ。


「お前たちがサオリを大切に思っているのは、ここにいる全員が知っていることだ。そんな2人が、ただサオリと心中するためについていくとは思えない。」

「それは・・・そうでしょうが。」

「だからって、サオリが魔王を倒すなんて・・・夢にも思わないでしょ。」

「だが、2人はサオリが魔王に挑むから、それについていくのだろう。なら、そういうことだ。」

「マルトーさん、それは違います。魔王は・・・僕が倒します。」

 マルトーの目を睨むようにして、ルトは言い放った。


「サオリ様が望むなら、僕は魔王を倒す勇者にだってなります。それが、僕の忠誠・・・」

「無理なものは無理よ。ルト、現実を見なさいよ。」

「現実を見ていないのは、あなたでは?」

「それは、どういう意味よ。」

「プティさん、あなたが見ているのは誰ですか?」

「・・・?」

「今、あなたの目の前にいる僕は、四天王を倒したルト。いずれ、魔王を倒し勇者と呼ばれるルトです。」

 断言するルトの言葉を信じる者はいなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ