54 国境へ
早朝。ウォーム王国最南にある町を出た。今日中には国境を越えて、クリュエル王国に入る予定だ。御者はマルトーが務めて、プティも御者台に座っている。馬車内には、勇者組が集まることになった。
その空気は、重い。
「僕、他の国って行ったことがないんですよね。やはり、違いますか?」
「そうですね、違うことといえば、魔物の強さでしょうか。クリュエルは、魔国と接している唯一の国ですから、魔物の強さが最も強いと言われています。魔物は魔国から来ていますからね。」
「そうなんですか。」
「魔国から遠のくほど、魔物は弱いって聞くぜ。数も減るしな。地理的に言えば、俺たちの国は、クリュエルなどの他国と海が隣接していて、領土も広い。だが、クリュエルは、隣接する国がウォームのみ。あとは魔国と山だけだ。ちなみに、魔国は国とついているが、国とは認められていない。不可侵領域と呼ばれている。」
「・・・意外と詳しいですね、アルクさん。勉強は嫌いで、剣を振るのが好きというタイプだと思っていましたよ。」
「アルクは勉強が嫌いですが、頭はいいんですよ。どこから得た知識か知りませんが、意外と物知りでよく驚かされます。」
「意外、意外って、失礼な奴らだな。」
「意外といえば、ルトの剣がこの短期間で、ここまで上達するとは思いませんでした。よく頑張りましたね。」
「ありがとうございます。少しでも役に立ちたいって、必死で頑張りました。」
「サオリさんは、いい出会いをしましたね。」
「・・・そうですね。」
「・・・ぼ、僕のほうこそ、いい出会いをしました!奴隷は主人を選べませんからね。僕はいいご主人様に買われてよかったです。」
「・・・」
「サオリ様・・・」
「そうだね。」
「「「・・・」」」
先ほどからこの調子のサオリを、周囲はどう扱っていいのかわからなかった。話には入ってこない、話を振っても肯定しか返ってこず、話を聞く気がないようだ。なら、そっとしておくのか?それもなんだか危ないような気がして、とりあえず声をかけることになった。
なぜ、サオリがこのようになってしまったのか。それは、エロンと別れてしまったからだろう。
「彼女は何者なのでしょうか?」
「俺にはただのかわいい女の子にしか見えない。・・・一目ぼれじゃないのか?」
「なら、僕もアルクも望みがなくなりましたね。僕は違うと信じたいです。ルトはどう思いますか?」
「・・・僕は、そういうのはわかりません。」
「そうですね。本人に聞かなければ、わかることではないでしょうし、本人ですらわかっていないのかもしれません。」
「それは、どういうことですか?」
「例えばルト。あなたがサオリさんに抱いている気持ちは、どのようなものですか?」
「・・・好意・・・だと思います。」
「好意といっても色々あります。僕も同じですが・・・僕の好意は、憧れからくるものだと思っています。」
「憧れ・・・」
「王女様などは、同情だというでしょうし、同情も入っていることは否定しません。ですが、僕はサオリさんの強さに惹かれました。心の強さに。」
「あー、確かに。俺もそうかもな。別の世界に来て、ひどい目にあわされても、求められることに応えようとしている。勇者であることを求められて、それに応えてる。」
それってスゲーことだよな、と呟いたアルクはサオリに視線をやった。
「僕も、最初は同情かと思ったのですが・・・四天王に倒された日、思い出したんですよ。彼女と初めて出会ったとき、僕は彼女に強さを見ました。意外と自分の心なんて、わからないものですよ。」
一人、その時を思い出す様に黙り込んだリテを見て、ルトは考えた。自分が抱く思いは何なのか。前は、尊敬だと答えた気がした。いつだったか、同じような話をしたとき、サオリのことを尊敬していると答えた。再び考えた今、やはり尊敬だと結論が出た。
本能でわかる強さに尊敬して、そばにいることで、その心を尊敬した。
唐突に召喚され、虐げられて、それでも勇者という勝手な肩書を背負おうとする。
強いことを隠したいのに、この世界の人のために、自分のできることをする。自分より周りを優先している。そんなサオリが、ルトは好きで自分もいつかそうなりたいと思った。
それぞれが考え込み、静まり返った馬車の中へプティが声をかけた。
「もうすぐ国境よ。検問所で、御者を交代しましょう。」
「もうですか?わかりました、次は僕がやりましょう。隣は・・・サオリさん、どうですか?」
「いいですよ。」
「では、決まりということで。」
「ずるいぞ、リテ!サオリが隣に来てくれるなら、俺がやりてー。」
「もう決まりましたので、次の機会にしてください。」
「くそっ!」
悔しそうなアルクに、勝ち誇った顔をするリテ。サオリは相変わらず会話に入ってこないが、少し馬車の中が騒がしくなり、ルトは楽しくなってきた。
いつか、自分も御者を務めるようになりたい。そして、サオリを独占するのだと、決意を固めた。
そのとき、再びプティが声をかけたが、その声色は緊張していた。
「国境の様子が変よ!あれは・・・魔族!?」
「やべえぞ。あれって、四天王じゃねーか!しかも、2人もいるぞ!」
「確かなのですか!」
「間違いねぇ!シルクハットのラスターに、赤ヒールのトリィだ!」
それは、四天王の中でも残虐さを競う2人の名前だった。




