50 木の下で
少し百合の雰囲気が今後出るかもしれません。苦手な方はご注意を。
勇者様は今夜、領主の屋敷に一泊します。
そう伝えられて、アルク、リテ、ルトの3人が飛び出した。プティが止める暇もなく飛び出していった3人を呆然と見ているプティの肩に、マルトーが手を置いて首を振った。
「諦めろ。あの3人は、サオリのこととなると別人になる。あれは勇者なんかではなく、魔女なんじゃないか?」
「同情しているのでしょう。気持ちはわかるわ。」
「同情か・・・おいらにはわかんねーな。確かに召喚されて、ひどい扱いを受けてきたことは聞いているが、それを戦わない理由にしているのか、そういうところがきにくわねー。戦いたくないなら、この旅についてこなければよかったんだ。」
「そうね。でも、サオリにその選択があったかどうかは、疑問ね。それでも、自分の立場は理解すべきで、義務を果たそうと努力すべきだとは思うわ。」
「だよなー。それで、どうする?追いかけるか?」
「必要ないわ。明日に備えて部屋に戻って頂戴。」
「りょーかい。また、明日な。」
「えぇ、おやすみなさい。」
マルトーが扉を閉めると、プティはため息をついた。
「魔女ね。」
そういう評価もある。呼び方は違うが、死神という評価がサオリにはあり、それは広まっていた。
プティは、魔王を倒した後のことを心配していたが、昨日の四天王の件で後のことなど考えている暇はないのだと考え直し、思考を捨てた。
「魔王を倒す方法を考えなければならないわね。私たちに倒せるのかしら。」
弱気なプティの問いに答える者はいない。
「やはり、誰かがついていくべきでしたね。」
「いいや、あんなの断ればよかったんだ。あの王女様、勝手しやがって。」
「無事だといいのですが。」
「無事ではあると思うけど、困ってはいると思います。」
「・・・」
「なんですか?」
「いや、別に猫かぶんなくてもいいぞ、ルト。」
「お気になさらず。僕の猫は皮膚に張り付いているので。さっきは・・・さすがにあんなことをされて、頭に血が上って猫が逃げてしまいましたが。」
「奴隷から解放されたのがそんなに嫌だったのか?そういう趣味・・・」
「ではありませんが、サオリ様ならいいと思っていますし。サオリ様に信頼されるには奴隷という身分は必須ですから。」
「信頼・・・」
「・・・アルク、急ぎますよ。」
「あぁ。」
落ち込みながらも、リテはアルクを気にした。リテにとってアルクは、相棒でライバルだ。剣でも忠誠でも負けたくないが、蹴落としたいとは思わないし、落ち込ませたくもない。
「あなただけではありません。一緒に、これからも頑張っていきましょう。」
「リテ・・・あぁ、そうだなっ!」
元気を取り戻したアルクがそう答えたところで、ルトが足を止めた。
「前方の木の下に誰かいます。」
「ん、あれか。逢引き中じゃねーか?」
「いえ、あれは・・・嘘。」
「どうかしましたか?」
「サオリ様が・・・」
「「え?」」
ルトは木の下で抱き合う2人の片方に主人の色を見た。青い髪に、赤のコート。
相手は、黒のロングスカートに頭巾・・・シスターだとルトが認識したとき、サオリの声が耳に届いた。
「助けてくれてありがとう。それに、初対面なのに・・・その。」
「気にしなくていいわ、サオリ。心細かったのでしょう?どうぞ私のぬくもりがあなたを癒すというのなら、私は喜んで分け与えましょう。」
「エロン・・・」
このままだとキスでもしてしまうのではないかというほど親密な様子に、ルトは走った。
「サオリ様っ!」
「・・・ルト。はっ。」
慌ててエロンから離れるサオリに、ほっとするルト。
「サオリさん、その方は?」
「無事でよかった。」
ルトの後ろからサオリに声をかける2人に、サオリは気まずそうな顔をした。
「えーと、私を領主の屋敷から助けてくれたシスターだよ。」
「エロンです。どうぞよろしく。」
「そうですか。サオリさんを救っていただきありがとうございます、エロンさん。僕はサオリさんの騎士、ヴェリテです。」
リテはわざわざサオリさんを背後に隠すようにして、エロンとあいさつをする。アルクはサオリの隣に来て、そこからあいさつした。
「俺もリテと同じく、騎士のアルクだ。ありがとな。」
アルクが自己紹介している間に、ルトもアルクとは反対側のサオリの隣に並び、ちゃっかり手をつないだ。
「サオリ様の所有物のルトです。ご主人様を助けていただいてありがとうございます。」
「ルト・・・」
ルトの言葉に、サオリは感動したようだった。ルトを見るサオリをルトが見返して笑った。
「僕のこと、捨てませんよね?サオリ様。」
「そんなことするわけないじゃない!ルト、ありがとう。」
もう奴隷ではないルトだが、これまでと変わらずそばにいてくれるらしい。そんな彼なら、信用できるかもしれない。
「こんなところで立ち話もなんですから、酒場にでも・・・」
「私の部屋でいいよ。今日は私の部屋に泊まってもらう予定だったし。」
「はい?」
「・・・えー、サオリ様、僕も一緒がいいです!僕も泊まりたいです!」
「え、ルト!?いきなり何を・・・」
「だって、起きたらサオリ様がいなくなっていたとか・・・あったら嫌だし心配で・・・」
「ルト・・・っ」
「いや、もう奴隷じゃないんだふがぁっ!?」
口を出そうとしたアルクの口をリテがふさいだ。
「ルトも心配なのでしょう。今日くらいは一緒の部屋にいさせてやってはどうでしょうか。」
「うーん・・・エロン、それでもいい?」
「えぇ。私はあなたの近くにいられれば、誰がそばにいようとかまわないわ。」
「エロン・・・」
「うわぁーい!やったぁっ!ありがとうございます、サオリ様・・・エロンさん。」
大げさに喜び、サオリとエロンの間の親密な雰囲気をぶち壊すルト。アルクとリテは内心でルトを応援する。
「それでは、行きましょうか、サオリ。」
自然な様子で手をつなぐエロンに、自分も手をつないでいる癖に睨むルトと、そんな2人をうらやましげに見つめる2人。そんな5人で、宿へと向かった。




