43 出会いは唐突に
四天王を倒したその日に、町に着いた。夕暮れ時、大通りは人々が行きかっていて、私は馬車を降りて宿に向かっている。すでにリテが宿の手配をしていて、馬車も宿の者に預けた。
「人が多いね。」
「あぁ。この町はクリュエルとの国境に一番近い町で、もともと人が多かったが・・・」
そういって声を落としたアルクの視線を追えば、暗い路地裏に何人かが座り込んでいるのが見えた。
「難民は別に区画を用意されているそうなので、あれは違うでしょう。ここの領主は、あまりいいうわさを聞きませんからね。」
難民か。それは、クリュエル城の人が皆殺しにされたことと、関係があるのだろうか?あるんだろうなと思って、私は両脇に並ぶ店を見ていた。
衣類、陶器、肉、野菜など様々な店がある。目を引くのは雑貨屋だ。大量生産品ではない、一つ一つが手作りの品物。洋服や陶器もそうだが、私は小箱やブローチなんかのほうが見ていて面白かった。
アルクとリテは、まだここの領主の話をしていて、ルトもそれに興味を持っているようだ。私は全く興味がないので、歩きながらだが店の観察を続けた。そのとき、カシャーンと、ガラスの割れる音が聞こえ、そちらに目をやればきれいな顔立ちをしたシスターがこちらを凝視していた。
さおり
そう、シスターの口が動いた気がした。シスターのピンクの瞳を見て、目の前がちかちかとして、平衡感覚がおかしくなる。
「うっ。」
「サオリ!?」
「サオリさん!」
「サオリ様!」
私の異変に気づいたように3人が声かけるがそれどころではなく、目の前が真っ暗になり、耳も奇妙な音を拾って3人の声も届かなくなる。ついに、意識も失った。
真っ白な空間。私の前には、無慈悲な女神が立っていた。
唐突に死に、生き返らせられた私は、呆然とその姿を見上げていた。
「生き返らせた。人には過ぎた力も与えた。十分すぎる力だ。その代償ということだ。」
「・・・」
「その記憶は、あってはいけない。」
さおりとして、生活してきた記憶。その大部分が消えていくのが分かった。怖くて仕方がないけど、それでもまだ大丈夫だと自分を慰める。
両親、友達の顔。どれも私の心の中にある。だから、大丈夫だ。
「お前はただ、魔王を倒せばいい。それもいらんな。」
「・・・おとうさん、おかあさん・・・エ・・・?」
思い出せない。大切な何かの記憶が。
両親、友達たちの顔は思い出せる。でも、まだ何かあったはずなのに・・・
父さん、母さん、みゆき、のりこ、さら・・・
他に、誰がいたっけ?
「・・・っ」
「サオリさん!」
「おい、起きろ、サオリ!」
「・・・リテさん・・・アルク?」
目を開ければ、見たこともない部屋にいた。その部屋は広く、リテ、アルク、ルトの3人がいても窮屈には感じない広さだった。
「ここは?」
「宿です。よかった、昨日意識を失ってからずっと目を覚まさなかったので、心配しました。」
「昨日・・・昨日って、確か馬車から降りて宿まで歩いていて・・・」
「あぁ。この宿に行く途中で倒れたんだ。どこか痛い場所とかないか?一応俺が受け止めたけど・・・」
「そうだったんだ、ありがとう。痛いところはないよ。」
「サオリ様、本当に大丈夫ですか?」
「うん。心配かけてごめんね。」
「いいえ。では、アルクさん剣を教えてもらってもいいですか?」
「え・・・だが。」
「サオリさんは僕が見ていますから、お気になさらず。サオリさんもそれでいいですか?」
「はい。アルク、お願い。」
「あー、わかったよ。本当はそばにいたいが。ルト、行くぞ。」
「お願いします。では、サオリ様またあとで。」
なんだか顔つきが男らしくなったような気がするルトとアルクは部屋を出ていった。残ったのはリテだけだ。
「何か夢を見ていたのですか?ずっとうなされていましたよ。」
「見ていた気がするけど・・・よく覚えてません。」
「そうですか。そのほうがよいでしょう。嫌な夢は忘れるに限ります。ところで、朝食はどちらでとりますか?おすすめはこの部屋ですが。」
「なら部屋でとります。ここの食堂は何か問題があるんですか?」
「食堂自体に問題はありませんが・・・いえ、この町は警戒したほうがいいかもしれませんね。食堂に行ってほしくなかったのは、王女とマルトーに会う可能性があるからです。サオリさんもお疲れのようですし、2人の相手はつらいでしょう。」
「面倒ではありますね。昨日のこともありますし。」
「そうですね・・・それで、この町のことですが、なるべく早くこの町を出たいと考えています。昨日も少しお話ししましたが、あまり領主にいいうわさがないもので。無理をさせて申し訳ありませんが、明日には出発を考えています。」
「わかりました。体調はもう万全なので、いつでも出発できます。」
「では、予定通りに、明日出発ということで仲間に伝えてきます。あと、朝食を取りに行ってきますので、少しお待ちください。」
「ありがとうございます。」
部屋を出ていくリテを見送り、ため息をついた。
四天王のこと、やはり無理がありすぎた。アルクもリテも何も言ってこないが、気にはなっているだろう。マルトーだって言及するのはあきらめたが、納得したわけではない。それに、プティは今後このことについて聞いてくるだろう。
「面倒くさい。」