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4 血に汚れた勇者



 私は、辺りを見回し血濡れた部屋に満足した。この光景に満足するなんて、数日前の私では考えられない精神だと思う。

 数時間前までは、想像もしなかった光景だ。


 手、足といったパーツが、そこら辺に散らばり、肉塊が転がっている。先ほどまでは痙攣するように動いていたが、今はそれもない。

 数時間前まで、こうなるのは私だった。いや、流石にここまでのことはされたことがない。だが、血だまりに倒れるのはいつも私だった。


 悲劇だった。長かった。


 永遠に続くかもしれないと思われた実験は、私の心ひとつであっさり終わった。もっと早くに、こうすればよかった。そうすれば、もっと早くに苦しみから解放されたのに。


体がだるい。もう、疲れた。

目をつぶる。そして、実験の日々を思い出す。そうすれば、憎しみが沸き起こって、同時に先ほどの歓喜を思い出す。もっと味わいたい。だから、頑張ろう。


目を開けて、移動魔法を使った。


 ふかふかのカーペットの上。本日2度目の玉座の間は、怒声が響き渡っていたが、私を認識すると彼らは静まり返った。



「王、さっきぶりだね。」



 にこりと、私は笑みを浮かべた。だって、これだけ楽しいことはないと思う。



「殺せっ!」



 先ほどと同じ言葉。王はそれしか言えないのか?


 私は、玉座の真後ろに移動して、王のそばを守る兵士の手を掴んだ。驚く兵士に微笑みかけて、王の真横に移動する。


 驚く王の膝の上に、ボーリングの玉を置いた。あ、首ね。さっきの兵士の首。


 がしゃんと音をたてて、兵士の体が倒れる。






 数分前。

 見慣れた3人の兵士を見つけた私は、彼らの後ろに移動して、3人まとめて移動魔法を使った。

 移動した先は、私がいつも実験されている部屋。男たちは、戸惑っていたが、後ろを振り返って、やっと私の存在を確認する。



「お前、ってうわっ!」



 男の一人が転ぶ。その男は、この中でも最年少らしい男。この男は、私の腕や足を斬り落とすことを進んでやっていた。嗜虐的な笑みを浮かべて、いつも私の体を斬り落としていた。

 だから、彼を選んだ。



「よかった、成功だね。」



 ちょっと頭がずきずきするけど、成功は成功だ。



「な、なんだよ・・・」


「足を見てみなよ。」



 私の言葉に、リーダー格も最年少の男の足を見て、口を大きく開けた。



「は?足って、うわぁぁぁぁああああ!あ、足。俺の足が!」



 叫ぶ彼の足は、膝から下がない。もちろん私がやった。殺人鬼のロープをほどくのと同じ要領で。

 膝から上だけを移動するようにイメージして、魔法を使ったのだ。まさか成功するとは思わなかった。


 私は、叫ぶ男のところまで移動して、男と2人、部屋の隅へと移動する。

 今度は腕をチャレンジしてみた。成功だ。




 そんなこんなで、彼らに実験を手伝ってもらい、私は能力を把握した。


 把握して、歓喜した。それは、今までの復讐を晴らしたからではない。もちろんそれもあるが、自身の能力が想像以上に使えるものだと判明したからだ。

この能力は、私の力になってくれる。どうしようもないこの憎しみを晴らしてくれる。


 最初に首だけを移動した男で、実験は成功だとわかった。ついでに、膝から上を持ってきた男を見て、無理をすれば同時に色々できることがわかった。


 それから、2人の男に協力してもらって、人がどれだけ耐えられるのか、内臓は移動可能かなどの実験をした。



 把握した能力で、私は玉座の間を蹂躙する。




 面白いように倒れていく兵士。笑いが止まらない。


 疲れた。


 でも、楽しくて笑いが止まらない。


 もう眠りたい。


 でも、まだ残っている。笑いが止まらない。



「はは、はははははっ!」



 動くものを、剣で、移動で、動かなくしていく作業。笑いは止まらない。いや、止めてはならない。だって、疲れて眠ってしまいそうだから。


 ほら、単調な作業って眠くなるでしょ?


 そんな、作業を着々とこなして、遂に玉座の間で動く者は一人になった。ちなみに、この部屋の扉は、開けられないように庭にあった石像を扉の目の前に置いた。だから、逃げられた人はいないだろう。



「王、次はあなただね。」


「はう、はう、はひ。」



 気が触れてしまったのか、王は言葉にならない声しか発しない。それでも、私から距離をとろうとするのは、本能だろうか?


 こんな奴のせいで、私は傷つけられた。

 何度も味あわされた痛みが蘇る。もう、傷は治ったはずなのに、傷つけられた部分が熱い。



「ひどい人だよね。」



 私は自分の体を見下ろした。唯一着ている上着は、斬りつけられてぼろぼろ。せっかく、優しい殺人鬼がくれたのに。上等な上着は台無しだ。

全身血だらけ。髪の毛も血で濡れて重かった。



「あなたのせいで、私は汚れてしまった。」



 人を殺してしまった。



「でも、感謝するよ。あまりにも憎しみが強すぎて・・・そのことをなんとも思わないよ。」



 王の頭をつかみ、移動した。



 どさりと、体が崩れ落ちる音が背後で聞こえる。同時に手を離して、首を落とした。




 どさり。私も崩れ落ちて、目をつぶる。

 あぁ、眠い。


 ただ、眠い。人を殺す罪悪感は、憎しみに負け喜びに代わり、憎しみを晴らした歓喜は、眠気に負けた。




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