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38 いつでも




 結局、休憩時間に森に行くことも、戦闘能力をルトに話すこともできなかった私は、宿の部屋のベッドの上で腕を組んでいた。


 夕飯も済ませて、後は寝るだけ。私は、みんなが寝静まるのを待っていた。


 今日は、ゼールに会って、クリュエル城にあったという資料の内容を問い詰めなければならない。あと、それが誰の耳に届いているのかも。

 別に約束はしていないが、どうせ屋敷のあの部屋に移動すればいるだろうという確信があった。


 コンコン。唐突に部屋をノックされ驚いていると、外から小声でアルクの声がした。私はそれを聞いて、扉を開ける。


「こんな時間に悪いなサオリ。」

「別にいいけど、どうしたの?」

「いや、その・・・今日色々あったしさ。ま、昨日もだけど。それで、お前ひとり部屋だろ?だからちょっと気になって。」

「心配してくれたんだね、ありがとう。ルトは?」

「あぁ、今日はマルトーと同室なんだ。でもあいつ、酒でも飲みに行ったみたいで、今部屋にいないんだ。」

「そうなんだ・・・えーと、とりあえず私は大丈夫だから。心配してくれてありがとうね。」

「あぁ。・・・サオリ。」

「何?」

 何度か口を開けては閉じるを繰り返すアルクに、何か言いたいのだろうことはわかるが、何が言いたいのかはわからなかった。


「無理はするなよ・・・」

 結局、それだけ言って彼は帰っていった。


 私はそれから10分くらい待って、移動魔法を使った。



「お帰りなさいませ、ご主人様。」

 屋敷の例の部屋に移動すると、そこには土下座しているゼールがいた。思わずひっと空気が漏れた。いや、驚くだろ!


「な、何してんの!?」

「お出迎えです。」

「ごめん、昨日みたいに自然体でしてくれない。心臓に悪い。」

「驚かせることができて、うれしいです。ただ顔を合わせるだけでは、私のことなど記憶の隅にも置いてもらえないでしょうから。」

「いや、そんなことないから。今日だって、ゼールに聞きたいことがあってきたんだよ。」

 そう言うと、ゼールは崩れ落ちた。


「だ、大丈夫・・・?」

「幸せすぎて、恐ろしいです。それで、何をお聞きになりたいので?」

「その前に、ソファに座ってくれない?落ち着かないんだけど。」

「仕方がないですね。命令とあらば。」

 別に命令ではないけど、そこは黙っていた。面倒だから。


「サオリさんもどうぞお掛け・・・」

「どうしたの?」

「いえ、こう見下ろされるものは、いいですね・・・」

 無言でソファに座ると、とても悲しそうな顔をゼールがした。知るか。


「私の自動治癒のこと、ルトに話したでしょ。」

「あの駄犬が・・・」

 スッと、表情を失くしたゼールに驚いたが、彼はすぐに胡散臭い笑みを浮かべ直す。


「えぇ。その資料のことでしたらご安心を。私が握りつぶしておきましたから、知っているのは私とルト、友人のみです。友人は、口が堅いので大丈夫でしょう。」

「・・・なら、別にいいかな。ところで、他に私のことで知っている情報があったりする?」

「さぁ、どうでしょうか。それよりも、今回の実験もうまく行ったようですね。移動魔法を使った疲労などはありませんか?」

「全く。で、何があるの?」

「何がですか?」

「・・・私のことで、他に知ってること。」

「ふふっ。」

「何がおかしいの?」

「いいえ。ただ、知りたいのならどうすればいいか、わかっていますよね?」

「・・・命令して欲しいの?」

「はぁ・・・」

 嬉しそうに息を吐いた。正解だろう。


「・・・別に、話したくないのならいいよ。命令するほどのことでもないし。」

「はぁ。」

 今度は残念そうに息を吐きだした。そんなに命令して欲しいのだろうか?


「もう行くね。明日も早いし。」

「そうですか・・・」

 残念そうな顔。こんな少しの時間のために、彼はいつもここで待っているのだろうか?ま、まだ2回目だけど。それに、頼んでないし。


「そういえば、昨日もここにいたの?」

「はい。昨日はどうかなさったのですか?」

「・・・昨日は色々あって、同じ町の宿に泊まってね・・・移動する必要がなかったんだ。」

「そうですか。仲間とはうまくいっていない様子ですね。」

「!」

「やはりそうですか。それも仕方がないことでしょうね。」

「・・・結構まずい状況なんだよね。私が戦えないことを、マルトーとプティが許せないようで、それは仕方のないことだけど。面倒なんだよね。」

「では、処分しましょうか?」

「は?」

 さらっと、自然にゼールは言った。だから、聞き間違いかと思ったのだが、そうではないようだ。


「邪魔であるなら、その2名は、こちらで処分いたしましょうか?別に、あの2人の力は必要ないのでしょう?」

「・・・なんでそう思うの?」

「それは、あなたがそういう方だと思っていますので。あなたは強い。そして、自分が可愛い。命の危険を冒してまで世界を救うなんて考える方ではないでしょう。」

「そうだけど・・・」

 なんでそこまで分かるのだろうか?ちょっと怖い。


「そのあなたが、魔王を倒すことに不安は抱いていない様子です。それは、元から魔王を倒す気がないか、魔王を倒す自信があるかのどちらかでしょう。私は後者だと思っています。倒す気がないのなら、もう姿をくらましてるでしょうから。」

「・・・そうだよ。まだ魔王を見ていないから確信は持てないけど。正直、私一人でいいと思っている。でもね、それだと私が目立つし、最強にはなりたくないから、私は別の人にその手柄を譲る気だよ。」

「そうでしょうね。それで、どういたしますか?処分は?」

「・・・いいよこのままで。」

「ですが、危ないのでしょう?」

「確かに、今のままだと、魔王にたどり着く前にうっかりだれか死ぬかもしれない。でも、その時は・・・腹をくくるよ。」

「・・・私はあなたに従います。ですが、いつでも準備は出来ていますから・・・」

 ゼールは私の手を取って、耳元でささやいた。それは、悪魔のささやきのようだ。


「いつでも私をお使いください。」




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