33 尋問?
御者台で雑談をしていると、アルクが突然真面目な顔をした。
「どうしたの?」
「魔物だ。サオリは一応中に入ってろ。リテッ!接敵するぞ、準備しろ!」
「わかりました!サオリさんは中へ。」
「はい。」
私は馬車の中へと入り、入れ違いでリテが御者台に行く。
中に入ると、ルトが私のそばに寄ってきた。
「大丈夫です、サオリ様。お2人は強いので。」
「うん。」
「あなたは戦わないのかしら?勇者でしょう?」
「・・・私が戦えないのは、知ってるよね?それとも、忘れちゃったの?」
「戦えない・・・本当に、あなた何しに来たのかしら。」
「・・・」
プティの言葉には悪意があった。でも、私はその悪意に怒りを覚えたり、怖がったりは出来ない。だって、戦いたくても戦えないというわけではないし。戦いたくないから、戦えないことにしてるだけだから。
でも、面倒には感じた。
「サオリ様・・・」
「大丈夫だよ。本当のことだし。」
こちらを見つめるルトに、笑って答える。なぜか、目をそらされてしまった。あれ、怖かった?笑いが怖かったのだろうか?
何事もなく魔物を倒した2人は、その後何度かそれを繰り返し、今日の目的地である町に到着した。私たちは、その間ずっと中にいたので、降りたときは伸びをしたりして、体をほぐした。
「明日は、おいらが御者を務めるぞ。」
「わかりました。では、宿にも到着したことですし、各自明日まで自由時間ということで、解散しましょうか。」
「よし。なら市場でも見に行こうぜ、サオリ。」
「うん。行こう、ルト。」
「あ、待ちなさいよっ!」
プティが止めるが、私は聞こえないふりをして、アルクと共に走り去った。気づけばリテを置いてきていたのだが、それは仕方がないということにした。
3人で市場を周り、雑貨を見たり食べ歩きをしたりして、あっという間に日は暮れた。
「腹は減ってるか?」
「いや、全然・・・結構食べ歩いたからね。ルトは?」
「僕は、少しお腹がすきました。」
「育ち盛りだもんな。よし、ルトは先に帰って、宿で飯を食べろ。ほら、これ飯代な。」
アルクは、ルトにお金を渡すと、私の手を引っ張って走った。
「俺たちはこっちだ。」
「え、ちょっと!」
そのままアルクに引っ張られて行く。ルトは、手を振って、「お気をつけて」と言っていた。まさか、捨てられた!?
慌てて付いてくると思っていただけに、ちょっとショックだった。
連れてこられた場所は、広場だった。
ひらけた場所にあるのは、大きな噴水だけで、人っ子一人いない。おそらく、明るいうちは多くの人が行きかう場所なのだろうが、今は私たち以外誰もいなかった。
「ま、座れよ。」
噴水の淵に座って、アルクは隣をポンポンとたたいた。そこに座れという事だろう。言われたとおり座った。
「疲れただろ。」
「それはアルクの方じゃない?町に到着するまでずっと御者をしていたわけだし。私はただ乗っていただけだから。」
「俺は大丈夫だよ。こういうのは慣れてるし、訓練を積んでいる。サオリは違うだろ?」
「そうだけど・・・でも、何もしてない私が疲れたとか・・・言いにくいし。」
「遠慮しすぎだ。ま、あの2人はともかく、俺たちには甘えてくれていいんだぞ?」
「・・・ありがとう。確かに、ちょっと疲れたよ。」
「そうそう。正直が一番だぜ。」
そう言って、アルクは私の頭をなで始めた。最初は驚いたが、何も言わずそのままにしといた。嫌ではないから。
「正直になったところで・・・ついでに話してくれないか。隠してること、あるだろ?」
「・・・!」
撫でている手は優しい手つきだが、声は少し冷たくて、責められているようだった。いや、私に罪悪感があるからそう聞こえるだけかもしれない。
「アルク・・・何言ってるかわからないよ。」
「・・・サオリ。」
「・・・」
黙っていると、突然肩を抱き寄せられた。いきなり何をするのかと驚いていると、耳元でアルクの声がした。
「記憶、戻っただろ。」
「!?」
アルクの顔を見上げれば、眉間にしわを寄せたアルクの顔があった。
鎌をかけたとか、そういうことではないのだろう。アルクは、確信していて、それを言わない私に腹を立てているのかもしれない。
嘘は通じないな。
「いつから気づいてた?」
「・・・移動魔法をサオリが最初に使った時だ。」
「最初からじゃん。」
「顔つきが変わったから、すぐにわかったんだよ。ま、それだけじゃないが・・・」
そんなに変わるものだろうか。ま、人殺しの顔つきをしているという事だろう。
「サオリ。何があったんだ?」
「・・・知ってるでしょ。人殺しが、人を殺していた。城の人が次々と人殺しに殺されていって、最後に私だけが残った。それだけだよ。」
「・・・サオリは、どこにいたんだ?」
「いつものように、牢屋の中にいた。そう、話したよね。そこで襲われて、私の中で何かが変わった。仕方がないと思っていたことを、そうではないと思い直して・・・」
だめだ。正直に今まであったことを話し出そうとして、私は黙り込む。
なんとか、辻褄が合うように話さなければ。
「そう、逃げたくなったの。気づいたら、王様の目の前にいて・・・そこで何回か刺されて、うずくまっていたの。そしたら、殺人鬼が来て周りの人を殺していった。」
本当は、王様の前からもう一度牢屋に戻って、殺人鬼を解放した後に、能力の実験をしながら城の人々を殺したんだけどね。
「それを見ていたのか?」
「・・・そうだよ。城の人たちは、簡単に殺されていったよ。」
口元が緩む。あぁ、だめだ。笑ったらだめだ。無理に口を引き結ぶ。
「叫び声があっちこっちから聞こえて、肉の断つ音とか・・・とにかくうるさかった。でも、ずっとそこにいたら、いつの間にかその音が聞こえなくなって。最後に、王の無様な声だけが聞こえたよ。」
情けない王の姿を思い出せば、笑えてくる。何とか耐えて、口元をおさえた。
「そうか・・・ずっと見ていたのか?」
「うん。最初から最後まで見ていたよ。最後、王の首が床に転がって、そこで私の意識も無くなった。それまでは、ずっと見ていた。」
「・・・死神ピエロは、どういう風に殺していた?」
アルクの質問に、意識が現実に戻った。
目の前にあの光景があるかのように、鮮明に思い出していたのだ。危なかった。そのまま本当のことを言ってしまうところだった。
「死神・・・ピエロは・・・剣を振ってたよ。騎士や兵士が持っている剣を奪って、それを使って城の人々を殺していた。・・・ごめん、アルク。もういいかな?」
口を滑らしてしまわないうちに、私は話すのが辛いというように顔を伏せた。
「本当は、もっと詳細を聞かなきゃなんねーが・・・俺もサオリを辛い目にあわしたくないんだ。悪かったな、こんなこと聞いて。」
「いいよ。必要なことだもんね。」
それから、2人して黙って座っていたが、ルトが迎えに来たので、私たちはそのまま宿へ戻った。




