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30 メンバー集結



 御者を見送り、壊れたゼールとルトに挟まれた私は、まずはゼールから対応することにした。


「ゼールさん、その気持ち悪い態度やめていただけませんか?」

「気持ち悪い・・・ふふふっ。」

 悪口を言われたはずなのに、なぜか顔を赤くして喜ぶゼールから、私は距離をとった。さりげなくルトも私をかばうように立ってくれる。


「そうですね。人の目のあるところでは善処してもいいでしょう。ただし、条件があります。」

「・・・とりあえず言ってみてください。」

「私を踏んでください!」

 鼻息荒く言ったゼールを見て、確信した。こいつはマゾだったのだと。


「ルト、踏んで差し上げて。」

「喜んで!」

 笑顔でゼールを蹴飛ばして、倒れこんだゼールの腹を力加減せずに踏んだルト。ストレス発散できてよかったね。って、違うわっ!?

 まずい、私まで壊れかけている。これは良くない。この流れに乗ってはだめだ。


「ふふっ。これはこれで、いいですね。新たなる喜びに目覚めそうです。」

「いや、もう目覚めてるでしょ。完全に。」

「サオリ様、この気持ち悪いのどうしますか?潰しちゃいます?」

「ルト、可愛い顔してそういうこと言うのやめて。とりあえず、もういいからどいて。」

「はい。」

 ルトがどいたというのに、ゼールは一向に立ち上がろうとしない。


「どうしました?」

「いいえ。ただ、この眺めが最高だな、と。」

 見下ろされていることに、身を振るわせて喜んでいるようだ。

 馬鹿らしくなってきた。


「何でもいいので、立ってください。御者さんを待たせていますので。」

「わかりました。」

「素直ですね。また何か要求されるのかと思いました。」

「それはまたの機会にします。そろそろ馬鹿騎士が戻ってくる頃合いですので、屋敷に戻った方がよろしいでしょう。」

 そう言って、腰に手をまわすゼールはいつもと変わらないように見えた。だが、あれが幻覚だったのかもしれないとは思わない。だって、彼の服は汚れていて、腹にはルトが踏んだ時に付いた土が付いているし。




 いくつかのトラブルはあったが、やりたかった実験は出来たので良しとしよう。ゼールにも借りがあるので、彼の頼みは極力聞いてあげることにした。

 とりあえず頼まれたことは、旅に出ても定期的に彼の屋敷にくるという、私の予定通りのものだった。

 ま、移動能力が使えなければ果たせないものだけど。


 あと、彼にはため口で話すことになった。どうでもいいけど。

 ご褒美に踏んでくださいと言われるよりは、全然苦ではない。


「あなたが覚醒するときを、楽しみに待っています。」

 とか、最後に言われたが無視した。




 大きな事件もなく、のんびりと過ごしていた私たちだったが、遂に出発の時が来た。

 他の仲間と顔合わせはしていないが、魔王討伐隊のお披露目パーティーが開かれるので、そこで顔を合わせるのだろう。今回は前と違って、私だけ注目されることはないと信じたい。




 大きなシャンデリア。その下で談笑する人々と豪勢な食事。

 明後日に出発を控えた私たちは、人々の注目の的になっていた。


 宰相と呼ばれる人に、ひとりひとり紹介されるメンバー。私の知らない2人は、マルトーとプティというらしい。

 マルトーはいかにも戦士と言った、マッチョで体の大きな男だ。

 プティは、フードをかぶっていてよくわからないが、華奢な女性で、髪の色が金だということはわかった。


 アルク、リテと紹介が続く。

 集まった人々は、笑顔と拍手をメンバーに送っていた。


「それでは最後に、勇者サオリ様と、その所有物ルト。」


 紹介されたので、私は一歩前に出てお辞儀をした。送られたのはまばらな拍手。笑顔もどこか胡散臭かった。どうでもいいけど。



 自由時間となり、メンバーはそれぞれ多くの人々に囲まれた。


 プティの周りには老若男女問わず集まり、中にはこの前の王子がいた。

 マルトーの周りには、若い男が集まっており、みんな屈強な体をしているせいで、筋肉祭りになっている。


 アルクとリテは、花畑のように色とりどりのドレスが群がっている。つまり、令嬢たちだ。

 2人ともこちらを気にしているようだったが、抜け出すのは難しそうだ。


 そして、私とルトの周りには・・・


「サオリさん、あちらで今後について語り合いませんか。」

「ゼールさん、あなたも来てたんだね。」

「はい。ちょっとしたコネがありますから。それにしても、ここは空気が悪いですね。」

 私たちの周りにはゼールしかいなかった。遠巻きに見ている人はいるが、感じの悪い視線を寄こすだけだ。


「さ、行きましょう。」

 腰に手をまわして、いつものようにゼールは私を連れて行ってくれた。でも、そこで声を掛けられて、私たちは立ち止まる。


「どこへ行くというのかしら?まだ宴は始まったばかりというのに、主役の自覚がないのではなくて?」

「プティさん・・・でしたよね。初めまして。」

「私、まだ名乗っていなくってよ?」

 深くかぶったフードの女、プティはあざ笑うようにそう言ったが、何を言われているのかわからない。


「煩い女だ。」

「!?」

 ぼそっと、彼女には聞こえないような、おそらく私にも聞かせるつもりはなかったのだろう、ゼールの独り言が耳に届いた。こいつは誰だ。

 胡散臭い笑顔をするでもない、マゾな要求をするわけでもないゼールがそこにいた。でも、その顔はすぐに変わって、胡散臭い笑みを浮かべる方になった。


「これは失礼。」

 スッと、私をかばうように前に出たゼールは、にっこりとプティに笑った。


「ここは空気が悪いので、もう少しましな場所へお連れしようと思ったのですよ。主役の自覚をとおっしゃるのなら、周りにもそれを促すべきでは?王女様。」

「王女!?」

「この、無礼者!私が身分を隠していることを察することもできないの?」

「おや、そうでしたか。なら、あなた様のご身分は、何様でございますか?こちらは、勇者位のサオリ様でございますが?」

 どうみても煽っているゼールの態度に、私は冷や汗が流れた。だって、彼女は王女らしいのだ。一商人のゼールが敵う相手ではないだろう。


「くっ・・・」

「私の記憶が間違いでなければ、あなたは確かプティと名乗っていましたね。家名はないようだ。つまり、平民の身分として、旅に同行されるのではありませんか?」

「・・・そうよ。邪魔して悪かったわね。」

 こちらに背を向けて、彼女は去っていった。入れ替わりに、この前の王子がこちらに来ようとしたが、プティに止められて視線だけこちらによこして、去っていった。


「・・・よくわからなかったけど、とりあえず、ありがとうゼール。」

「いいえ。お気になさらず。」

 そして、耳元で「ご褒美楽しみにしています。」と呟かれたことは、忘れることにした。




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