27 実験の傍らで
サオリ様の護衛として付いて歩き、倉庫まで来た。
一通りゼールに案内された後、サオリ様はさっそく実験を始めると言って、力を使った。
まずはサオリ様だけの移動。一瞬で消えた姿に、不安を感じる。でも、それもまた一瞬のことで、すぐにサオリ様は戻ってきた。
「問題なく移動できました。ルト・・・大丈夫だから、そんな顔しないで。」
「申し訳ございません・・・でも、心配で。」
僕の顔を見て困った顔をするサオリ様。なんて優しい人なのか。そして、僕はなんて愚かなのか。
「ありがとう。そうだ、ゼールさん。」
「はい。なんでしょうか?」
「実験はそう時間のかからないものだけど、少しの間でいいからルトに旅に役立つ豆知識的なものでも教えてもらえませんか?商品の使い方とかでもいいので。」
「かしこまりました。では、少し離れますね。」
「え?あ、失礼します。」
状況にようやくついていけたので、僕は慌ててお辞儀した。
倉庫を出て、外に出ると空気が澄んでいて、風が気持ちよかった。
「さて、話しておきたいことがある。」
唐突に口調を変えたゼール。驚きはしなかった。そういう男だということは知っていたから。逆に丁寧語を話されたときは、鳥肌が立ったものだ。
「サオリさんのことだ。どうせあの過保護の馬鹿騎士共はお前には伝えないだろうから、私が詳細を伝えておこう。」
「お願いします。」
「あぁ。まず、実験についてだが、サオリさんの腕や足を斬り落とす、灰になるまで燃やすなどの行為が行われていたようだ。」
「・・・!?」
驚きすぎて声が出ない。今のサオリ様の手足が無事なのだから嘘だとか、そういう言葉は浮かんでこず、ただ事実として受け止めて頭が真っ白になった。
「なぜ、そのような実験が行われたのか。なぜ、サオリさんが無事なのか。その秘密はサオリさんの能力にあった。彼女のメインの能力は、移動魔法だが、どうやらサブの能力があるらしい。これは、あの馬鹿騎士の報告にはなかったようだが、クリュエル城で発見された資料に書かれていたことだ。」
次々と事実を並べ立てられ、理解する暇もない。だから、一言一句聞き逃さず、頭に刻み込むことにした。理解するのは後でいいと。
「その能力は、自動治癒。なんでも、体の一部が斬り落とされようが、燃やされようが、勝手に回復して元通りになるようだ。普通ならありがたい能力だが、それのせいで実験されてはたまったものじゃないな。」
サオリ様は、何度腕を斬り落とされたのだろう。何度、燃やされたのか。何度も痛みに苦しんで、治ったかと思えばまた痛みに苦しめられたのだろう。
「何度も実験を繰り返し、サオリさんの自動治癒に関しては、ほぼデータが取れた頃、あいつらはとんでもないことをしたんだ。」
これ以上、何をするというのか。
体を何度も切り刻まれて、斬り落とされて・・・それ以上があるのか?
「兵士に、サオリさんを襲わせた。」
「・・・っ」
サオリ様の顔が浮かぶ。僕に向けられた優しい笑顔の数々が。
どうしようもない怒りがあふれ出す。だが、その怒りを吐き出せるものはない。
「それは・・・どうしてですか。」
息が荒くなりながら、なるべく冷静に質問する。
「子供が欲しかったのだと。それが男で、自動治癒を持っていれば・・・クソのような考えだ。全滅したのは、因果応報だな。」
ゼールは遠くを睨みつけていた。その方向にクリュエル城があるのかはわからないが、おそらく彼にはその城が見えているのだろう。
「・・・はぁ。それで、他には?」
息を吐き出し、怒りで震える声を落ち着かせて聞く。
「そうだな。これは話すつもりはなかったのだが、この際だ話そうか。ただ、これはあくまで俺の想像にすぎない。そこを忘れないでくれ。」
「わかりました。」
「サオリさんは、地下で幽閉されていたようだ。」
「それは、まるで罪人の扱いではないのですか?」
「その通りだ。だが、話したいのはそこではない。頭には来るがな。」
険しい顔をして話していたゼールだが、途端に胡散臭い笑みを浮かべた。その理由は、すぐにわかった。
「あ、良かった。ゼールさん、いいですか?」
サオリ様が倉庫から顔を出していた。その顔に悲しみの色などはない。
「はい、なんでしょう。」
「?・・・あの、ルトが何かしましたか?」
「いいえ?」
「そうですか。ならいいです。」
ゼールの胡散臭い笑みを見て思うところがあったのだろうが、サオリ様は深くは追及しなかった。
「実は、もっと大きくて重いものを移動できるかやって見たくてですね、ここら辺にありますか?なければ後日にしますが。」
「あぁ、それならこちらへ。」
ここは倉庫が並ぶ区画なので、サオリ様が出てきた倉庫とは別に、5つほど同じものがあった。ただ、中身は違うようだが。
「こちらはガラク・・・美術品をしまっておりまして。」
ガラクタと言いそうになったのを直して、ゼールは倉庫を開けた。
「確か石像があったと思います。あぁ、ありました。あれをお使いください。」
「ありがとうございます。」
礼を言って、サオリ様はガラクタ倉庫に消えて行った。
「さて、続きを話しましょうか。時間はなさそうですが。」
鳥肌が立つ。サオリ様と話したせいで、丁寧口調になってしまったのだろうが、気持ち悪くて仕方がない。
「お前、可愛い顔をして失礼な奴だよな。」
「正直なだけです。」
「そういうところもだよ。」
「それで、話の続きをお聞きしてもよろしいですか?」
話された内容は、辻褄が合うもので、ゼールの考えすぎだと笑えるようなものではなかった。
「クリュエル城を落城させたのは、サオリさんだ。」