表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/111

13 リテの考え



 夜。さおりに挨拶をして部屋を後にしたリテは、同じように隣を歩く同僚に腕を引っ張られて、そのまま彼の部屋に連れていかれた。


「ここならいいだろ、リテ。」

「なんですか、アルク?男の部屋に連れ込まれても、全く嬉しくないのですが?」

「俺もだよ。てか、はぐらかすな。言え。」

 誤魔化そうとしたことを見ぬかれ、やれやれとため息をつく。


「クリュエル城の石像が、何だっていうんだ?それとも、中庭か?」

 そう問われてしまえば、答えるしかないだろうと思い、リテは口を開いた。


「石像が中庭にあった・・・それを彼女が言ったことが問題なのですよ。」

「・・・石像が中庭にあるのは普通だろう。」

「そうですね。ですが、思い出してください。僕たちがクリュエル城に行ったとき、おかしなところがありましたよね?」

「おかしなところ?」

「玉座の間の扉・・・その前に何がありましたか?」

「・・・あ、石像・・・石像があったな。」

「そうです。」

 なぜか屋内にあった石像は、かなり印象的だった。なぜあのようなところにあったのか。それがあの国の常識だということは、ないだろう。


「おそらく、あの石像は中庭にあったものでしょう。あそこの中庭の芝生に石像が置かれていたらしき跡がありました。」

「そんなの調べてたのか。」

「まぁ、僕は中庭で彼女が起きるのを待っていましたからね。中庭は一通り調べました。」

「暇だったんだな。」

「落ち着かなかったんですよ。ま、そういうことです。」

「何がだよ?」

「わかりませんか?」

 若干あきれたように言われれば、アルクも頭を使う気になった。今までの話から何がわかるのか。何が問題なのか。


「なんで城の中に石像を入れたんだろうな?しかも、どうやって・・・」

「それも不思議ですが、そこではありませんよ。」

「え・・・うーん。」

 もう一度考えるが思いつかない。だいたいこういうのは、最初に思いつかなかった時点で、他のことを思いつくことは難しいのだ。


「ヒント。」

「・・・最初に言いましたよ。」

「・・・あぁ。あの子が言ったことが問題とか・・・あっ。」

「やっと気づきましたか。」

「なんであの子、中庭に石像があること知ってたんだ?確か、俺たちが行ったとき石像なんて、中庭になかったよな?」

「はい。そうですよ。そして、あの日初めて中庭に行ったと言っていました。」

「だよな。」

 中庭にあっただろう石像は、なぜか城の中にあった。さおりが中庭に初めて来たときには、もう中庭には石像はなかったのだ。なのに、さおりは中庭に石像があったことを話していた。


「誰かから・・・聞いたとか?」

「そうだと思いたいですが、彼女の様子から、自分の目で見た可能性は高いと思います。」

「だよな・・・でも、別に不思議なことじゃねーよな。あの子記憶がないわけだし。」

 中庭の石像を見た後、記憶を失くした。そのときの記憶は覚えてないが、中庭に石像があるという情報は覚えていたのだろう。


「・・・」

「記憶が戻りかけているってことか。」

 記憶を失くしたということは、それほど悲惨な光景を目の当たりにしたのだろう。あれだけの死体を見れば、どれだけひどい光景だったのかは想像がつく。

 記憶が戻れば、苦しむだろう。アルクはそれが心配だった。


「話は変わりますが・・・あの玉座の間にいた男の呼称が決まりました。」

 リテの言葉で、玉座の間にいた強そうな男のことをアルクは思い出した。


「そうか。ま、あいつ名乗ってなかったしな。で、どんな呼び名になったんだ?」

「死神ピエロです。」

「死神ピエロ・・・か。ピエロって感じはしないが、死神ってのはぴったりだな。」

 クリュエル城の惨状を思い出し、顔をしかめるアルクを一瞥したリテは、話しを終わらせた。


「そうですね。・・・それでは、僕はこれで。」

「あぁ。また明日。」

「はい。」

 部屋を出て扉を閉めると、大きなため息をつくリテ。


「気づきませんか・・・アルク。」

 彼の頭の中では、さおりの姿・言動などが何度も再生されて、答えにたどり着く。だが、それを否定したくて、もう一度それを繰り返し、同じ答えにたどり着く。


 血だらけのさおり。服は上着一枚しか着ておらず、それは男物だった。そして、絞れるほどの血を含んでいた。


 最後の記憶は、クリュエルの兵士に襲われるところ。


 これだけではない。違和感がいくつもある。

 リテは首を振った。信じたくないという気持ちで、たどり着いた答えを振り落とす。


「気のせいです。」

 自分に言い聞かせる。でも、それがどれだけ虚しいことか、彼は理解していた。


「死神ピエロ。」

 それは、玉座の間にいた男の呼称。クリュエル城を襲い、多くの命を奪ったとされる男につけたれた呼称だ。でも、本当にあの男がやったのだろうか?


「外のやつか?俺がやったよ。頼まれたからな。それより、お前たちはこの城の人間ではないのか?」


 死神ピエロの言葉が蘇る。

 外のやつ。つまり、玉座の外の惨状のことを指したと思われる。実際、玉座の間以外は、死体に同じような傷があった。その数さえ見なければ、死神ピエロが一人でやったという言葉も納得ができる。


 頼まれた。それは、誰に?

 もし、彼が魔人で、魔王の配下だとするなら、頼まれたというだろうか?命令された、というだろう。


「サオリ。」

 再び、答えが出てしまう。愚かな答えが。

 それを否定するため、首を振った。


「魔王の配下ではなかった。友人等の関係だった。もしくは、頼んだのは魔王ではなく、人間。クリュエルに不信感を抱く他国の者。これが、答えでしょう。」

 なら、玉座の間の惨状を引き起こした人物は?


「死神ピエロの仲間。」

 それが自然な考えだと、頷いた。


 決して、哀れにも冷遇されていた勇者が引き起こした復讐などと、そんな考えは異常だから考えてはいけない。忘れることだ。


 リテは、さおりに対して、同情し幸せになって欲しいと願っている。だから、そのさおりの手が血に汚れているなんて考えたくなかった。


「考えてはいけない。」


 もしも、さおりが復讐者だったとしたら?


「考えたくもない。」


 リテは、真実を否定した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ