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11 謁見



 玉座の間は、世界共通の仕様でもあるのだろうか?歩く床には赤いカーペットが敷かれて、その先には階段があり、高い位置に玉座がある。


 広々とした空間にいるのは、30名程度。おそらく、私に配慮してのことだろう、必要最低限の人数といったところか。



「面をあげよ。」



 王の言葉を聞き、私は顔をあげた。私の両斜め後ろに控える騎士2人は動かない。


 そこから王は、私に謝罪をし、勇者としての地位を約束してくれた。とても優遇されていると思うが、これに甘えるだけでは、これからやってはいけないだろう。



「何か、要望はあるか?」



 そう聞かれて、私は返事をした。正直、王様への言葉遣いとかわからないので不安がいっぱいだけど、私はまずこの国に協力的であることを示さねばならない。



「はい。あの、私能力が使えないのです。移動能力というものですが、使い方はおろか、どうい

ったものなのかも理解できていません。」


「らしいな。それで?」


「はい。私は、この国に大変感謝しています。ですから、その能力で恩返しができればと思っています。使える能力ならばぜひ、この国で役立たせてください。」



 私の言葉に、左後ろいたリテがわずかに反応した。



「勇者の意思は理解した。まずは、その能力を使えるようになれ。」


「はい、精進します。」


「要望はそれだけか?」



 他にもあった方がいいのか?いや、これ以上何か言うものではないか。



「ありません。」


「勇者の今後に期待している。下がれ。」


「はい。」



 この方法が正解なのか、わからない。でも、言えることは言ったと思う。




 与えられた部屋に戻る。アルクとリテも一緒に部屋に入った。

 とりあえず座るように促されて、アルクは傍に立って控えた。反対側に立ったリテを見上げると、悲し気な瞳で私を見下ろしていた。



「なぜ、あのようなことを。もう、あなたが傷つく必要はないのですよ?」



 そのように言われれば胸が温かくなるが、それだけだ。残念ながら、給料泥棒と罵られただけで傷つくほど、私は弱い。だから、あのように言うしかなかったのだ。



「リテ、わきまえろ。サオリがそう決めたのなら、俺は従う。何が起きたって、俺たちがサオリ

を守ればいいだけの話だろ?」


「あなたの志は立派ですが、守り切れないことだってあるでしょう。心構えとしては素晴らしいとは思いますが、もう少し現実を見て下さい。」


「・・・はぁ。頭固すぎんだろ。」


「聞こえていますよ。」


「聞かせているんだよ。だいたいもう決まったことだ。ここで話しても仕方ないだろ?今後のことを話そうぜ?サオリは、能力を使いこなせそうか?」


「まだ、全然・・・使えそうな気がしない。」



 落ち込みながらそう言うが、リテはそれを笑顔で受け止めた。



「それはいい。能力さえ使えなければ、あなたを国のために働かせるなんてできませんからね。そのままでいてください。」


「う・・・」



 私を心配してのことだろうけど、役立たずと言われたようなものだ。そんな称号はいらないし、少しでも役に立ちたい私は傷ついた。



「リテっ!サオリ、気にするな。普通の女の子は、大きく国の役に立つなんてことほとんどないんだ。男も同じだけどな。それが普通だ。」


「でも、私は勇者だから・・・普通じゃ、周りが納得しないよ。」


「それは・・・」



 アルクは言葉に詰まって、何も言えなくなってしまった。



「勇者など、こちらの世界の者が勝手に呼んでいるだけです。気にする必要はありません。」


「・・・わかった。なるべく、気にしないようにします。」



 そう言った私に、リテは微笑んだ。

 少し顔が熱くなって、顔をそらす。



「そ、そういえば・・・なんで2人は座らないの?席なら空いてるよ?」



 誤魔化すように、しかし気になったことを聞いてみれば、間があった後に抑えた笑い声が聞こえた。



「え、何?」



 もしかして、誤魔化したのがばれた?リテの微笑みに赤くなっていたのがばれた?



「いや、わりー、わりー。そうだよな、ならお言葉に甘えて座らせてもらうわ。」



 ドカッと、左隣に腰を下ろしたアルクに驚く。正面にもソファはあるのに、なぜ隣!?



「アルク、任務中ですよ。」


「いいじゃねーか。城なんてほぼ危険はないわけだし。それに、俺たちが立っていたら、サオリが落ち着かないだろうし、話しなんてしていたらサオリの首が痛くなるだろ?な?」



 そう言って肩をポンッと叩かれた。少し気恥しい。距離も近いし。



「アルク、護衛対象に気安くしすぎだ。他のご令嬢だったら、お前の首が飛ぶぞ。」


「でも、俺が今護衛しているのはサオリだ。それに、こういうスキンシップは大事だぜ?いざって時に、恥ずかしくて触れられなかった・・・なんてことにならないようにな、リテ。」


「な、そんなことあるわけないでしょう!」


「わー、ひどい奴だ。それはなんだ、サオリに女の魅力はないってか?」


「え?」


「それは違います!」



 私が反応すると、リテは私の肩に手を置いて、首を振って否定した。



「あなたは、女性らしくて思わず守ってあげたくなるような存在です。その心も清廉潔白で、この世界の勝手な事情にも合わせて、努力するその様に僕は感動しました。ですが、そんなあなただからこそ傷ついて欲しくない。」


「はい、そこまで。」



 私の後ろからアルクの手が伸びてリテの体を押し、リテと私の距離が離れた。



「何?口説いてんの?そんなのは、プライベートでやれよ。サオリ、リテが悪かったな。ま、あおったのは俺だけど。」



 ニヤっと笑った後、アルクは立ち上がって、扉の方へと歩いていき、リテも先ほどの立ち位置に戻っていた。どうしたのだろうかと思っていたら、部屋にノックの音が響き渡り、納得した。


 お茶の準備をリテが頼んでいたことを思い出し、メイドが来たのだろうとわかったが、なぜ2人がノック前に気づいたのかはわからない。そういう能力なのかな?



 お茶を部屋に運んだメイドは、てきぱきと机にティーセットを並べると部屋を出て行った。



「いい香り。私、紅茶の香り好きなんだよね~ま、銘柄とか種類とか全然わからないけど。」


「俺もそういうのは全然興味ねーな。ま、のどがうるおせれば何でもいいぜ。」


「それなら、少し勉強なさった方がいいかもしれません。知らない、わからないというのは、馬鹿にされることが多いですから。別の世界から来たので、こちらの世界のことがわからないのは当たり前ですが、それを笑う者も多いでしょう。逆に、そういうことを知っておけば、そういう輩を鼻で笑ってやれます。」


「確かに・・・典型的ないじめで、こんなこともわからないの?とか馬鹿にされそう。あ、腹が立つかも。」


「サオリがそう思うんだったら勉強するか?それは、ピルトっていう、南の国が原産の茶だ。それと、コルツ商会の品だから、コルツのピルトだ。」


「え?」



 さらさらと流れるように説明された。内容にも驚かされたが、それを言ったのが、興味がないと言ったアルクだったのにも驚いた。



「紅茶に興味はないって、言ってなかった?」


「そうだな・・・ま、俺は目がいいんだよ。」



 目がいいとか悪いとかの問題じゃないと思ったが、話す気はなさそうなのでそれ以上ツッコむことはやめた。




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