表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/111

1 絶望の始まり



残酷描写、暴力的表現が続きます。ご注意ください。



 私は、さおり。

ただ平凡な生活を送っていた私だが、ある日突然目の前が真っ暗になって、声が聞こえた。



「この世界を救え。」



 声の主は、神だと思う。そいつが、私に力を与えて、ある世界へと私を転生させた。そう、私は一度死んでいたのだ。


 もうどこにも、平凡な生活を送っていた「さおり」はいない。


 そんなことさえ知らない私に、この世界はどこまでも無慈悲だった。




「使えぬ。このような能力は、勇者に必要ない。それに、女など元から使い道がないわい。」



 やっと視界が戻ったかと思えば、何の説明も聞かされずに不思議な水晶玉を無理やり触らせられた。その結果、なんだか偉そうな男に使えないと言われた。


 おそらくここは王国の玉座の間だろう。王様らしき人が高い場所からこちらを見下していた。先ほど私を使えないと言った男だ。



「だが、剣の腕くらいはあるやもしれん。」



 そう言って男が手をあげれば、騎士らしき男が一人私の前に出て腰の剣を抜を抜いた。その剣が、こちらに向けられる。心臓が嫌な音をたてた。



「な、なに!?」


「やれ。」



 戸惑う私を無視して王様は短くそう命じ、騎士はそれにこたえた。

 体が重い。思うように動かない。


 振るわれる剣の動きは見えたが、体がいうことを聞かず、私は突っ立ているしかできなかった。そんな私を、いとも簡単に騎士は斬る。


 痛い。熱い。

 強い痛みと熱さに襲われて、いつの間にか意識を失っていた。



 目が覚める。体が完全に冷え切っていて、震えながら自分を抱きしめた。



「ここはどこ?」



 暗くて、じめじめとしていて、臭い。


 殺風景な部屋は、ろくに明かりもない。ほのかに明かりがさす方を見て、私は固まった。

 鉄格子。



「牢屋?なんで?」



 部屋の中は、きしむベッドとツボが一つだけ。鉄格子の外は、見張りが歩くスペースくらいしかない。


 私、何もしてないのに、なんで?

 世界を救うように、神に言われてこの世界に来た。それだけ。


 なぜか、騎士が斬りつけてきた。そうだ、王様らしき人に命令されて・・・あれ?なんで?


 混乱する頭を使って、考えた私だが、全く状況が理解できなかった。



「落ち着かないと。とりあえず、今は安全だよね。そうだ、斬られた傷はどうだろう?・・・あれ、全然跡がない。あ、そうか。自動治癒されるとか言ってたっけ。」



 この世界を救うために、私は神様から3つの能力を授けられた。その一つが自動治癒。傷を受けても、すぐに回復するというもの。



「よかった。でも、痛かったな。どうせなら痛みもなくしてくれればよかったのに。」



 私は傷がないことに安心し、少し落ち着いた。落ち着くことはできたので、再び考える。今の状況についてだ。


 どう考えても、私は今牢屋にいる。これが勇者に対する歓迎の意味ではないことは分かる。それはなぜか?



「騎士にあっさりやられたから・・・なんてことはないよね?それだけで投獄されるわけないよね?」



 答えてくれる者は誰もいない。


 だが、そんな私の耳に、硬質な足音が聞こえた。

 心臓が嫌な音をたてる。これから起こる事が良いことだなんて思えない。冷や汗が流れる。




数分後



「かはっ」



 私の口から血の塊が吐き出された。痛い。熱い。苦しい。


 これは、実験だ。


 牢屋で一人考えていた私の前に現れたのは、3人の兵士。兵士たちは、私を別室に連れて行き、様々な暴力を私に加えた。


 部屋に着きそうそう剣を鞘から抜き、私の足を斬った兵士。それから、足が治るまでの痛みで涙を浮かべる私を眺めていた。


 傷が治ると今度は手を斬られ、治る様子を観察される。



 一通り斬ると、腹を殴られた。それも素手でなく、剣で。血を吐くほどの力で殴られ、また観察される。これが実験でなければなんだ。


 痛みが引いていき、私はほっとする。



「やはり、治っている。報告してこい。」


「はっ!」



 兵士の一人が部屋を出て行き、2人の兵士が話し出す。



「たいした力はないが、この治癒能力だけは素晴らしいな。我らが騎士団長に、この能力を授けてくださればいいものを。」


「だな。こんな女が持っていたとしても、宝の持ち腐れだ。だいたい、なんで勇者が移動魔法なんだ?必要ないだろう。」



 移動魔法は、神様に与えられた能力の一つだ。詳しい使い方はわからないが、その名の通り、目的地に移動できる魔法だろう。おそらく、テレポーテーションのような魔法だと思っている。瞬時に目的地に行けるような魔法だ。


 それよりも、何かを聞くなら今しかないだろう。



「あの・・・」



 震える声で私は兵士に話しかける。兵士たちは私をにらみつけて、続きを促した。



「なぜ、こんなことを・・・」


「陛下の命だ。」


「なぜ・・・」


「仕方がないだろう。お前は使えぬ勇者なのだから。力がない者に魔王は倒せないし、世界は救えない。」


「だからって、こんなことをしなくても。」


「使えないものでも有効活用するのが、この国のやり方だ。お前は役に立たないが、お前の自己治癒能力だけは役に立つ。だから、この能力を分析し、他の者に付与できるかどうかを、今検討している。」



 馬鹿なのか。いや、確かにそのようなことが実現できるのなら、その方がいいのかもしれない。でも、できるかわからないことのために、こんなことをするのか?



「移動能力が私にはあります。なぜ、そちらを有効活用しないのですか。」



 この能力があれば、魔王のもとへ精鋭を送ることもできるし、物資の運搬も時間がかからないと思う。まだ使ったことがないのでわからないが。



「お前は信用できない。」


「は?」



 何それ?勝手に勇者として召喚して、それはないでしょ?


 そう、私は勇者としてこの世界に召喚されたのだ。その召喚は、この王国がやったもの。それなのに信じられないとは何か。


 私が固まっていると、部屋を出て行った兵士が戻ってきた。

 そして、兵が口にした言葉は、私を絶望へと突き落とす。



「次は、斬り落としても再生するか―――



 切り落とす。その言葉を理解したとたんに、頭が真っ白になる。


 こいつらは何を言っている?頭おかしいだろう。こんなことに何の意味があるんだ?



「ひっ」



 冷たい刃の感触が、恐ろしい。私の二の腕に、兵士は刃を当てた。嫌だ。怖い。



「や、やめて!もし、戻らなかったらどうするつもり!」


「その時は、実験は中止するさ。いや、上がやれと言ったら、斬り落とすものがなくなるまで、続けるがな。」


「嘘。やだ、やだやだやだお願い!お願いします!やめてください!」



 涙があふれて、鼻水が垂れてきた。そんなのにかまってられない。私は頭を振って、声を出して、頼む。



「悪いな。命令だ。」


「や・・・




 喪失感に襲われた。




 あぁ―――――




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ