姉を推しています、同担拒否です。
生徒会室への移動途中に生徒会ファンの群れが視界に入った。そのまま無視すれば良いのだろうが、おかしな言葉が耳に届き、慌ててそちらへと顔を向けてしまった。
「夕くーん! カッコいー! 今日の晩御飯はオムライスだよー!」
他の奴らは「こっち向いて」や「素敵」なのに、褒め言葉に晩御飯をぶっ混んでくるファン。弟相手にペンライトを振り回し違和感なく群衆に混ざるその人は、俺の姉でした。
「姉ちゃん何でそっちに居るんだよ! 弟相手にペンライト振り回してんじゃねえよ!」
慌てて駆け寄れば姉は不思議そうな顔をしてこてりと首を傾げた。くっ、あざとい。天然のくせに。俺より一つ年上の姉は時々こうして可愛い仕草をするから気を抜けない。
「え、だってお姉ちゃん生徒会じゃないから……そっちには行けないや……ペンライトはさっきファンの子達に渡されて」
渡されたというペンライトを振りながら答える姉。表情からして「構ってくれるあたりお姉ちゃん思いでお姉ちゃん嬉しいよ。あんたはええ子や」と思っているに違いない。
姉はこうした姉というよりも久々に会った親戚のおばちゃんみたいな、何目線なのか微妙で表し難い顔をする。比例してきっと俺は疲れた顔をしていることだろう。
「そういう意味じゃねえよ。なんであんたファンの中に平然と混じってんだよ」
「お姉ちゃんも夕くんのファンだからだよ!」
「嘘つけ! ファンでもあんただけ方向性が違ぇんだよ!」
「そんな! 一体どこが……」
いかにもショックを受けました! みたいな顔をする姉。自覚がないのかこいつは。
「団扇見てみろよ! 他のやつは『結婚して!』って書いてんのにあんただけ何なんだよ! 読んでみろ!」
「『結婚して!~あんたええ子や妹お越し~』」
「妹ってなんだ何目線だよ!」
「姉目線だけど」
「知ってるよ!! 違ぇんだよ! あんただけ! 推し方がおかしいんだよ!」
結婚して=自分とではなく結婚して=誰かとなんて明らかに他のファンと違うだろうが。この前は妹の部分が弟だった。俺が好きになった相手ならきっと素晴らしい人に違いないと思い込んでいるらしい。勝手に見合いをセッティングしようとするお節介焼きみたいな姉は、とりあえず将来の妹か弟かを連れてきて俺に早く幸せになってほしいと思っているようだった。
世の中には結婚したいと思わない層もいることを知ってほしい。俺が好きなのはあんただ。
どうせ連れてきたら連れてきたで号泣するんだろう。その号泣の理由だって「愛しい弟をどこぞの馬の骨にとられたこの泥棒猫」じゃなくて「とうとう弟が結婚するんだここまで長かったなぁきっと弟が好きになった人ならいい人に違いないどうか二人で末永くお幸せに」という感動と感激からだろう。姉というより完全に可愛がってきた甥っ子が結婚報告にきて今までを振り返り懐かしみ涙ぐむ叔母の心境だ。あんただけ推し方が違う。
「あんた家の中にまで何飾ってんのか覚えてんのか!」
「えっ、ただの大旗だけど。国旗と隣り合わせで飾ってたけど不味かった?」
「なんで大真面目に国旗と俺の顔写真印刷した旗飾ってんだよ! 家の中にまで旗立られてる俺の身にもなれよ! 生徒会室じゃねえんだぞ!」
「生徒会室にも飾ってるの!? 凄いよ夕くん生徒会って凄いんだね!」
「そこじゃねえんだよ!」
わくわくと興味深そうな姉に嫌な予感を覚えた。絶対に生徒会室、ひいては生徒会には来ないように注意しなければ。
▽▽▽
「いつになったら俺をお姉さんに紹介してくれるんだ」
生徒会長の涼太が言った。また始まったよと嫌そうな顔をする大輝副会長。ガン無視を決め込んで茶を啜る湊書記長。俺も無視したい。嫌な顔を抑えきれない。マジ無理ヤバい。鳥肌。
「滅茶苦茶嫌そうな顔やめろよ」
「実際嫌ですしあんたなんかに姉さんを渡すくらいなら彼女を殺して俺も死にます」
「愛が重い!」
「まあ傍から見れば理想の姉弟って感じだよね、シスコンだし」
「仲が良くて羨ましいですね~、憧れます~、シスコンですけど~」
大輝さんと湊さんがこちらに一切見向きもせず言葉を発した。煩いシスコンで何が悪い。姉が可愛くて天然なのが悪い。うっ、胸が苦しい。
いつの間にかチェスを始めている二人。いいな、俺も混ぜてほしい。俺の大事な大事な姉さんを狙うこいつ(生徒会長)の相手なんかしたくない。
「この旗だってお姉さんが興味持ってくれると思って作ったのに! 全然見に来てくれないじゃないか! 夕! もしやお前お姉さんを生徒会室に来させないつもりか!」
「あったりまえじゃないですか! なんで姉さんを狙ってる男がいる部屋まで連れてこなきゃいけないんですか! あんたが兄とか絶対に嫌だからな俺は! あと旗は姉さんが喜びそうなんで持って帰りますください!」
「お姉さんと交換ならいいぞ! 同じ人を愛するもの同士、何故愛を分かち合えないんだ!」
「ふざけんな! いいか、俺はな!」
同担拒否なんだよ!!