01 魔王の手先だと勘違いされました
いつも短編を書いているカーネルキックです。
なろうでの長編は初挑戦なので、面白かったら感想をくださると嬉しいです!
僕が真っ暗なダンジョンで目を覚ましたとき、一緒に焚き火を囲んでいたはずのパーティーメンバーが誰もいなかった。
「おーい、ミヤマくん」
上を見上げれば、勇者クラウスが他のメンバーを従えてニヤニヤと笑っている。
「どうしたんだよ、みんな?」
「いやね、みんなで話し合ったんだけどさ。ミヤマくん、戦闘に役立つスキルがないだろう。俺たちは、戦闘のたびにミヤマくんを守りながら戦うのも辛くてね」
「ああ……もしかして足手まといだからクビなのかな?」
クラウスは笑顔で、喉を掻っ切る仕草をした。
あいつ勇者のくせに性格が悪い。
「ごめんなさいね、私は止めたんだけどさ。でも魔王と戦うパーティーに料理人ってさ、やっぱり必要ないよねって言われちゃうとさ。正直、私も要らないかなってさ」
女戦士キャロラインは、そう言いながら重い岩を持ち上げると、上に続く道を塞いでしまった。
彼らは僕が後を追えないように、わざわざ道を岩で塞いでいる。
勇者パーティーを追放されるのは構わないのだが、なぜ強いモンスターが徘徊するダンジョン最深部で放置するのか。
彼らは戦闘スキルのない僕を見殺しにするために、ダンジョンに連れてきたようなものだ。
「ミヤマくん、俺たちに隠してることあるよね」
「隠してること?」
岩の向こうからクラウスの声がする。
「ミヤマくんは、魔王と同じ異世界から転生してきたんでしょう? そういうことは、ちゃんと言ってくれないと駄目だよ」
「あ……いや、僕は転生者と言っても料理スキルしかないし、そもそも魔王に召喚されたわけじゃ――」
「嘘を言うなよ」
「嘘じゃないよ」
この世界の魔王は、僕のいた世界からの転生者らしいので、同じ転生者の僕は魔王の手先だと誤解されたようだ。
もちろん僕は、魔王の手先ではない。
ただの料理人である。
「ミヤマたち転生者は、魔王に召喚された悪魔なんだろう? ミヤマは人畜無害なふりして、俺たちをスパイしてたんだ」
あの声は魔法使いマンチカン。
やっぱり彼らは、僕を魔王の手先だと勘違いしているようだ。
だから彼らは、僕のことをダンジョン最深部で放置するんだ。
「誤解なんだけど……」
「ミヤマくんの料理は絶品なんだけど、毒入りだったらどうなのよ? って話だよ」
「クラウスさん……」
「そういうことだからさ、ごめんなさいね」
「キャロライン……」
「俺は、てめぇのことを親友だと信じてたんだぜ!」
「僕もマンチーのことを親友だと思っていたよ」
みんなの声が遠ざかると、僕はひんやりした真っ暗なダンジョンに取り残された。
このままでは肌寒いし、何も見えないので、火属性の魔法で焚き火に着火することにした。
僕が『マッチ』とスペルを唱えて指を鳴らせば、消えた焚き火に種火が飛んだ。
「僕の覚えたスペルでは、ダンジョンから生きて帰れないだろうな」
この世界の魔法には火、風、土、水の属性があり、それらの属性は一人に一つずつ与えられていた。
しかし勇者は例外で、四つの属性すべてが使える。
そして僕も調理に必要なレベルの魔法ならば、四つの属性すべて使えるので、その点だけなら僕と勇者は同じではある。
ただし業火で敵を焼き尽くし、洪水で敵陣を水没させ、風で塔を吹き倒し、土塊に生命を与える勇者の魔法とはレベルが違う。
火はかまどに着火するマッチレベル、水は煮炊きや食器洗いに必要な水量しか出せない、風は炭火を団扇で扇ぐ程度、土は手にした食材を美味しく活性化するくらい。
「ああ……こんなことなら、他の転生者のように戦闘スキルのある職業に就けば良かったよ。なんで僕は、異世界で和食料理人を続けようと考えたんだろう」
僕は一年前まで銀座の高級料亭『和亭』で働いていたが、ヨシダという見習いの作った小鉢を味見したところ、河豚の毒で死んでしまった。
ヨシダは細いつり目にアヒル口、控え目な胸の華奢な体躯の女の子で、店では唯一の後輩にあたる。
この見習いが独創的な味の開発にこだわる奴で、小鉢の隠し味にフグ肝を使ったらしい。
河豚の調理には免許が必要なのだが、そもそも見習いのヨシダは河豚どころか調理師免許すらもっていなかった。
「ヨシダが、まさか料理の隠し味にフグ肝を使うとは思わなかった。アホだ、アホだとは思っていたけど、僕はヨシダのアホさ加減を舐めていたよ」
僕は焚き火に手をかざしながら、僕の命日、この世界に転生した日を振り返る。