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第9話: クエスト討伐したい。

「着いたわね」


 そこはビソチア山のそばにあるビソチア遺跡である。

 象徴的なのは、小型のピラミッドが中央にそびえ立っている。

 小型と言っても建物で言えば3階建て程の高さはある。


 ここでラッキーベアーを出現させて討伐するのだ。

 ところで、どうやって出現するのだろう……?


 到着と同時にミリアは冒険者カードを広げだした。

 カードと言っても厚みがあり、鉄でできた薄い手帳のような感じだ。

 幾何学模様できたその装飾は、いかにも古代文明の遺物といったところか。


「それじゃクエスト開始するわ」

「え? ちょっとまって……」


「攻撃はしないわ、まずは召喚するだけよ」


 ミリアは冒険者カードを操作すると、ラッキーベアーが空間に出現した。


<<クエスト進行者ミリア、助っ人リュージ。承認しました。>>

<<クエストを開始します。あなた達に幸運があらんことを>>


 カードが喋っている!! さすが古代の遺物……。


「オッケー、準備はできたわ。……あ、これね? 冒険者カードと言って、クエストは勿論、いろいろ便利なのよ。ところで罠作るんでしょ、私も手伝う?」

「いや、大丈夫。お茶でも飲んで休んでてくれ」


「わかったわ、竹を運ぶのに魔力を使ったし、少し休憩するわね」


 そう言ったミリアは、木陰の木の下で体育座りをして寄り添った。

 

 すると……『寝た!?』

 

 覗き込んでも、手を振っても反応しない。

 今なら何をしても起きなそうである……。

 

 きっと熟睡している!


 これから戦闘が始まろうとしているのに、よく寝られるものだ。

 一瞬で寝られるその才能、俺にも分けて欲しい。



「さて、檻を組み立てるか」


 竹と竹を交差させては紐で結んでいく。相手は力のあるクマ(クラス)なので、しっかり結んで頑丈にしないといけない。


 しかしミリアはよく寝ている。竹を運ぶのに魔力を使わせてしまい、疲れてしまったのだろうか。申し訳ないことをさせてしまった。

 

 だがその働きは、俺の『オペレーション檻、閉じ込め作戦!』で報われるのだよミリアくん! そして最後にこう言うだろう……「楽勝だったわね。」――からの、「あなたって素晴らしいわ。」とな!


 フフッ、俺には未来が見える!

 そしてこの聖剣エクスカリバーは俺のものになるのだ!!



「ふぁ~、おはよう」

「ミリア起きたのか」


 黙々と竹を組み立ててゆき、檻は徐々に形になってきた。


「へー、それらしくなってきたわね。もう完成?」

「いや、もうちょっと。あとは筋交い(すじかい)を入れれば完成さ」


 筋交いと言ってもわからないか……。檻に斜めに竹を入れ一本一本結ぶ、そして全体の強度を上げる。この斜めが有るか無いかで強度は全然違ってくるのだ。


「冷たいっ!」

「――ハイ! どうぞ」


 俺のほっぺたに冷たい感触が伝わる。

 振り向くとそこには……前傾姿勢でジュースを差し伸べるミリアの姿であった。

 

「普通に渡してくれよ、びっくりするだろう」

「えっ~、そんなのつまんないじゃん」


 困ったもんだ。


「まあ、ありがとう。丁度喉が乾いてたところだ」

「フフッ、お代は報酬から引いておくわね。……ハハハ、冗談よ冗談。眠ってたら体が重くなっちゃった、早く暴れたいわね」


 暴れるとか女の子が使う言葉じゃないぞ!

 まったくもう、終わるまで眠り続けてくれれば良かったのに。

 と思いながらも黙々と作業を続け、やがて檻は完成した。

 

 紐を結ぶ俺の腕はもうパンパンで疲れているはずだが、完成してゆく檻を見ていると、逆に元気になっていくかのようである。



「おし、完成したぞ~ もう大丈夫だ!」


 この強度ならいける!

 作戦は檻をこっそり背後からかぶせて動きを封じる。

 いきなり襲ってこないモンスターの弱点を利用した、見事な不意打ちである。


 勝ったな! ガハハ。


 でも、下手に外して怒らせてしまったら地獄が待っている。慎重にやらないと……。



「――わかったわ、もういいのね! 行くわよー……やぁーーー」

「――ちょ   っと   まっ   たー」


 手遅れであった。もう戦いは避けられない。



 作戦では檻を被せてから始めるはずだった。

 あんな興奮しているラッキーベアーに、もう檻を被せることなんて不可能である。こうなってしまうと、せっかくの檻は全然役に立たない……。



 手強い相手のハズなのにミリアはだいぶ健闘している。

 華麗に舞うような戦いぶりで攻撃をかわしてはレイピアを振り抜く、一進一退の攻防である。


「ちょっと! 見てないで手伝ってよ!」


 その時であった、ラッキーベアーの強力な一撃がミリアを襲う。

 ミリアは攻撃をいったん止め、その一撃を受け止める。


「キャー!」


 ラッキーベアーの強力な一撃に大きく退いたミリアは、尻もちをついた。

 しかし、それほどダメージを受けている様子はない。

 あれだけの攻撃を食らったらただではすまないと思ったが、魔法で軽減したとでもいうのだろうか?



 尻もちのミリアに、上位から襲いかかろうとするラッキーベアー。


 とにかく助けないと! (シマシマ...)じゃなくてミリアが危ない。


「ミリアー今いく! おい、クマーこっちだー」


 俺はエクスカリバーを握りしめ、無我夢中でラッキーベアーへと向かってゆく。走る勢いを止めることなく、剣を振り上げると同時に渾身の一撃でラッキーベアーに斬りかかった。


『ドカッ』


 鈍い音がした……斬りかかったのにもかかわらず、切れた感覚は全く感じられない。感じたのは全身に伝わる痺れであった。


 まるで鈍器で殴ったような感覚がしたのだ。


 ラッキーベアーは殴られたのにもかかわらず微動だにしない。

 大ダメージを与えたとは思えないが、脳震とうでもおこしているのだろうか?

 もしかしたら意外と効いているのかもしれない!

 などと思ったが……、そうではないことに気付かされる。

 

 ラッキーベアーはこちらをゆっくりと振り向きながら、めちゃめちゃ怖い顔をして(うな)ってくる。


『グゥ――』


 ……ヤ、ヤバイぞ。


 無我夢中で飛びかかってしまったが、いま自分が置かれている状況はかなりヤバイのではないか?

 ミリアみたいに魔法で防御なんて……俺には出来ない。

 それに、考えてみれば……『防具』がない!


 さっきみたいなあの一撃を、もし俺が食らってしまったら……。



 脳が指示をだすより先に、俺は無意識で後ずさりしている。

 ラッキーベアーは威嚇しながら間合いを詰めてくる。

 一気に襲ってこないのは助かるが、どのように俺を料理するかでも考えているに違いない……。

 

 気がつけば俺は逃げ場を失っていた。障害物に当たりこれ以上後ろに下がれないのだ。確認すると俺の作った檻が行く手を塞いでいた。

 俺を助けるはずの檻が、俺を追い込んでいるだとっ――!



「ありがとう助かったわ、ちょっと油断しちゃった」


 それはよかった……、しかし俺には返事する余裕すら無い。そのぐらいピンチな状況だと、理解してくれているのだろうか?



 ラッキーベアーは仁王立ちで立ち上がり、いよいよ攻撃体勢に入ってくる。



 おかしな話だ、ラッキーベアー倒すための檻が、俺を倒すための檻に変わっている。――ちょっと待てよ! 丁度よい逃げ場があったじゃないか!


 ――俺は必死に檻を持ち上げ、武器も忘れて檻の中へと逃げ込んだ!!

 あれ? こういう使い方するために持ってきたんだっけ?



「いよいよ作戦開始なのね? 私はてっきりラッキーベアーを閉じ込める為に使うのかと思っていたわ」


 ハイ、それが正解です!

 で……なんで俺が檻に入っているのだ……!?。


「で? 私はどうしたら良いの?」


 先に相談してくれてれば、こんなことにはならなかったと思うのですが……、ミリア様。

 しかしそんなことは言ってられない、何か別の策を考えねば……。



「おし、プランBだ!」

「えっ? 聞いてないわよ! そういうのは先に言ってちょうだい。ちゃんと作戦を立ててからじゃないとダメよ」


 ハィ、ごもっともです、ミリア様の言うとおりでございます……。



 ぶん殴ったのが気に入らなかったのか、ラッキーベアーはかなりお怒りの様子である。ミリアには見向きもせず俺を狙ってくる。


 しばらくすると、ラッキーベアーが檻の中に下から潜り込もうとしている。



 ヤバイ、ヤバイ、このままでは!


 檻を押さえつけるも、俺の力などクマの前では無力であった。

 必死の抵抗も虚しく、檻の中にラッキーベアーは入ってきてしまったのである。



 武器も防具も逃げ場も無い……(おわた!)


「ミリア……、後は頼んだ……」


 絶望的状況に、俺は心が折れかけていた。

 短い人生だった。

 遺品ぐらいは拾ってくれ。


 俺は落ちている(ささ)を手に取ると、振り回して最後の抵抗を見せる。

 笹で倒せるワケがないだろう! と、自分にツッコミを入れながら。



 すると! 猫じゃらしに反応するかのような動きをし、ラッキーベアーは笹にかぶりつく。

 なんと、笹を食べだしているではないか!? こいつまるでパンダのようだ。

 笹、笹、笹はあと何本ある? 俺は必死に笹をさがした。


「ミリアーーーー、頼むーーーー、はやくー」

「すごいわ、これが作戦だったのね、ちょっと待ってね」


 いや、いや、ちょっとも待てない……なんとかしてくれ。

 と思いつつも俺は強がってしまう。


「わかった! こっちは余裕だ心配ない!」


 あー、思わず見え張ってしまった。

 これはゲームではない!

 キャラクターがやられるわけではなく、攻撃を受ければリアルに死ぬ。

 もう笹は無い……このまま俺は死ぬのか?




「いくわよー! スペシャル必殺アタック!」


 強烈な閃光と共に、ミリアの必殺技はラッキーベアーの側面を貫くと、衝撃が俺の方までつたわってくる。

 時間がかかったのは、魔力を増幅させるためであったようだ。


 強烈な一撃はラッキーベアーを貫き、ラッキーベアーは消滅した。



「楽勝だったわね。プランBには戸惑ったけど、これも作戦のうちなのね!」

「も、も、もちろんさ。敵を騙すにはまず味方からって言うだろ!」


「あなたって素晴らしいわ!」



 生きてる! 俺は生きてる! 助かった~!

 

 

 どうやら『オペレーション檻、閉じ込め作戦!』結果的に成功したようだ。

 なにっ? 作戦が被っているかもしれんだと……そんなツッコミは気にしないのだ。



「やったわー、ついに! ついに! クエストクリアーしたわー!!」


 ミリアは飛び上がって喜んでいる。随分と嬉しそうである。


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