第8話: クエスト出発したい。
昨日はケーキ屋でクエスト対策でも話し合おうかと思ったが、ケーキに夢中なミリアは聞く気がないようで、終始雑談で終わってしまった。
ちなみにミリアは16才で、俺より1つ年上であることがわかった。
気が強い上に年上では、ますます彼女のペースに乗せられてしまう、そんな嫌な予感がしていた。
「よし、竹を切り出すぞ」
朝早くから竹を切り出しているのは、檻を作るためである。檻でラッキーベアーの動きを封じてしまえば、反撃を受けずに安全に倒せる。
なんせ、防具が無いからな!
しかしラッキーベアーは体も大きく力もありそうなので、檻は頑丈に作らないといけない。その為には結構な本数が必要となるだろう。
「よし、このくらいあれば足りるかな。さてミリアが来るまで時間があるし、竹槍でも作るか!」
竹槍を作る俺はワクワクしていた。
ものづくりは好きだが、どうしてこんな気持になるのだろうか。
「あ、居た居た、リュージくーん」
「え、もう来たの?」
元気よく手を振ってこちらに向かってくるが、俺は足元に転がっている竹が気になってしょうがない。
「イタッィ!」
「大丈夫? 怪我はない?」
危ないとは思ったが、お約束のように竹に足を滑らせ、ミリアは尻餅をついた。 俺は駆け寄り、手をさしのべる。
「うん、大丈夫。…………見たでしょ?」
「ん、何も……見てないょ」
俺は嘘をついている……嘘はよくない! ――そうだ、忘れよう。
(シマシマ...)俺の煩悩が、記憶操作を妨害してくる……。
「見たよね?」
「見てない、シマシマは見てない」
あっ、――しまった。
「フフッ……まぁいいわ」
いいのかよ!
だったらもっと見ておくんだった。というのは冗談だが、そういう短いスカートを履いているお前が悪い! と言ってやりたい。
「待ちきれなくてね早く来ちゃった。それにね、あなた武器がまだでしょ、貸してあげるわ」
「おお、ありがとう、武器使っていいのか!」
「また竹槍とか作ってないか心配でね」
俺が竹槍を作ることが、そんなにいけないことなのか?
そうか、もう竹槍は必要ないんだ……。
そうだ、もう竹槍が無くてもいいんだ……。
えぇ~、もっと竹槍作りたかった~!
うぅ~、虚しさが襲ってくる。
「この竹はね、檻を作ろうと思ったんだ。檻にさえ閉じ込めてしまえば、君の火力で倒せると思ってね」
「すごいー、これなら楽勝ね! ……ハイ、武器大切に使ってね」
おおお、これで俺は聖剣保持者である! ……さらば竹槍よ!
俺は武器を手に取り感触を確かめる。
あぁ感動だ! あの聖剣エクスカリバーをリアルに持つことができるなんて。
聖剣の感触が伝わってくる……。
「イタッ!」
「どうしたの?」
「わからない……」
なんか電気が走ったような痛みを感じたが、その後はなんともない。
なんだったのだろう……。
◇
武器も防具も何も無いところから始まった俺の冒険であるが、今や聖剣保持者となって冒険へ向かうのだ。なんと清々しい気分なのだろう。
俺の心は青空のように晴れやかであった。
「よし、行くぞ! 目指すはビソチア遺跡」
「ずいぶん、ご機嫌ね」
「おぅ! 俺について来い!」
「頼もしいわね!」
俺は地図を開いて道を確認する。
ギルドのおっちゃんであるガルシアさんは、おっかなく見えるが意外と面倒見は良いようで、俺のためにわざわざ地図を書いてくれたのだ。
四角形と矢印とマルの中に『ココ』とだけ書かれている地図である。
なんと手抜きなシンプル地図。――こんなの地図じゃねえよ!
と思いつつも、俺は地図を真剣に解読する。
するとこちらを見ているミリアは、ニタニタしてるではないか!?
「んっ? もしかして……、場所を知ってたりする?」
「うん、知ってる」
なんて意地悪なんだ、この小悪魔め!
地図に苦悩する俺を、ニタニタしながら楽しそうにモニタリングしやがって!
結局ミリアが先導となり、俺は後を追う。
『コン、コン、ズズズー』
「ねぇ、それ本当に全部持っていくき? そんなに歩いていないのに、もう随分苦しそうよ。息もあがってるわ」
予想以上に重かった。
しかし、強度を出すためにこのぐらいの竹はどうしても必要である。
「がん ばっ て♪」
ありがとうよ。ミリアはよい子だな。
気を使ってくれるよい子だ。
ここは何としても男らしさを見せなければならない!
気がつけばミリアは小走りで距離を取り出した。
「ちょっとミリア、ペース早くないか?」『コン、コン、ズズズー』
「あなたと一緒だと、私まで変な人に見られちゃう……」
ひどい! ヒドすぎる! 檻作ると言った時は、「素晴らしく頭がいいのね、惚れ惚れしちゃう」って言ってたくせに。
あれ、違ったっけ?
「もう! 仕方ないわね。運ぶの手伝うわ」
「大丈夫だよ、女の子に運ばせるわけにはいかない」
しかしミリアは近寄ってきて俺の竹の束を強引に奪う。
「いいから、貸して!」
竹の束を手にすると、ミリアは軽々と持ち上げてゆく!?
明らかに力を入れている様子が感じられない。
――と同時にドヤ顔決めてくる。
「リュージくん、なんで魔力使わないの?」
「えっ! 魔力で持ち上げてるのか!」
言われてみれば、魔力を帯びたせいなのか竹の輝きを感じる気がする。
魔力で物質を軽くしている? または重力制御でも行なっているのだろうか?
もし魔力で反重力物質に変化させることができるのであれば、魔力というものはとてつもない可能性を秘めていないか!?
「あなたって変ね。魔力測定器であれだけの魔力だしたのに、普段は全く使えないなんて、変よ」
「あれは偶然なんだ。無我夢中でどのようにやったのか自分でもわからない」
「じゃ、無我夢中になれば使えるかもね、期待してるわ」
期待されても……そんな単純なものではないような気がします。