第7話: 【2】クエストやりたい。
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ラッキーベアー討伐【クエストランク:D】
条件 : 2名で討伐(助っ人1名)
基本報酬 : 20,000ゼル
ドロップ : 不明
出現場所 : ビソチア遺跡
内容 : 召喚して討伐するのみ。
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ギルドのおっちゃんはこのクエストに難色を示す。
「うーん、いきなりDランクは厳しいだろう」
「私は何としてもこれをやりたいの、今でないとダメなの!」
「君が強いのは分るが、このボーヤは初心者だ。よっぽどの腕利きでない限り出すわけにはいかない。……死ぬぞ」
「この子は竹槍でホーンラビット倒してるのよ、私の武器を渡せばやれるわよ」
二人の口論は続き、お互い引く気がない。
武器をくれると言う誘惑に飛びついてしまったが、やばい話に首を突っ込んでしまったのだろうか?
クエストランクはA~Fまであり、俺みたいな初心者がいる場合はFランクをやるのが普通らしい。
Dランクがどれほどのものかはわからないが、もしこれをクリアすれば俺は武器を手に入れることが出来るのだ。
戦闘技術の不足分は、また策を練って補えばなんとかなる。
などとこのときの俺は考えていた。
「大丈夫だ、俺はやれるよ」
「テメーは黙ってろ!」
怖い顔でめちゃめちゃ怒られてしまった。
よくこんなこわいおっちゃんとあんなにやりあえるものだ。
「この子ならやれるわよ!」
「ごじゃごちゃうるせえ、そんなら魔力で決めようじゃないか! 才能があるなら魔力があるはずだ」
すると、ギルドのおっちゃんが奥のほうから機械のようなものを運んできた。
「これはな、魔力測定器だ。そうだな……このメーターを30%以上出せたら、クエストは許可するよ、そうでなければ許可するわけにはいかねえ!」
魔力なんか意識していなかった。今思えば魔法も知らずに冒険を始めたのはちょっとうかつだったと後悔している。剣の鍛錬ならやればやるだけうまくなる自信はあるが魔法となれば話は別だ。
どうしたら良いかなんて、さっぱりわからない。
俺に魔力なんてあるのだろうか……。
「わー! 面白そう、やらせてやらせて」
「君がやってどうするんだ、やるのはこのボーヤだよ」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
なんてのんきなんでしょう。
魔力勝負のことなんてどうでもいいのでしょうか……。
「いくわよー!」
なんと、彼女は魔力を込めメーターを50%まで上昇させた。
そうか! 俺のためにやり方を見せてくれたんだな!
「わーい、面白いわね~」
どうやら違っていたようです。
めちゃめちゃ楽しそうに遊んでるだけのようです……。
しかもどんな風にやっているのかもわからず。
なんの参考にもならなかった。
「さあ、あなたもやってみて!」
「出来るかな……」
「大丈夫よ!」
俺は装置に手を乗せ、そこに意識を集中してみる。
「がん ばっ てっ!」
いや、楽観的に応援されても……。
「ホーンラビットを倒したときのイメージよ」
囁くような声で俺にアドバイスを送ってくる。
あの時のイメージか? どうやったんだっけな。
確か目を閉じて集中したあと……なんだっけ?
「エクスカリバー欲しいんでしょ」
(キラ!)光が射し込み、なにか自分の中を走った。
そして、ちょっとメーターが動いた。
しかし、これではまだ全然足らない!
「欲しいんでしょ」
うん欲しい。――欲しいよ。
「私の大切な...」
(あげるわ...)
(あげるわ...)
(あげるわ...)
「ウォォォォー!」
体の中から何かがこみ上げてきた。
そして彼女の歓声が聞こえる。
「やるじゃなーい!」
「オイオイ、まじかよ……」
何がおきたのか――、目を開けるとメーターは振り切っていた!
ギルドのおっちゃんは唖然とした顔をしており、くわえている葉巻は口元から落ちてゆく。
「こりゃ驚いた、一体どういうことなんだ、こんなことがあり得るのか?」
「クエスト請けてもいいのか? 俺、欲しいんだ!」
「俺の負けだ、許可するぜ、ここにサインしな、助っ人欄な」
こうして俺は依頼書にサインし、初クエストを受けることになった。
ようやく冒険者らしい第一歩。そんな気分であった。
「よろしくね♪」
「あ、こちらこそよろしく」
「早速だけど、今から行きたいと思うの!」
「えっ、今から行くの? もう夕暮れ時だよ、夜になったらキケンじゃないのか?」
「大丈夫よ、なんとかなるわよ」
うわ、この子危ない。危なすぎる。
まずは分析からするべきだ。
「これから狩りするモンスターの情報が欲しいのだけど、図鑑とかありますか?」「おう、あるぞ。これだ」
召喚で出現するクエストモンスターであり、いきなり襲ってくることはない。
見た目はかわいく比較的温和であるが、『怒らすと凶暴』である。
どうみても見た目はパンダなんですが……。
なんてなめてかかったらキケンだ。
凶暴だと言っているぐらいだから油断してはいけない。
今日は疲れているし夜になったら危ないじゃないか!
何としても明日へ持ち込もう。
「時間も遅いし、今日は打合せとかにして、明日にしないか?」
「早く行きたいの!」
し、死の予感がする……。
「そうだ! 親睦会兼ねて、食事に行かないか?」
「私はお腹いっぱいよ!」
ますます、嫌な予感がしてきました。
「ケ、ケーキ! ――おいしいケーキ屋さんあるんだ。ごちそうするから食べに行かない?」
「ケーキ!? わーい、行く行く」
ふぅ~。助かった!
ケーキの力恐るべし!
これでなんとか明日へ持ち込めそうだ。
女子のケーキは別腹だというのは本当であったな。
意外と前世の記憶も役に立つのかもしれない。
◇
ギルドを出てケーキ屋さんに向かうと、背後に人の気配を感じる。
一体どこから現れたのか、あの山……じゃなくてダンジョンの場所を教えてくれた熱いお兄さんがまた現れ俺に絡んでくる。
「我が名はヒート! 少年よ~、一夜で成し遂げるとはさすがだ」
何を言っているのかさっぱりわからない。
何を成し遂げたというのだ……。
まじでこの人は苦手である。
いい人だとは思うのだが、俺はこのテンションにはついていけない。
「昨日はありがとうございました」
「ダンジョンには出会いが待ってるからな! フフッ、やる奴だと思っていたよ。……これからデートか!」
「いや、違いますって」
俺はこの無謀な女のせいで、生きるか死ぬか、必死なのだよ!
「大丈夫だ、うまくいく! 青春してこい!」
俺にしか聞こえないような小声で囁き、肩を『バン』と叩かれた。
だめだこの人にはついていけない。
俺は女の子を連れて足早にここを離れた。
◇
しばらく会話もなく黙々と歩いていると、女の子が突然喋りだした。
「ミリアよ」
「ん?」
「私の名前。……自己紹介がまだだったわよね」
そうだ名前をしらなかった。
これから一緒にクエストするのにコスプレ女とか言ってしまったら大惨事である。クエストの申し込みを書いているときに確認できたはずなのに全然気が回らなかった。
色々なことがあって、俺はそれどころではなかったのだ。
竹槍くん呼ばわりされるは――
「俺は竹槍――じゃ、なくて……」
あぁ――
「フフッ、わかってるわ! リュージくんよね」