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2ノ第18話: 神殿ダンジョン②、奪われた神殿

2019.02.08 描写等を増やしました。


 エルフの神殿。

 そこはもはや、キングアントの棲み家となっていた。

 キングアントはとても大きく凶暴である。

 そんなキングアントにエルフの里の住人は困り果てていた。


 そこで取った手段は神殿半分の放棄である。

 これ以上の侵入だけは阻止しようと、やむなく神殿内部の橋を崩した。

 これにより、神殿の半分だけはなんとか死守出来たのである。



「行くぞ!」

「はい!」


「まずは俺が引き付ける。すきを突いてケントは側面から攻撃だ。絶対に正面から戦ってはダメだからな」

「わかったよ。リュージ兄ちゃん」


 俺はフロアに突入しキングアントへ向かう。

 キングアントは俺に気がつき逆に向かってきた。

 大きさの割に俊敏なヤツである。


 キングアントは前足を振り回し俺に攻撃を仕掛けてくる。

 Dモールで戦った時のビックアントとは比べ物にならない。

 まるで足の生えた戦車と戦っているかのようだ。


「コイツつえーな……」


 攻撃の方は触角と前足を振り回し打撃を与えてくる。

 共に鉄筋を振り回しているかのような強烈なものである。

 全身強化していなかったらあっという間にやられてしまいそうだ。


「いくよ。兄ちゃん!」

「やるんだ!」


「えい! えい! えい! えい!」

『キン! キン! キン! キン!』


「危ない避けるんだ!」

「なにっ!」


 触角を振り回すキングアント。

 触角はケント少年を捉え、吹き飛んでしまった。

 

「少年大丈夫か?」

「……大丈夫」


「大丈夫じゃないだろう! 足がふらついているぞ」


 さて、困った。

 攻撃は最大の防御なりなどという言葉もあるが、攻撃自体ができそうにない。

 リーチの差が圧倒的だ。

 たとえ触角と前足をくぐり抜けたとしても口のハサミが待っている。

 うかつに飛び込めば餌食になるだけだ。


「リュージ兄ちゃん、こいつ硬すぎるよ」


 そうだな。

 言われなくてもわかっている。

 俺の全力パンチなら多少はダメージ与えられそうだが、懐にすら入れそうに無いこの状況では絶望的である。


「撤退だ。少年撤退するぞ」


 細い通路に戻り俺たちは撤退した。



「あれが居たら、これ以上先には進めないな」

「リュージ兄ちゃん、秘密の抜け道があるんだ! 僕のとっておきの場所さ!」


「なんだと!」

「付いてきて」


 細い通路を進むその先には大きな空間があるようだ。


「ここを降りるのか?」


 穴の空いた床にロープが垂れ下がっている。

 ここから地下のダンジョンに降りられるという。

 

 湿り気のある通路を進むと大きな空間が現れる。

 その大きな空間にはなんと、池がある!


 どこからともなく湧き出る水で池となっているようだ。

 まるで砂漠ならぬ洞窟のオアシスである。


「ここが僕の秘密基地さ」


 大きな空間の中にぽつんとたたずむ小さな小屋がある。

 ここまで材料を運んで一生懸命作ったのであろう。

 子供の頃に俺もやったことはある。

 久々に秘密基地を見て俺も懐かしい記憶がよみがえっていた。


「お兄ちゃん、特別に基地に入っていいよ!」

「お、いいのか? それじゃお邪魔するぜ」


 ここは既にダンジョン。

 しかしモンスターの気配が感じられない。

 なぜだ?


「ここはキケンじゃないのか?」

「なぜかこのあたりにはアント達が近寄らないんだ」


 まさにダンジョンのオアシスだ。

 もしかしたら、ここの水になにか秘密が?


 そういえばこの上にはちょうど世界樹があると思われる。

 もし世界樹の泉からここへ湧き水が流れてきているのであれば、この空間もまた神聖な場所。

 神聖なマイナスイオンで満ちたこの空間は、まさに天然の要塞である。


「いいところだな、ケントくん」

「でしょー。僕の秘密基地さ」


「名残惜しいがそろそろ戻ろうか!」

「うん」


 俺たちは秘密基地を後にする。

 オアシスはモンスターも出ないとても安全な場所であった。


「次お兄ちゃん上がってきて」


 神殿に登るロープを登っていたときである。

 俺がロープを登ると『ブチッ』っとロープが切れたのである!?


「しまった~。やっちまった」

「お兄ちゃん大丈夫か?」


「おう。大丈夫だがこれじゃ登れないな」

「お兄ちゃん、新しいロープ探してくるよ」


「頼む。俺は近くから戻れないか探してみる」

「わかった。でもキングアントには気をつけてね!」


 そういう事を言うなよ。

 絶対、フラグになるから!



 予想は的中した。

 ダンジョンを進んでいくとヤツに遭遇してしまったのである。

 しかしこのキングアントは先程見たヤツではない。別のやつだ。

 とても一人で倒せるような相手ではない。

 俺は全身強化で必死に逃げた。


「ヤバイよ、ヤバイよ」


 闇雲に逃げてもダメだ。

 逃げるなら神殿の方向だ。


「ヤバイよ、ヤバイよ」


 通路を進んでいくと行き止まりになってしまった。

 いま来た道を戻るしか無い。

 なんとかこの部屋でキングアントを交わすしか無い。

 先程使ったスカートめくり技も考えてみたが、魔力放出で無防備になるのはとてもキケンである。


 そこで俺は一か八かあることを試してみた。

 それはさっきのオアシスで汲み取った水がもしかしたらアントに有効なのかもしれないということ。

 

 俺は水をキングアントへ投げつけた。

 するとキングアントはその水を嫌がるように悶えている。


 チャンスと思った俺は、その隙きにいま来た道へ戻ることが出来たのだ。

 しかし、ここで二者択一の選択に迫られる。


「どうしよう。オアシスに戻るか? 出口を探すか?」


 その時俺は、神殿らしき人工物であるスロープを発見した。

 スロープはトラックも通れるような大きなスロープである。

 急なスロープを登っていくと直角に曲がりどんどん上へと続く。

 きっと出口は近いそんな感じがした。


 しかし、後ろからはキングアントが追ってくる。

 先程の聖水で時間は稼いだが、ダメージを与えられた感じはしない。

 むしろ怒らせてしまったようだ。


 大きい割に足の早いってのはとても厄介である。

 このままでは……追いつかれる。


「クイックターン」


 思わず叫んでしまった。

 直角に曲がるスロープを俺は直角にターンする。

 キングアントのスピードと重量では、このターンは出来まい!

 これを繰り返し、直角ターンで徐々に引き離す。


 すると後方からものすごい音が聞こえてくる。


『ドカンドカンドカン』


 なんと壁にぶつかりながら高速ターンで無理矢理に曲がって来やがった。

 車のゲームじゃあるまいし、そんなチート走行、反則だよ!!

 

 逆に距離を詰められてしまった。

 このままではヤバイ!


 その時、光の差し込む曲がり角が見えた。

 これは出口に違いない!


「光に向かって、アウト・イン・アウトだ!!」


 外側からスピードを殺さず最短距離で駆け抜けるのだ!

 スピードは落とさず維持したまま見事にコーナーを回る!


 目線の先には外の光が――俺を照らす!!

 俺を導く光へ向かい飛び立つかのように前へ進む。

 ――が、何故か前に進まない。


 なぜかって? 足場が無い!――みたい。


「橋が壊れてるー! 誰だよ壊したの!」


 (――おわたっ……)


 下を覗くと何という高さでしょう……俺、死ぬな。

 俺の目線は徐々に下がりはじめ、俺を照らす光は日が沈むかのように消えてゆく。


 上を向くと、キングアントも止まりきれずに落ちてきやがった。

 俺の死も無駄では無かったようだ。


 お前の重量が仇となったな!

 さすがにその重量ではお前も耐えられまい。


「おいおい、この状況で俺を噛む気か!?」


 口のハサミを『キンキン』させてやがる。

 君はこの状況を分かっているのかい?


 全てがスローモーションのように感じる。



 (ミリアといは色々あったな。最初出会った時のドヤ顔はムカついたっけな。そこからあんなことやこんなことや……)



 (マリアちゃん可愛かったな~。最初出会った時に膝枕してくれたっけな)



 (メアリーは不思議な子だったな。なぜか妹になってしまったんだったな)



 これが走馬灯ってやつなのか?

 色々思い出したよ。



「まてよ!」



 俺には全身強化があるではないか!

 もしかしたらこの高さでも耐えられるかもしれない!

 パラシュート無しのスカイダイビングだが、やってやるぜ!


 『あれ?』


 下にもキングアントが居る。

 あぁ~、あれはさっき戦ったやつだな。

 こちらには気がついていないようだ。


 運がいい! これは、利用させて貰うぜ!!


 『どっかーん』


 とてつもない衝撃に俺は気を失いかけた。

 たが、今ここで気を失うわけにはいかない。

 なんとしてもこの場を離れないと……。


 意識朦朧(もうろう)とする中、這いつくばって逃げようとする。


「兄ちゃんすげーぜ!」


 ケント少年の声が聞こえる。

 何がすごいのだ? 何が起きた?

 気になってキングアントの方を見てみると……。


 落ちてきたキングアントが下に居たキングアントに突き刺さっているではないか!

 二匹同時に倒してしまった。

 偶然だったが、俺はついている!


「一瞬でわからなかった。今の技すごい。2匹同時にやっつけたね! なんて言う技なの?」

「偶然と言うやつさ」


「またまた~! ジョークっすね」


 いったい、君の目にはどう写っていたんだい?


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