2ノ第14話: 悪魔の水(後編):新コンビ結成
「リュージ様、話を聞いて下さい」
酒場のオーナーさんに呼ばれ、俺は猛獣の住む座敷を脱出した。
そして俺は今、隣の酒場に居る。
しかし、酒場のオーナーさんは深刻そうな顔をしている。
なんか重い話が来そうな予感です。
どこに行っても、俺の安らげる場所は無いのでしょうか……。
「リュージ様お願いします。もう潰れそうなんです! この酒場もなんとかして頂けませんか!」
そもそもタダ酒なんていうのは何かウラがあると思っていたが、この相談が狙いだったらしい。
「そう言われても、俺はただの冒険者であって、温泉宿が救われたのは偶然であって俺はなんもしてないんですよ」
「またまた~。ネタは上がってるんですよ! ビソチア大学を主席で卒業し、斬新な手腕で数々のお店を人気店に変えた伝説の男!」
「なにかおかしいです。いや、いろいろおかしいです」
「温泉宿を救ったようにうちの酒場もなんとかしてくださいませんか!」
なんだと。
ずいぶん話が盛り上がっていませんか?
伝言ゲームでそんな事になってるとかいうことでしょうか?
人の噂ってこわいな……。
温泉宿の件は、偶然混浴になって偶然予約殺到になっただけなのに。
てか、ビソチア大学ってどこよ? あったことすら知らないぞ。
「是非うちの店もコンサルタントしていただけませんか」
店の中は50席以上はあるだろうか、大きめの店である。
雰囲気は暗く重々しい感じがする。
ここでお酒を飲んでも気分良くはならないであろう。
売れてないのは納得である。
「従業員は?」
「いません」
50席を一人できりもみ。
いわゆるワンオペってやつか。
そもそも客が入らないからワンオペ可能なんだろうけど、客がないから人件費も払えないという悪循環に陥っているようですな。
「何かアドバイスだけでもおねげ~しまずじゃ~」
ここは、適当に希望もたせてさっさと逃げよう。
うん、そうしよう!
「美女ウエイトレスを雇いましょう!」
「うちにそんな余裕は……、それにこんなちっぽけな村に美女なんかいませんよ……」
俺は店主を席に座らせる。
「オーナーさん想像して下さい。なにかに疲れたお客として、オーナーさんはいま席に座っています。仕事に疲れを癒やしに飲む人、旅の疲れを癒やしに飲む人、様々な理由でやってくるでしょう。そして寂しく席に座るオーナーさんの元に、若くて美人なウエイトレスがお酒を持ってくる……。すると美女がお酒を注いでくれちゃったり!?」
「おお~、いいっすね~。イヤ、でもですね……」
酒場を覗き込みこちらを見ているマリアちゃんの姿が目に写った。
「マリアちゃんちょうどよかった。ちょっと接客をお願い」
「はい!」
百聞は一見にしかず、マリアちゃんに実演してもらうことにした。
「オーナーさん、元気だしてください。もういっぱいいかがですか?」
「うん。なんか、疲れや不安が吹っ飛んできた。オイラ、まだやれそうな気がしてきたよリュージ様! こういうことだったんですね!」
で、でしょうね……。
これはマリアちゃんのちから、いやスキルです。
マリアちゃんに頼まれると思わず「うん」と言ってしまう不思議な力を持っているのだよ。
「お嬢さん! 是非うちで働いていただけないでしょうか!」
「オーナーさんそれはダメ。マリアちゃんは大事な冒険仲間なんだから」
「話は聞かせてもらったわ! 私が働いてあげてもいいんだからね!!!」
どこで話を聞いてたんだ?
飛び込んできたのは仕事を欲しがっていたロリエット姫であった。
「リュージ様。この方はエルフじゃないですか!?」
「オーナーさん想像して下さい。世の中に酒場なんて山程あります。そんな酒場の中にエルフの美女が働く酒場なんていうのがあったらどう思います!?」
「それはレアな酒場ですな」
「そう。レアな酒場です。そんな新しい酒場の先駆者となるチャンスなんですよ!」
「おおっ! さすがリュージ様でございます」
また、適当なこと言ってしまった。
ま、大丈夫だろう。
「で。話はまとまったの? じゃ今度は私が接客する番ね。私にだって出来るんだから」
ロリエット姫の接客ショーが始まった。
「はい、オーナーさん、もっと飲みなさい!」
「は、はい」
おいおい命令口調で無理矢理だな。
ロリエット姫はツンデレ系ですか?
「ねぇ! 私も飲みたい。――貰っていい?」
「お嬢ちゃんイケる系ですな。一緒に飲もう、おごっちゃうぞ~!」
「お嬢ちゃんじゃないわよ! 私はもう立派な大人よ!」
「い、い、痛いです。ごめんなさい。すいません。」
あぁ~あぁ~、完全に飲まれてるよ。ロリエット姫に……。
「それじゃお詫びに2杯貰うからね!」
「なんとっ! ……てかこれなら! 客一人からいっぱい売り上げられるじゃないですか!! なんて技だ……」
ロリエット姫。意外と才能あったりする?
もしかして適材適所……だったりして。
「話は聞かせてもらったわ! 面白そうなことしてるわね。ごちそうになった分、お店を手伝ってあげるわ」
どこで話を聞いてたんだ?
今度はミリアが参戦してきた。
「話は聞かせてもらった!」
またかよ!!
どこで話を聞いてたんだ?
「ウエイトレスといえば衣装が必要だろう。みんなの衣装を買ってきたぞい」
更に今度はロイドじっちゃんの援護射撃である。
どこから仕入れてきたのかしらんが、可愛らしいウエイトレス衣装を持ってきた。
丈が短い! このエロおやじ! なかなかやるの~。
「それじゃマリアちゃん。呼び込みしてこようか!」
「はい! リュージさん」
マリアちゃんは呼び込みのスキルも持ち合わせているようだ。
かなりのヒット率で客が店へと入ってゆく。
マリアちゃんの呼び込みのかいあって、客がいっぱい入ってきたのだ。
◇
「リュージ様、すごいです! すごいです!」
「それは良かった」
「ですが……、リュージ様……あのエルフとうまくやっていけるだろうか……?」
外人雇うとかの不安に似ているのだろうか?
そりゃ人種以上に種族が違うんだから、そう思ってもおかしくはないか。
「話は聞かせてもらった」
またっすか!
「女に関してはこのロイドに任せてくれないか!」
「これはこれは、あの伝説のロイド様」
「これから我らはエルフの森へ向かう予定なのじゃ。そこでワシがエルフ美女をいっぱいスカウトしてこようじゃないか! 送迎から何からワシが手配しようじゃないか。オーナーさんは何の心配もしなくて大丈夫じゃ」
「おお~。それは助かります」
こうして、酒場はリニューアルオープンを迎えることが決まった。
タレントであるエルフ美女をプロデュースするロイドじっちゃん。
店の管理とお金の勘定をするオーナーさん。
名コンビの始まりである。
利益が出るまでは、当面お酒を現物支給する方向で話はまとまったようだ。
今後、エルフと人間の交易が始まるであろう。
そんな瞬間を見た。
そして悪魔の水は森を越え、ついにエルフの森へと持ち込まれる。
エルフの森を救ったはずが、悪魔の水で崩壊とか……?
俺は知らないぞ。
◇
「リュージ様、ありがとうございました」
「いえいえ、頑張ってください」
「さて、忙しくなるな。俺も店に出て頑張るぞー」
「ちょっと待った!」
まだワンオペの癖が抜けていないようだ。
それにこんなむさ苦しいおっさんは……。
「自ら店に出て働かなくたっていいんです。働いたら負けなんです! 左手うちわでお金数えてればいいんですよ。店内は女子に任せるんです」
「おおぉ、なんか偉そうっすね。さすがリュージ様!」
こんなむさ苦しいおっさんは奥に引っ込んでもらって、女子に任せたほうが賢明である。……とは、さすがに言えないけどね。
――ところでロイドのじっちゃんはどうしてるのかな?
「ロイドのじっちゃん~。……聞いてますか~?」
「酒、酒、酒、女、女、女。これから楽しみジャの~」
本当に酒と女しか頭になかったようだ……。




