2ノ第11話: 温泉を仕切る壁と修行その2
『俺は新しいスキルを習得した!』
それは『聴覚』によるビジュアル化である!
ロイドじっちゃんのアドバイスにより、俺は特殊スキルを持ち合わせていることに気付かされたのだ。
……ちょっと待てよ。それってただの妄想と、どう違うの?
う~ん、余計なことは考えないようにしよう。
五感をフル活用すれば、戦闘において有利になるのは確かであるのだから。
「さて、リュージくんイメージトレーニングでもしてみようか」
「これからっすか!」
「例えばケモノが居る森を進んでいるとしよう」
「冒険のイメージトレーニングですね」
「そうじゃ。ケモノが潜んでいる。さてどうする?」
敵は見えない。
潜んでいたら音もたてないであろう……。
そんなときは……どうすればいいのか。
「……あっ! 『嗅覚』っすね! まず匂いで察知する!」
感覚を有効に使えと言うことか、さっきの練習はこれを言いたかったのか!
聴覚以外も武器になるじゃないか!
これは他の感覚も磨く必要があるな。
「いいぞ、そうすれば不意をつかれることは無いだろう。次にケモノが草むらから飛び出してくる! さて、どうする?」
「はいはい! 次は『聴覚』ですね。動き出せば音を立てる!」
「そうじゃ。これで反応は早くなるはずじゃ。そして――」
「――『視覚』ですね。ここで初めて目視確認っすね」
「そうじゃ。大きさ素早さあらゆる情報が一気に入ってくる」
「うんうん」
「それじゃいよいよ戦闘開始じゃ。最初のぶつかり合いでどうする?」
「――『触覚』ですね。拳を交えれば相手の力量が把握できる!」
拳を交えた時、剣を交えた時。最初の一撃で相手の強さはわかるものだ。
腕相撲したときだってそうだ。相手と組み合った時点で強さがわかる。
「それじゃ最後じゃ。君は戦闘中だ。優位に立つには何が必要だ?」
嗅覚、聴覚、視覚、触覚。と来たら最後は!!
「わかったぜ、それは味……かく……」
「……?」
ちょっとまてよ。五感といえば残すはあれしか無いが……。
味覚でどうしろというのだ……!?
戦闘中に敵を舐めろとでも言うのか?
もしも戦闘中に敵を舐め回したら「テメー、俺をナメてんのか!」って怒らせるだけだ。
そうか! 敵を怒らせて冷静さを欠かせるということなんだな?
いやいや待て待て、もしも相手が女子だったら「なにすんのよ! この変態!」ってなるよな。セクハラだよな!
これは罠だ。話の流れで俺をハメようとしている。
その手は食わない。
そうかわかったぞ。ここはひねりが必要だ。
その答えとは。
「第六感。っすね?」
「……??」
ロイドのじっちゃんはニヤッとしながら。
「そんなあてにならない運に頼ってどうする!」
違うのかよ。
もう全部出ているはずだ。まさか裏の裏をかいて味覚がくるのか?
うーん、わからない。
俺の想像を超える回答が来る――そんな気がした。
「それはな! 第七感じゃ」
何を言い出すんだロイドのじっちゃん。
第七感なんて聞いたことが無い。
「第七感とはな。魔覚じゃ」
「まかく!?」
「そうじゃ。魔力の感覚じゃ」
「俺はそんな物持ち合わせていない……」
「そうかの? 自分の体内の魔力を感じたことが無いというのか? そんな事は無いはずだ」
確かに自分の魔力は感じられる。
そういえばヒーリングの時も自分を流れる魔力の感覚を感じていた。
あれが魔覚だったのか!
「どうやら何か気がついたようだな! だがな、本当の魔覚はその先にある。お主は外の魔力を感じられるか? 例えば人の魔力」
自分の魔力は感じられるが、自分以外を感じることは出来ない。
そもそも出来るなんて思っても見なかった。
もしも感じ取れるとしたら……。
「壁の向こうの魔力も感じ取れるのか!?」
「そう~じゃ!」
「・・・ということは。じっちゃん、この向こうが――!?」
「そうじゃ!」
「師匠~~~! 教えてください!」
「オホホホ」
こうしている間にも、ロイドのじっちゃんは壁をじっと見ている。
見えているのか? 居ないのか? 一体どうなんだ?
しかし、結局やり方は教えてくれない。
というよりも、どうやって身についたかはロイドのじっちゃんもよく分かっていないらしい。
「どうやるかって? 魔法陣を習得したから魔覚が身についたのか。魔覚が身についたから魔法陣を習得できたのか。修行の果に気がついたら身についていた。だからよくわからんのじゃ」
卵が先か鶏が先か。そんな感じなんだろうか?
とりあえず、魔法陣と魔覚の関係性は多少ありそうだ。
「まあ、お主の場合、正攻法で攻めるより逆から攻めてみたほうが良いかもしれん。……そう思ったのじゃ」
確かにそれは賛成だ。
何十年も修行なんてしていられない。
一か八かの賭けにのったほうがやりがいがある。
魔法陣は習得したかったが、カッコいいだけに目が行っていたかもしれない。
例え魔法陣を習得できなかったとしても、第七感の魔覚を習得したほうがいろいろな面で実用的である。
例えば……。
『壁の向こうがわかるかも!』
「リュージくん。目がイキイキしているぞ。だいぶヤル気になったようじゃな」
いやいや、エロの為にヤル気が沸いたわけではないのだ。
戦闘で有利になる為に覚えるのだ!
そういえば、冒険者試験のときの教官の必殺技だって魔力を使っていた。
魔覚を感じれば不意にあれを食らうことは無かったであろう。
これはなんとしても習得しなくてはならない!
そうさ戦闘のために覚えるんだ。
「ところで、師匠! 見えるんですか!?」
「何がジャ?」
「またまた~。もったいぶらないでくださいよ」
俺は壁の方をチラチラと見て合図を送る。
「見えるというわけじゃないが、位置ぐらいは分かるぞ。そこに一人。あっちに2人。そしてちっちゃいのが中央を泳いでいるようじゃな」
ロイドのじっちゃん、やっぱりすげー。
これなら物陰に隠れた敵だって見破ることが出来るということか!
そして、たぶん泳いでいるのはメアリーだな。
あいつならやりそうだ。
「師匠! すごいっす! なにかコツとかないんですか? なにかヒントでも! お願いします!」
「そうじゃの~。リュージくん、この柵は飛び越えられるか?」
「無理ですね。てか成功したら殺されますよ」
「君の全身強化ならどうだ?」
「超えられるかもしれませんね。……でも命は失います」
「フフ。その先の事は読めているようじゃな。その感覚は大事じゃ」
そのくらいは、誰にだって予想つくと思うのだが……。
なんせ壁の向こうにはミリアが居る。
そう、ミリアだけならまだしも、暗殺者ロリエット姫だって居るんだ。
絶対、死ぬ!
「戦闘において先が読めるのは良いことじゃ。じゃがな。全身強化を使って柵が超えられるかどうか定かではないということは、それはまだ全身強化をマスター出来ていないという証拠じゃ。戦闘中ならば命取りになりかねん」
確かに魔力を使った強化で俺のパワーがどのくらい上昇しているかを把握できていない。それは慣れの問題でもあるが……。
まあ自分の魔力も正確に把握できないのに、外の魔力なんてわかりっこないってことか。
そうか!
まず自分の感覚を磨けば良いんだな。
そうしている間に、外の魔力も感じ取れるようになるかもしれない!
「大気中は魔力で満ちている。人は魔力の海の中を泳いでいるようなものだ。もし魔覚を極めたら……」
「極めたら……?」
「おっぱいの揺れだって感じ取れるかもしれんぞ」
なんとー!
「おっぱいの揺れは大気を揺らし、その魔力の波動が、魔力波となって押し寄せるであろう! 理論的には可能だと信じておる。 ……なんてな。」
俺は良いこと思いついた。
俺の全身強化は感覚もパワーアップするんだった。
俺の五感の感度が強化されるのだから、もしかすると第七感の魔覚もパワーアップしているかもしれない。
試すしかない! 今でしょ!
「師匠! 見ててください! 俺ヤリます」
物静かに俺は壁に手を当て呼吸を整える。
この壁の向こう側は見えないが、きっと魔覚ならば花園が見える。
イメージするんだ!
俺は五感とは違った何かを探す。
全身強化を徐々に強くして感覚を探るんだ。
『キラッ!』 何かが見えた――イヤ感じた。
もっとだ。もっと力を込めるんだ。
「ウォーーーーーー!」
『どかーん』 と音と共に花園が見えた!
「じっちゃん! 俺ヤッたよ!」
「そうじゃの~。見事じゃ。」
全員がこちらを見ている気がする……。
「俺見られてる気がするんだけど……」
「そりゃ~壁壊したんだから、当たり前じゃ。」
その後の記憶は無いが……、死の花園が見えたことだけは覚えている。
どうやら魔力の暴走で、温泉を仕切る壁を木端微塵に粉砕したらしい。
修理代も入って、高い宿代になりそうである。




