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2ノ第7話: 馬車襲撃

 地平線の彼方へと続くビソチア街道。

 荷馬車はゆっくりと進み、進めど進めど同じ景色が続く。

 でも遅いことにイライラはしていない。

 むしろ旅をじっくり楽しめると思えば、これでよかったと思える。


 そう言えば、俺は町から出たことが無い。

 果たしてどんな冒険が俺を待ち構えているのだ!?


 そう、どんな冒険……どんな災い……災難。

 まてまて、どうも最近マイナス思考に走っているぞ。


「キャハハハ」


 脳天気なミリア。

 俺の冒険感をぶち壊すかのようにミリア達は女子トークで盛り上がっている。

 まるでピクニックにでも来ているかのように……。


「リュージさん、サンドイッチ食べます?」

「たべる~!」


「おじいさんもどうぞ」

「わるいの~、頂きますじゃ」


 これはマリアちゃんの手作りサンドイッチ!?

 めちゃめちゃ美味しいじゃないか!


 ピクニックっていいな~。

 違う違う、俺は冒険に来ているんだ!

 

 そう、腹が減っては冒険は出来ぬ!っだ!


「リュージまたそんな端っこ危ないわよ」


 荷台の後ろの端っこは俺のお気に入りポジション。

 ここから見える大自然の景色は俺のものだ!


 そう、独り占めさ。


 そしてキケンなポジションでもある。

 さっきは落ちて痛い目を食らったが、警戒していれば同じマネは食わない。


「リュージさん危険です」

「なにっ! また段差が迫っているのか?」


 俺はジャンプに備えた!


「そうじゃありません、なにかこちらへ近づいて来ています」


 段差じゃないのか……、それじゃ一体何なんだ?

 俺には何も感じられないが、マリアちゃんはなにかを感じているようだ。

 魔力が見えるマリアちゃんにはきっと遠くの魔力でも感じ取れるのだろう。


「マリアどっちの方角だ?」

「西です、私達の来た方向」


 俺はその方向を注視すると、微かに土煙(つちけむり)が舞っているのがみえる。その土煙は地響と共に徐々に大きくなりこちらへ近づいてきている。


「馬車だわ、すごいスピードで走って来るわ」


 一台の馬車であれだけの土煙は発生しないはず。

 

 ――後ろに何かいる!?

 

「アントよ、アントに追われてるわ」

「ヤバイぞ、いっぱいいるぞ……俺たちも逃げよう」


 土煙でよくわからないが、この地響きを聞く限りものすごい数のアントが居るのは間違いない。見えないことがさらに俺の恐怖感を煽ってくる。


「逃げてー、あなた達も逃げてー」


 馬車を操縦している女性は俺達に気を使ってくれているようだが、俺達の荷馬車ではそんなスピードは出せないし、操縦(そうじゅう)しているのはおじいちゃんである。

 逃げたとしてもこの荷馬車のスピードではとても逃げ切れるものではない。


 冷静に考えれば逃げる選択肢など、俺たちには無かったのだ。


 逃げてきた馬車はこちらの荷馬車を避けて追い越そうとしている。

 しかしスピードを出しすぎた馬車はコントロールを失い街道を脱線すると、車輪が壊れて横転してしまった。

 そして悲鳴が聞こえる。


「キャー」

「姫様ご無事ですか?」


 姫様だと!?

 姫という魅力的なワードに俺の体が『ビクッ!』と反応した。


「ええ、なんとか……」

「中から出ないでください、私がなんとかします」


 なぜか姫というワードを聞くと、歳も容姿もわからないのに気品のある可愛い美少女をイメージしてしまうのはナゼだろう? ……不思議である。


 で、俺は何を期待してるのだ……。


「ミリア、戦うぞ!」

「あんたさっき逃げようとか言ってなかった?」


「な、なにを言う、人が困っている時に助けるのは当然じゃないか!」

「ふ~ん……、姫!」


『ビクッ!』 俺の体が勝手に反応する。


「お兄ちゃん、うちも戦うにゃ」

「わかった、俺とミリアで前に出る、抜けたやつをメアリーとマリアちゃんで頼む」


 全身強化した俺は先頭を走るアントへ向かい戦い始める。


「あれ? リュージいつもより行動が早いわね。いつもは私の後追っかけてきているのに」

「そこは成長したと言ってくれ」


「ふ~ん……、姫!」

『ビクッ!』「――おいおい、ふざけてる場合じゃない、戦闘中だぞ」


 まったく、この脳天気娘は! 緊張とか恐怖とかは無いのか?

 まさか俺が『姫』目当てで戦っているとか、勘違いしてないだろうな……。


 ところでこのアント達はやたらと数が多い。

 一匹一匹は大した強さではないがこうも数が多いと俺とミリアだけでは取りこぼしてしまう。


「メアリーそっちに行ったぞ、頼む」


 このままではまずいな……。と思ったその時。

 

 後ろから風を切り裂く音と共に、アント目掛けて矢が飛んでいく。

 誰の矢なのか後ろを確認すると、馬車を操縦していた女性であった。

 スーパーモデルのようなスラッとした体型で耳が長く尖っている。

 

 エルフ族か!

 一瞬、俺の暗殺者へと変貌した研究所のときのエルフ美女かと思ってビビったが、どうやら違っていてホッとした。


「微力ながら加勢します」


 アントを一撃で貫くような弓使いが微力な訳がない。

 他のみんなを守りながらの厳しい戦いになると思ったが、心強い味方である。


「わしも仲間に入れてくれや」


 なんと荷馬車の御者(ぎょしゃ)であるおじいちゃんも加勢してきた。

 おじいちゃんは隠れててくれと言おうと思ったが、そんな事いわせないような実力を見せつけてくる。


「魔法陣!?」


 おじいちゃんは魔法陣を(えが)き、強力な魔力弾を放つのである。

 魔法陣を初めてみた俺は感動のあまり声が出ない。

 いやいや魔法陣とか思わず叫んでたかも?


 しかし驚くところはそれどころじゃない!

 

 おじいちゃんは剣を持ちながら魔法を使っているところである。

 魔法使いなのに剣を持ってどうするのかと思いきや、魔法使いの弱点である接近戦は剣で戦い、スキを見ては魔法を放つという熟練した戦いを見せているのだ。


「おじいちゃんは魔法剣士なのか?」

「まあ、そんなところじゃ」


 守りながらの厳しい戦いかと思いきや、下手すると守られるのは俺の方になりかねない。そのぐらい皆が強いと感じたのである。


「ミリアもっと前出ようぜ」

「そうね、どんどん行きましょう」


 俺とミリアは順調にアントを処理してゆく。

 ダンジョンのアントをたくさん狩りしていたから、あのビックアントに比べれば一回り小さいこのアントは余裕であった。

 つい最近ではあるがミリアとのダンジョンの戦いを思い出していた。


「ダンジョンを思いだすね」

「そうね~。♪ひ~めひめひめ♪」


『ビクッ!』 ミリアが奇妙な歌を歌いだした。


「なんか楽しそうなことしてるな。俺も、♪ひ~めひめひめ♪」

「リュージふざけないでちゃんとやってね!」


 そっちからしかけてきたんだろ!

 でも、なんか体が軽くなってきた。……不思議な呪文だ。


「お~し、まってろよ~姫さま! ――あッ()

「……やっぱりね」


 無意識であった……。

 ミリアの冷たい目線が俺に突き刺さる。



「きりがないわね……」

「なんでこんなに統制されているんだ?」


 何十匹倒しただろうか。

 アントは次から次へとこちらへ一直線に向かってくる。

 ダンジョンのアントを見た限りアントがこれほど知能が高いとは思えない。

 連携しているようにも思える。


「あのコマンダーフライアントを先に倒さないと、あれが仲間を呼び寄せ指示をだしているの」


 指をさす方向を見ると空を飛ぶアントがいる。

 羽の生えたアントが空から指示をだしていたようだ。


「だれかあれを撃ち落として!」


 知能が高いのか魔力弾を警戒して距離を取っている。

 あの距離では飛んできたのを避けられてしまうだろう。

 

「駄目じゃ、当たらない。わしの魔法でも飛んでる敵を捉えるのは難しい」


 思ったとおり難しいようだ。


「あれを試してみるか! 俺がやってみる」

「あんたのノーコンで当たるわけがないでしょ」


 そう、今までのやり方なら無理であろう。


「まあみててくれよ」


 俺は荷馬車に戻り竹を取り出す。


「まさか、竹槍であの飛んでるの狙う気じゃないでしょうね!?」

「これは槍じゃないのだよ」


 この竹は、中の房を取り除き、空洞のパイプ状にしたものである。

 これを鉄砲のインナーバレルのように扱うのだ。


 竹で作ったバレルの中を通り、魔力弾の直進性がアップする。

 ノーコンの俺を補うノーコン補正機と言ったところだ。


「そして俺は腕利きのスナイパーとなるのだ!」

「また変なことしてるわね」


 魔力制御の封印石手錠を装備した俺は竹製インナーバレルをコマンダーフライアントへ向け構える。

 今思えば簡単なものでいいから照準器を作っておけばよかった。

 実験用の試作機だから竹で出来たただの筒である。


 まあ、だいたいでいいので狙ってみよう。


 俺は竹製インナーバレルをコマンダーフライアントへ向ける。


「いけー!」


 竹の中を通った魔力弾は『ポン』と高い音を立てて飛び立つ。

 狙い通り俺のノーコンはかなり補正されほぼまっすぐ飛んでいった。

 しかし若干右にそれてしまいコマンダーフライアントの横をかすめた。

 

「惜しかった。でもこれで癖がわかった。若干左に向けて本番だ!」


 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる!

 前にもこんな事言ってたような気がするな。


「魔力弾連打だ――!」


 『ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン……』


 魔力弾は次々とコマンダーフライアント目掛けて飛んでゆく。

 いい具合に散らばった魔力弾は避ける隙間なく、コマンダーフライアントを捉えた。

 そしてインナーバレル(ただの竹筒)はヒビが入りボロボロになってしまった。


「おっしゃー」

「やったわねー」


「どうだ! 俺様の実力は!」

「だから、竹持ってかっこつけられても、ちょっと残念なのよね」


「よし、残りの残党を処理するぞ」


 俺達は残りのアントを退治し危機は回避された。



「お主なかなかやるの」

「何をおっしゃいますか、おじいちゃんこそすごいもの見せてもらいましたよ」


「こう見えても昔のわしはブイブイ言わせる冒険者だったのだよ。ホホホッ」

「確かにブイブイ言わせてそうですね」


「わしの名はロイドだ。楽しい旅になりそうじゃな」

「あ、俺はリュージです」


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