2ノ第6話: 冒険という名の逃走
「ミリア。俺だ」
「あなたリュージなの?」
ここはビソチアの町の玄関口。
俺たちは東の都バーンマコーへ向かうために馬車の停留所で合流した。
「訳あって変装している」
「そんな趣味があったのね。さすが変態ね」
ここから冒険者ギルドは近い。
出発前にガルシアさんに出会うと面倒だから変装のまま来たが正解であった。
建物の影から停留所広場を覗いてみるとガルシアさんが居るではないか……。
きっと俺を探しているに違いない……。
「ミリア隠れるぞ」
「今度は何よ!」
更に停留所を観察するとボインボインのダークエルフが居る。
ボインボインのダークエルフは「赤いドレスの女は見てないか?」と聞きまくっている。
間違いなく俺を探している……。
この格好じゃまずい……着替えよう。
「すいません、この服ください」
俺は洋服屋に駆け込み普通の服に着替えた。
「あんた、追われる身なの? 悪いことでもしてるんじゃないでしょうね」
「俺は何も悪くないよ」
「問題ばかり起こさないでよね!」
巻き込まれただけだ。俺は悪くない。
「で、ミリア。馬車はどうなった?」
「それがね、観光組合で昨日予約してたんだけど、今日になって馬車は出せないと言われて……」
再び俺たちは観光組合へ行って馬車の運行状況を確認しに行くと、しばらく馬車の運行は中止すると言っていた。
理由は魔物が活発となりビソチアの周辺がキケンな状態であるようだ。
そして受付の女性はこんな事も言っていた。
「噂によると、Dモールの結界装置が働いていないという噂もあるわ。誰かが破壊したとか……」
……まさか! ミリアとメアリーがヤッたあれか?
俺は疑わしい目でミリアを見る。
「な、なによ! 私は何も悪くないわよ!」
問題起こしてるのはお前も一緒だな! と言ってやりたい。
「ミリア、別の方法を考えよう」
「どうするの?」
「馬車に行って直談判してみよう」
ガルシアさんは居なくなったようなので、俺は停留所広場で馬車に直接交渉しようと広場を回った。
停留所であるこの広場は冒険者や商人が数多くやって来ることから宿屋やお店などが立ち並び活気に満ちている。
停留所の広場を取り囲むようにお店はたくさん並び馬車もいっぱい止まっている。
広場の中央にはシンボルタワーの時計台が設置され、それを取り囲む丸いロータリーを馬車は回る。時計台と言っても機械仕掛けのような物ではなく、影を利用した日時計ではある。
「こっちも駄目だったわ、今日は出せないって」
ミリアと手分けして探したが全滅であった。
手っ取り早く出発しようとしている馬車を狙ってみても客が既に乗っている。
唯一「条件付きならばいいよ」という御者は居たが、騎士団の護衛付きなどという条件では無理である。
「まてよ、自主クエストだよ! 馬車の護衛クエストを勝手にやろう!」
しかしどこの馬の骨とも知らぬ俺たちを護衛として雇うような馬車はそうそう見つからなかったのである。
ところが――諦めかけた俺たちにチャンスが巡ってきた。
「ミリア。あれだ。あの荷馬車に交渉してみよう」
荷馬車は今にも出発しようかと動き出していた。
「あれは、荷馬車よ!」
「馬車には変わりないだろ!」
俺は駆け足で荷馬車へ向かい交渉に入った。
「おっちゃん、これから出発するのか?」
「そうじゃが」
「俺たちを護衛として雇ってくれ」
「そんなもんは不要じゃ」
「料金も要らない、そのかわり乗せてってほしいんだ」
「のんびり一人旅が好きでの~。それに野郎なんか乗せて長旅はごめんじゃ」
結構変わり者であった……。
そして交渉は失敗したかと思われたが――
「おじいさん、私たち怖い人に追われてるの。助けてください……」
遅れてきたマリアちゃんの可愛らしいお願いモードが発動していた。
するとおじさんの目つきが変わる。
「乗れ!」
なんと! 一発OKが出てしまいました。
マリアちゃんのお願いモードはチートレベルですね。
昔俺もあのお願いモードには何度やられたことか……。
◇
「賑やかな旅になりそうじゃの」
俺達は東の都バーンマコーへの街道を進み出す。
ビソチアからバーンマコーまでの道のりは意外と整備されているが、それでも2日は要する距離がある。
ノンストップならば丸一日で行けない距離ではないらしいが、馬の休憩などを考慮し1泊の移動が一般的となっているようだ。
そもそも荷馬車ではそんなにスピードは出せないし、ちなみにこの荷馬車を操縦しているのはおじいちゃんである。
「君たちは冒険者なのか?」
「そうにゃ~! そして追われる身なのにゃ!」
「メアリー、それじゃまるで私たちが犯罪者みたいだからやめなさい」
「ほほほ、元気があっていいの~。若かった頃を思い出すよ」
俺達の乗っている荷馬車は荷台と車輪だけのシンプルな作りだ。
屋根などはない!
しかしこれもオープンカーだと思えば、暖かな日差しを浴びながら旅が出来るというなんとも得した気分である。
さらに良いことは、このポジションからの眺めだ!
荷台の後ろの端っこに腰を掛け、足をぶらぶらさせる。
――これが気持ちいい。
北には小高い丘が連なり、その丘を沿うように道は伸びている。
南には青々とした草原が広がり、地平線が見えそうなぐらい広大である。
爽やかな風を感じながら青々とした草原を眺めているのはとても良いものだ。
『ゴト、ゴト』
馬車は結構揺れるが、この青々とした草原を眺めていれば気にならない。
むしろ心地良い揺れに変わるのだ!
『ゴットン』
たまに大きな揺れもくるが、これがまた気持ちいいのだよ。
体は軽くなり、まるで宙に浮いているかのようだ。
座っていたはずの荷台が消えている――
『ドカッ』 これは俺が地面に衝突した音
「お兄ちゃんが落ちたにゃ~」
「だから危ないって言ったじゃない」
「まってくれよ~~~!」
俺は必死に走って馬車に飛び乗った。
馬車は歩くくらいゆっくりなのだから、そんな慌てることはないのに、こういうときって慌ててしまうものだ……。
「キャハハハ」
「お姉さまそんなに笑ったら失礼ですよ! リュージさん、見事なジャンプでした」
そう言ってマリアちゃんは俺にグッジョブしてきたが、全然褒めているように思えません。
◇
ビソチア町を追われるように出てきてしまったが、こうして俺たちの荷馬車での長旅が始まった。




