2ノ第5話: 一日一善。エルフはきっと味方です。
「一日一善」
前世の四文字熟語で1日に1つは良いことをしましょう。
と言う事だが最近の俺はそれを実践しようと心がけている。
そして今日のノルマは既に達成したのだ。
マーガレットさんのお願いを叶え、日本に送ってあげたのだから。
「いい事すると気持ちがいいね~」
俺がなんでそんな事を始めたのか? それは、気持ちがいいから!
――いや違うね。
おそらくミリア達と出会って俺は変わったのだ。
などといえば聞こえは良いが、ミリア達と出会ってからの俺には災難のゲリラ豪雨が降り注いでいる。
何が起きている……?
見えざる力が働き、俺の運命を弄んでるとしか思えないのだ!
神様とか幽霊とか俺は信じないが、もしかしたら居るのかな?
居るにしろ居ないにしろ一日一善ぐらいはしておいて損はない。
そうして良いことをしていれば、そのうちきっとご褒美をくれるに違いない!
(じゃ、俺は見返りが欲しくて一日一善しているのだな?)
……否定できない。……そうさ俺は欲深いダメ人間さ!
◇
ところでマーガレットさんに指示されて俺は物置みたいな部屋に来た。
誰も居ない部屋を見渡すと、奥のほうから若い女性が姿をあらわしてくる。
おそらく見つからないように隠れていたのだろう。
スラッとした体型で耳が長く尖っている。
ダークエルフの様な妖艶さは無く、そのスレンダーなスタイルからの清楚な感じは、間違いなくエルフである!
ダークエルフの次は、エルフが俺の目の前にいるのだ!
一日でダークエルフとエルフに出会うなんてラッキーである。
ボインボインのダークエルフにはケツ揉まれてひどい目にあったが、さすがにエルフはそんなマネしないであろう!
いやいや待て待て。
今までの傾向で考えればきっとまた良くないことが起きる気がする。
そもそも今まで出会ったことの無いダークエルフとエルフに連続で出会ってしまうなんて……確率的におかしくないか?
これはまた……『見えざる力』が働いているのではないか!?
まるで作家が居て俺の人生を思うがままに操作しているとしか思えない。
偶然なのだろうか……確率的にそんなことがありえるのだろうか。
被害妄想であれば良いが……。
このエルフさんときたらスラッとした体型で若い美人さんだ。
昔の俺なら有頂天に舞い上がり、見えざる力にハメられたに違いない。
が、今の俺は、昔の俺とは違う!
このところの冒険を経て俺の危機察知能力は格段に進化しているのだ!
「あなたはマーガレットの使いの者か?」
エルフ美女は訝しげな目で見つめてくる。
俺はそっとうなずいた。
女装中なのだから声を出したらバレる可能性がある。
極力身振り手振りで乗り切ろう!
「さすがプロの運び屋ね」
俺はいつの間にプロの運び屋になったんだ。
とにかくこのブツさえ渡してしまえばおさらばさ。
俺はマーガレットさんから預かったブツを手渡す。
「ありがとう! これでエルフ族の平和は守られる」
ん?何を言っているのかな?ちょっと大げさ過ぎませんか?
――って、まさかそんなに重要なものを運んでいたのか!?
やっぱり見えざる力が働いている……。
――おのれ神め! ……って、ごめんなさい!
一日一善しますから許してください……。 はぁ~。
「どうかしましたか? 元気がありませんね。無口ですね」
そりゃ元気もなくなるさ。
【マーガレットさんブツは渡したよ】
【ありがとう。そろそろ魔力電池が切れそうだから切るわね】
テレパSIMは魔力を使い魔力波を飛ばしているらしいがどうやら魔力が少なくなったらしい。
ちなみに地球の魔力はとても薄いため充電には時間がかかると言っていた。
【生きてまた会えたなら、私がご褒美してあげるわ! またねリュージ君】
そこは次に会えたらとか言ってほしかったよ。
まるで俺に命の危機が迫っているような言い方しないでほしい。
『ウゥーーーン』
さっさとここを出ようと、扉を開けようとした瞬間。
館内にサイレンの音が鳴り響く。
「ヤバイわね、バレたようね。こうなると正面玄関から出るのは難しいわ。ついてきて!」
部屋の奥へ連れて行かれるとエルフは壁の上の方を指さしている。
「あそこから逃げるわ」
指差す方向には通気口があった。
エルフは通気口によじ登り中へ入ろうと頑張っているが、高い位置にある通気口に苦戦している。
見かねた俺は彼女の足を持ち上げて手助けする。
俺も後を追うように通気口に入るが、俺の場合は全身強化でこのぐらいは軽々とこなしてしまう。
「ありがとう、ついてきて」
迷路のような細い通気口を進み脱出を目指している。
通気口は四つん這いになればなんとか通れるぐらいである。
「話には聞いていたけど。あなた、さすがの運動能力ね」
褒められるのは悪い気がしない。
しかもエルフ美女に褒められるなんて最高である。
そういえばエルフ美女といえば何故か短めのスカートが定番ですね。
見えそうですね……。
そう! ここは通気口という名の四角いキャンパス。
そんな芸術作品を俺は追う。
そう! 俺は尻に惹かれている。
あっ! 今ご褒美モードが来ている……?
「ここまでくれば安全だわ」
長いこと通気口を進んだ気がするが、気がつけばあっという間だった。
俺へのご褒美は儚く終了し、通気口を抜けていた。
この通気口は研究所の外まで繋がっており、今は使われていない古い倉庫に繋がっていた。俺たちはその倉庫の中に降り立つ。
エルフ美女はここまでくれば安全だと言っていた。
そうは言っていたが、そういう気を抜いたときがキケンなんだ。
俺は今までの冒険で学習してるのだ。
キケンがないか俺は周りをじっくり見渡す。
……どうやら倉庫にはキケンは無さそうだ。がっ――!
周りを観察し目を離したすきに、エルフ美女は脱ぎだしていたのだ。
唐突の出来事に女装している事も忘れ、俺は男声で「なんで脱いでる!?」と叫んでしまった。
エルフ美女は驚いた顔してこちらを振り向く。
そして俺に近づいてくる。
「初めて喋ったと思ったら男らしい声してるわね」
そりゃ中身男ですからね。
「人間にしては珍しい髪してるわね」
そりゃカツラですからね。
そう言って俺の髪を触りだすエルフ美女。
そしてズラがズレた……。(やべー)
エルフ美女は驚いた顔して背を向ける。
慌てて服を着替えるエルフ美女。
これはまずいですね。何か言い訳をしないと……。
「じ、実は……」
「――いいの! 何もいわないで! プロの運び屋さん――見事だわ――そして無駄口は叩かない――今あったことも決して喋らない――プロですもんね――私わかります――ですよね? あなたはただ運んだだけ――それだけ――それ以外は何もなかった――ですよね?」
なんかマシンガントークで口調が荒々しいです。
怒ってますよねこれきっと。
要は忘れろと言いたいのかな……。
「怒ってないわよ! エルフ族は寛大なの。あなたはエルフ族を救ってくれた。その御恩は忘れないわ。でも今日の事は忘れましょう。仕事は終わり私たちは別れる。二度と合うことも無い。それがお互いのためよね」
いつものパターンならとっくにビンタでも飛んできて償いを受けさせられているはずだが今回は違っていた。
まあ、キケンなブツ運ばされてトラブルに巻き込まれないだけ良かったのだ。
このまま別れれば関わりがなくなり安全だ。
結果オーライで危機は回避された。そう思いたい。
俺たちは別々の方向へ別れ、去ってゆく。
そして去り際に彼女はこうつぶやいていた。
「次に遭うようなことがあれば殺すわ」
何が寛大なエルフ族だ……人間より怖いぜ。「一生怯えて過ごしなさい!」とでも言いたいんですか?
ビンタもらって許してくれる方がさぞよかった。
さて、ミリア待たせちゃってるかな、早くいかないと!




