2ノ第1話: 売れっ子冒険家とガルシアの裏側
「リュージ待っていたぞ」
ここはビソチアの町の東にある冒険者キルド。
そしてこの声は冒険者キルドのガルシアさん。
頭はスキンヘッドで肌は黒くいつも葉巻をくわえている。
ここに着たのはクエストの報酬を貰うためだが、ガルシアさんは話があると言っていた。まあ、話だけは聞いてみるが何を頼まれても断るつもりだ。
なにしろ、旅の資金を調達したらみんなで東の都に冒険しに行く予定なのだ。
俺とミリアで始まった冒険だが、新たにメアリーとマリアちゃんが加わり4人での冒険が始まるのだ。
「ところで、ガルシアさん話ってなんですか?」
「お前にクエスト依頼が来ている。ご指名だ」
なんと! 俺にご指名だと!
いつからそんなに有名になったのだ。
「ここじゃ何だから、奥でゆっくり話そうじゃないか」
冒険者キルドに入って立ち話していたが、ガルシアさんはゆっくり話したいようなので俺は言われるままについていった。
クエストの報酬は貰ったからさっさと旅支度をしたいところであるが、話ぐらいは聞いてみようと思った。
ガルシアさんは横の扉を開けて入っていく。
個室か何かがあるのかと思いきや、隣の建物と直結していた。
その建物は冒険者ギルドの隣にある酒場であった。
「ここは俺の経営している酒場だ」
普段は冒険者ギルドのカウンターで葉巻をふかしながら働き。
裏では色っぽい女性を働かせ酒場を経営しているようだ。
するとセクシーなドレスを着た女性がこちらへ向かってきた。
「お疲れ様ですガルシア様」
「おう。おつかれ。奥のVIPルーム空いてるか?」
「空いております」
「それじゃこの子を接待してくれ。それと店の女、全部もってこい」
「全員ですか?」
「そうだ、全員だ」
VIPルームへ案内され俺は借りて来た猫のように高級ソファーで縮こまっていると、いっぱいのお色気女性たちが続々と入ってきては俺を取り囲む。
何が始まろうとしているのでしょうか?
クエスト依頼の話しはどこいったのでしょうか?
「それで、クエスト依頼の件だが」
ちゃんとクエスト依頼の件であったようだ。
しかしこんなキャバクラ状態にする必要はあるのだろうか……。
嫌な予感しかしません。
「ご指名が2件きている」
なんと2件も?
これで俺も売れっ子冒険家!
仕事には困らないですね。
なんて喜んでいる場合じゃないな。
「まずマーガレットというやつだが……」
「あ、マーガレットさんですか」
「知り合いか? こいつは何者だ?」
「魔法学校のオタク娘……じゃなくて、実は俺もよくわかってないです」
「そうか。こいつは怪しいな。ギルド側で断っておく」
そういったガルシアさんは依頼書を破り捨てた。
俺の意見は全く聞く気がないようですが、せめて内容ぐらいは見せてくれてもよかったのではないでしょうか……。
「それで、もう一つの依頼だが。それはヒートからの依頼だ」
「あ、ヒートさんですね」
「受けてくれるか?」
「ど、どんな内容でしょう?」
まさか決闘じゃないだろうけど……。
「近々デカイ作戦があるようだ。あいつの元で働いてくれ」
「これから冒険の予定がありまして……」
また騎士団への誘いかな?
そうなったら自由気ままな冒険ができなくなってしまう。
ミリアについてはニコラスさんからの頼みもあるし、メアリーに関しては放おってはおけない。
「話には聞いていたがこれは手こずりそうだな」
そういったガルシアさんは革の巾着袋を『ガシャン』と音を立ててテーブルの上に落とす。
明らかに金塊が入っていそうな音がした。
大物スポーツ選手じゃあるまいし、移籍金とでも言うのでしょうか?
もしかしてこれは賄賂ってやつでしょうか?
「あいつとは古い付き合いでな。――まあ飲め」
「はい。頂きます」
いや待てよ。匂いを嗅ぐとお酒の匂いがする。
前世でお酒は飲んだことあるが、この肉体ではまだ飲んだことは無かった。
「どうした? もう成人してんだろ。ここは酒場だ、ミルクはねーぞ」
「いや、その~」
もしかしてこの酒坏をかわしたら俺はもう逃げられなくなるのではないか?
そんな嫌な予感がした。
「俺の酒が呑めねーってのか」
「頂きます!!」
恐怖のあまり勢いよく飲んでしまった。
「おお、いい呑みっぷりじゃねーか」
「いやいや、お酒なんか15年ぶりだったんで、ちょっと躊躇しちゃいました……」
やっちまった!! 俺は15歳なのに……。
「はぁ? 生まれる前から飲んでたってのか! おもしれーやつだな!」
「いやいや~ハハハ」
冗談だと思ってくれたようです。
そりゃそうですね。
「お前らどんどん注いでやれ」
お色気女性たちが身を寄せながら、飲み干したグラスにお酒を注いでくる。
お酒が回ってきたのか、俺は気分が良くなってきてしまった。
「それじゃガンガン呑んじゃいますよ!!」
「それで、クエスト依頼の件だが……サインしてくれるか?」
ギクッ!
賄賂にお色気女性に酒坏。
ここまでしてサインさせる気なのか……。
怪しすぎて逆に退いてしまう。
「どの女が好みだ? 好きなの選べ!」
みんな美女ばかりで……。
待て待て、俺の冒険が待っているんだ。
こんな事している場合じゃない……。
「あれか? そういうことだったのか? 大丈夫だ、ヒートは両方いける口だ」
「えっ~!?」
待て待て待て、今まずいこと聞いちまったのではないか!?
てか俺のほうが誤解されている気がする。
この美女たちを目の前にして選ばないのは不自然だ……。
だんだん深みにハマっていきそうです。
ここはなんとしても脱出せねば!
「すいません、ミリア達を待たしてるのでそろそろ……」
雲域が変わった。ガルシアさんの顔が怖いです。
そしてガルシアさんは腕を上げて指を『パチン』と鳴らす。
何かの合図のようです……。
扉が開き黒ずくめの男がぞろぞろ入ってきました。
そして出口を塞ぐかのように並んでいる。
お色気女性たちはというと、『逃さないわよ』と言わんばかりに俺に絡みつき、依頼書とペンを渡してくる。
絶対これはサインするまで逃げられないパターンだ……
(おわたっ――!)
「どうだ? もう逃げられねーだろう」
「えっ? 逃げてもいいんですか?」
「逃げられるもんならな!!」
女性に絡みつかれ、出口には黒服の男。
全身強化をして全力を出せば、たぶん逃げられる……。
しかし手加減なんて出来ないから相当けが人はでるだろう。
今後、ガルシアさんを敵に回すことになってしまいそうだ……。
怪我はさせたくない。。うまくやれるだろうか……。
「ごめん。ガルシアさん! 逃げさせて頂きます」
覚悟を決めて戦おうと思ったその瞬間――!
自分の目の前が真っ白になり、体がどこかに吸い込まれる感じがした。
『この感覚には見覚えがある』
ダンジョンで体験した転送装置の感覚である。
俺は転送装置で飛ばされたのだとすぐに理解できた。
脱出不可能かと思われたあの空間から転送され、俺の危機は回避された。
――と思われたが……。




