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第39話: ご褒美ほしい。

 いよいよ明日ダンジョンを旅立つことになった。

 今日はダンジョン最後の夜である。



「これでお前ともサヨナラだ!」

「あんた誰と話してるの?」


「泣くんじゃない!」

「それベットの『きしみ』の音よ」


「お前のぬくもりは忘れない!」

「人じゃなぃんだから……」


「お前との初夜は最高だった!」

「あんたベットとナニしたの?」


 今日でこのベットともお別れだと思うと悲しいよ。

 だがお前のことは忘れない!



「変態ご主人様はベットの言葉がわかるのかニャ?」


「バカがうつるからメアリーは早く寝なさい!」


「はいニャ!」





「さあミリア、手錠で結んでくれ」


 『ガチャ、ガチャ』

 ミリアは俺にまたがりいつものように手錠をかける。


 ダンジョン生活はこれが最後だ。

 俺は思い残すことのないように自分への『ご褒美』として魔力マッサージで癒やされようと思ったが、気持ちよくて2回とも寝てしまった。

 ちょっと悲しいご褒美だった。


 もし次来ることがあったらお金持ちになっていっぱいの

 

「ご褒美ほしい!」


 おっと、思わず声に出てしまった。


「なによ! 今日は最後だし手錠無しでもいいわよ」

「いやそれは固く固く結んでくれ」


「あなた実は望んでない?」

「違うさ、俺を結んでないと、夜のDモールを徘徊しちゃうぜ!」


「それも危険ね。変態を夜の街には行かせられないわ、変な噂がたったら大変ですからね」


 もう噂になっちゃっているかもしれないがな……。


「最近。公園近くで怪しい人出るらしいし」


 ――俺じゃない!

 きっと他にも居るんだ……。そういうことにしよう。


「というか、お前は公園破壊したらしいな!」

「わざとじゃないのよ!」


「そりゃそうだろうけど……」


 おかげでダンジョンには居づらくなってしまったよ。

 まあ明日にはここを脱出だ。


 まるで夜逃げ……。


「ねぇリュージ、明日は出発ね」

「そうだね」


「なんかここに来てよかったかも、色々整理がついたわ」

「何のことかわからんがよかった」


「パパに向き合ってみようと思うの」

あっ()!」


「なに! なによ! まだ何か隠してるの?」


 別に隠していたわけじゃないんだが……。

 タイミングを失い正直忘れていた。


「俺のズボンのポケットに入っている手紙を取ってくれ」

「手紙?」


「ニコラスさんから預かったんだ。時期を見て渡してくれと……」

「イヤよ、自分で取りなさいよ!」


「俺はこのベットと固く固く結ばれているんだ、取れるわけ無いだろう!」

「もぅ、仕方ないわね」


 ミリアは俺のスボンをまさぐる。


「気をつけて(さぐ)ってくれよ……」

「ちょっと(だま)ってて!」


「――待て待て、それ以上奥はキケンだ――」

「もう! この変態! ちょっとだけ手錠を外すから、自分で取ってよ」


 俺の左手の手錠が外された。

 俺はポケットの手紙を取りだす。


「これ……」


 俺にまたがるミリアに、俺はニコラスさんの手紙を渡す。


 目的を果たした左手は、手錠の(そば)に戻して結ばれるのを待っているが、ミリアは既に手紙を開き見入(みい)っている。

 忘れたのか? 固く固く結ぶ気がないようである……。




 俺にまたがるミリアは微動だにせず、手紙を広げ見入(みい)っている。




 俺からでは手紙がじゃまでミリアの表情を伺えない。

 様子が気になるが、悪いことが書かれているとは思えない。

 おそらく父の本音が(しる)されていて、ミリアへの本当の思いが書かれているに違いない。

 俺はそう思った。



 しばらくすると、ミリアはベットから降りて素早く奥の部屋へと立ち去ろうとする。


「待ってくれミリア、まだ手錠が……」

「……」


 ミリアは立ち止まる。


「手錠を結び忘れてるぞ!」

「わかったわ、こっち見ないで! あっち向いてて」


 俺は言う通りにあっちを向いた。



「ねえ、リュージ。手紙の最後が消えてるの……、あとはリュージくんに頼むと……」


 たぶん、あれかもしれない……。

 もしもそんな日がきたらこれだけは伝えてくれと言われている。


 それは……「自由に生きろ!」


「……」


 ミリアは近寄ってきて俺の手錠をベットに結んだ。


『ガチャン』


 ――その時、予想だにしないことが俺を襲う。




『ちゅっ』


 これはっ! ほっぺに、『キス!』


 俺は反射的にミリアのほうを見ようとしてしまう。

「――見ないでって、いったでしょ」


『――バチン』

 これはっ! ほっぺに、『ビンタ!』


 生涯始めて体験したほっぺにちゅ~の甘い感触が、コンマ一秒でビンタでかき消されたのである。

 何も残っちゃいない……、残っているのはジ~ンとくる痛みだけだ。


 はい。甘く切ないご褒美でした。


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