第4話: 狩場を見つけたい。
冒険者になるために武器と防具を手に入れようとするも、冒険者の武器は非常に高価であり、今の俺には入手困難である。
家庭用ナイフのように気軽に買えるものでは無く、貯金も無い俺には到底無理であった。
そこで考えたのが『竹槍』である。
お金がなければ作ればいい!
材料に関しては家の裏の竹藪にいくらでもあるので、前世の日曜大工経験を活かし竹槍を作り、武器にすればいいと考えた。
俺は試作機1号を作り終え、さっそく突きを試してみる。
両手で持ち、左足を踏み込むと同時に、突き出す!
「おし! 感触は良さそうだ」
長さもちょうど良いし火力もありそう、しかし問題は強度である。
しょせん材質は木なのだから、そんなには保たない。
そこは、折れることを想定してたくさん用意する必要がある。
次の考慮としては命中率である。
突きの場合の威力は申し分ないが、一点を狙うという点で言えば命中率が劣ってしまう。
せっかくの火力も当たらなければ話にならない。
この問題を補う為に、俺は罠を用意することにした。
罠と言ってもネットを被せるという単純な方法である。
ネットをモンスターに被せて動きを封じれば、命中させることは容易だと考えた。
作り終えた俺は、出発のために身支度を整えるも見た目が気になったので、おもむろに作った竹槍を腰に付けて鏡を見てみる。
「うん! まるでサムライ」 カッコイイぜ。
格好は大事なのだ、俺はもう冒険者なのだから……。
さて、服装はそれっぽいのを探してこよう。
なんせ、『防具が無い』からな!
「おし、いつでも出発できるぞ」
意外と大荷物になってしまったが、庭作業で鍛えた俺の肉体があれば問題ないだろう。
たしか、あのビソチア山を目指せばいいんだよな。
正確な場所はわからないが、とにかく山のほうを目指してみよう。
◇◇◇
俺は竹槍を抱え山の方を目指し出発する。
街を出ると青々とした草原がしばらく続く。
山に近づくにつれ、ゴツゴツとした小さな岩が草原から姿を現してくる。
『コン、コン、コン』
この音は竹が小さな岩に当たる音である。
竹槍を半分ずつ両手で抱え込むも、この距離を運ぶとなると意外と重い。
負担を軽くするため、俺は竹を引きずって歩くようにしている。
『コン、コン、コン』
歩きやすかった草原から山に近づくにつれ徐々に悪路となってゆく。
俺は岩を避けながら進むも、徐々に体力を削られている。
街から見たときはそんなに遠くないと思っていたが、こうして歩いてみると意外と遠い。
そう感じるのもこの荷物と悪路のせいかもしれない。
「はぁ~、疲れた……」
かれこれ1時間ぐらい歩いているのだろうか、山の麓まではきているが、ダンジョンらしきものは見当たらない。
モンスターがいる気配も感じられない。
「もしかして、俺って迷子!?」
どうやってダンジョンを探そう……。
この荷物を一旦どっかに置いて探すか?
俺は一度立ち止まり周りを見渡す。
すると遠くのほうに冒険者らしき人影が目に映る。
「あれだ、あれを尾行すれば、ダンジョンに行けるかもしれない」
こんな場所にいる人なんて、きっと冒険者に違いない。
見失ってなるものかと、俺は力を振り絞りペースを上げる。
『コン、コン、コン』
ペースを上げ、容姿が確認できる距離まで俺は近づく。
もう見失うことは無いと思った俺はペースを落とし観察する。
改めて後ろ姿を確認すると、小柄な女性のようだ。
髪は長めで、短いスカートに、おなかが露出するルックス。
腰には先端の鋭く尖った細見の剣をぶら下げている。
――あれっ? どこかで見たような?
しっかし、疲れた……。
この重さで走ってしまったのは失敗である。
俺の激しい『息切れ』が物語っている。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
――女性が立ち止まり、こちらを振り返った。
息切れが止まらん! 「――ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
……目が合った!
(これって、異世界定番の『出会い』ってやつでは!?)
女性は何事もなかったように、再び歩き出している。
俺も『だるまさんが転んだ!』 かのように歩きだす。
そんなやり取りがしばらく続く……。
あれ、どんどん距離が離れているように感じる。
気がつけば彼女は足早になっているではないか!
見失ってしまう、ペース上げないと! 『コン、コン、コン』
ちょ、ちょっとまてよ!
これじゃまるで、俺が『ストーカー』しているかのようだ。
違う、違う、断じて違う!
――気づけば彼女は全力疾走であった。
……そして見失う。
◇
俺は仕方なく、見失った方向へと進むことにした。
すると話し声が聞こえてくる! 数人の話し声だ。
声のする方向を目指し俺は進んでゆく。
岩場を抜けると、複数の冒険者達がくつろいでいるのが目に入る。
さっきの女性も居るじゃないか。……変な顔でこちらを見ている。
「あっ!」
髪は長めで、短いスカートに、へそ出しルックス。
そうだ、街で剣を突きつけてきたあのコスプレ女であった。
あのとき、「私にも近寄らないで、このストーカー!」みたいなこと言っていたような?
きっと、誤解されている……。
ふと気がつくと、周りで白い物体が動き回っているのが目に入る。
ウサギのような白いモンスターが動き回っているではないか!
モンスターと思ったのは、1本のツノが頭から生えており、ウサギとは様子が違っていたからである。
そのモンスターを観察するが、襲ってきそうな雰囲気がない。
予想は当たっていた。序盤にアクティブモンスターは居ない!
攻撃するまでは、襲ってこないタイプということだ。
そして奥のほうを見てみると……。
「ダンジョンだ!」
俺は興奮し、ルンルン気分で軽やかに歩きだした。
『コン、コン、コン』
「おいおい、あれ竹槍じゃねーか?」
「まじだ、竹槍だよな」
「ハッハッハッハッ!」
「まさかあれでダンジョンに行く気じゃあるまいな!」
「そこのホーンラビットだろう」
「初心者丸出しだな」
「何者だw」
「ウフフフ。あれ『ストーカー』よ。さっき私、追いかけられたの……。街では幼女も追いかけてたわ」
「はっ? あぶねーやつだな」
よってたかって、ひどい言われようだ……。
今は武器が買えないのだから、仕方ないじゃないか。
お前ら、災難に遭って4ねばいいのに!
すると一人の男がこちらに向かってくる。
「俺が退治してやる? この変態野郎……お前だ」
「なにっ! 何だと、もういっぺん言ってみろっ!」
ああ、喧嘩を吹っかけてしまった。
今までの俺ならこんなヤツ無視しているはずなのに、前世の俺の方は黙っちゃいいられないようだ……。
多勢に無勢、武器は竹槍。
どう考えても俺に勝ち目は無い。
竹槍を相手に向けて挑発するのだけはまずい。
殴り合いのタイマンに持ち込むべきだ。
そんな事を考えていたが手遅れであった。
相手は既に剣を抜き出し構えだしている。
仕方なく俺も竹槍を構える……。
幸い、別の奴らが加勢してくる様子は無いようだ。
タイマンに持ち込めたまでは良かったが、竹槍では明らかに不利である。
長引けば竹を切り刻まれて終わりだろう。
早めの決着に持ち込まなくては……。
「はい、はい、はい、喧嘩はだめよ!」
コスプレ女が俺と相手の間に割り込み仲裁に入ってくる。
コスプレした変な女かと思っていたが、意外といいところあるじゃないか!
笑顔が可愛いから彼女だけは許してあげよう。
かわいいは正義だ!
「弱い者いじめはしちゃダメよ!」
ガーン!
さらっとひどいこと言うんだな……このコスプレ女め!
女性に手を上げるわけにはいかないし、ここは我慢しよう。
俺の不利な状況を、助けてくれたのは事実なんだし。
俺は無言でこの場を離れ、彼らから距離を取ったところで狩りの準備を始める。