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第34話: 第3ステージ攻略したい。

「リュージ様、ライフゲージが溢れすぎてます」

「あぁ~、『リカバリィタンD』を飲んだからかな?」


「あらやだ、お盛んですね」


 受付娘は何か恥ずかしそうに俺のメディカルチェックを済ませる。

 そして俺たちを転送ボックスへと案内してくれた。


<<ようこそ。ステージを選択してください>>


「第3ステージだね!」


『ぽちっとな』


 ついに俺たちは第3ステージへ突入した。

 最初にダンジョンへ来た時はミリアが無謀に第3ステージから始めようとして焦ったが。今思えばいきなり第3ステージからスタートしても良かったのではないかと思えるぐらいだ。


 内部に入ると今までとは打って変わって狭い通路からのスタートであった。

 通路は狭く道も悪い本物のような洞窟である。いや本物なのだろう。

 そんなダンジョンを俺は慎重に進んだ。


「リュージ遅いわ、先に行くわよ」


 道が平らになったところで。

 俺を押しのけてミリアは先へ進んだ。


「狭くてジメジメしたところなんてわたしイヤよ! 早く行きましょ!」

「待ってくれよ」


「やぁ~! とつげき~」


 いきよいよく声あげてミリアは走ってゆく。

 が、しばらくすると悲鳴を上げて戻ってくるのだ。


「ギャーー!」


 すごい形相で俺に突撃してきては後ろへ隠れだした。

 後ろに回ったミリアは俺の服を掴み怯えている。

 

「何があった?」


 ミリアが怯えるなんて一体どんなモンスターが現れたんだ!?

 俺は恐る恐る前に進んだ。


「何も居ないぞ!」

「下、下、下よ」


 モンスターがいる気配はない、居るのはただの小さな蟻だけだ。


「ただの昆虫しかいないよ」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、いやっーー!」


 嫌がるミリアは俺に飛び乗ってきたのだ。


「おい! 重いよ!」

「早く! 早くここを抜けて!」


 俺に乗っかるミリアは頭をボコボコと叩いては前へ進めと急かすのだ。

 

「わかった、わかった」


 ミリアに弱点があったとは意外であった。

 てか、凶暴なビックアントは平気で普通の蟻は怖いとか意味不明です。

 襲ってこない蟻がなぜ怖いのでしょう。

 

「ねえ、まだ居る?」

「ちょっと居るね」


 見るのも嫌なんですね……。


「黒くて小さいのが動いてると怖いの!」


 それはちょっとわかる気がします……。


 しばらく進むと道は良くなってきて、そして蟻も居なくなった。


「ミリアもう蟻はいないぞ」

「足が震えてて動かないの。もうちょっとお願い」


 何を甘えているんだね。ミリアくん。

 急に女の子らしくなっちゃって……。

 

 よっぽど怖かったのか俺にぺったりくっついてくる。

 そんなミリアをおんぶして運んでいると髪の毛が俺の頬をかすめいい匂いがしてくるのだ……。

 

 そして……、俺の背中にはミリアの柔らかい胸の感触が……。




――「無いねっ!」




――「あるわよっ!」


「どこが?」


「ほら、大広間よ! 大広間があるわ! わたし嬉しい」


「俺はがっかりだよ……」


 ミリアは飛び降りて真っ先に大広間へ向かってゆくのだった。





「さああ! いくわよ~♪ 突撃~!!」


 いつものごとくミリアは突撃していった。

 モンスター相手なら怖くないらしく大広間の中央へと走っていくのだ。

 俺もミリアを追っかけるように中央へ向かう。


 大広間は野球ができるぐらい大きな空間が広がっており、壁の周りには無数の穴が空いている。

 第2ステージ同様にあそこからアントがでてくるのは予想されるが、この大きい広間では大量の敵と戦う激闘が想定される。そんな気がした。


 それにしても気になるのは、上方(じょうほう)3メートル程に開いている穴である。こちらから登れないし、降りることだって出来ないであろう……


「わー、いっぱい出てきたわ!」


 四方八方(しほうはっぽう)に空いた横穴から無数のビックアントが姿を現してくる。


「ちょっと多いな……」

「うわー、ビックアントがいっぱい」


 今までとは違い複数のビックアントとの戦闘となる。

 もしも囲まれたらフルボッコ(こてんぱん)になるだろう。

 そんな事にならないように速やかな殲滅が要求される。

 

 俺の場合は囲まれても全身強化でなんとか耐えられるかもしれないが問題はミリアである。

 そんなミリアを守りつつ、数を減らそうなどと俺は考えていた。


 ――と、心配していたが。無用であった。


 ミリアは囲まれないように常に移動しながら攻撃している。

 そして得意のエアリアル(側宙)を見せながらだ。

 広い広間を利用したうまい戦い方である。


 考えるより勝手に体が動く、天性(てんせい)の才能なのかもしれない。


「ちょっと、なにボケっとしてるの! リュージも働きなさいよ!」

「あ、ごめんごめん」


 次から次へと沸いてくるビックアントを俺達は処理する。

 何の心配もなかった……。


 ――と思ったその時であった。


 気になっていた上方(じょうほう)の穴からアントが姿を現してきた。

 あの高い位置からどうするのかと思いきや、穴の出口で立ち止まりなんと魔法詠唱を始めているではないか!?

 

「あれは! ウイッチアントだわ」


 魔法を使うアントが居るとは驚きであった。

 高い位置の横穴はこちらから登ることは不可能であり、そんな高い位置からの魔力弾攻撃となるとまさに鉄壁の要塞である。


「どうやって倒す?」


 穴までの高さは3メートル以上ある。

 ジャンプしても届くかどうか……。


 そうか! こっちも魔法攻撃すれば!

 

「ミリア、魔法攻撃できるか?」

「う~ん、ちょっと苦手なのよね。それに、ビックアントがいる状態では詠唱もままならないわ」


「仕方ない俺がやってみるか――」


 封印石入りの手錠をかければ俺にも魔法は可能である。

 しかし、全身強化と魔力弾(まりょくだん)を同時に発動することはまだ試したことがない。練習もしないでいきなりできるだろうか……?

 

 たぶん同時は無理である。

 

 ならば魔力弾だけでなんとかするしかない。

 全身強化無しでビックアントを相手にしながら魔力弾を放つ方法は……。

 

 そうだ、移動しながら魔力弾を放てばいい。

 詠唱の要らない俺の魔力弾ならではの戦術だ。


「俺の魔力弾を喰らえー!」


 俺の魔力弾はウイッチアントにめがけて勢いよく飛んでゆく。

 ――が、大きく外れる……。


「――ノーコン!」

「――うるさい! こうなったら数で勝負だ、えっ~い、ダダダダあー」


 冒険者試験で見せたように俺は魔力弾を連打することでようやっと1匹倒すことができた。

 しかしウイッチアントの出現する穴は無数にあり、次から次へと現れては魔法詠唱をしている。

 とてもじゃないが魔力弾の連打を続けるのは俺の魔力量でも無理である。



「ミリアごめんこれ以上は無理だ、魔法を避けながら戦おう」

「そうするしかなさそうね」


 詠唱が終わったウイッチアントは次々と魔力弾を放ってくる。

 そんな魔力弾を避けながらの戦いでは限界が来るのは時間の問題であった。

 魔力弾を避けるのに必死でビックアントはどんどん数が増え徐々に俺たちは取り囲まれている。


「きゃー」


 ウイッチアントの魔力弾がミリアを直撃しミリアはダメージを負った。

 俺は助けようとミリアのもとへ駆けつける。



「わたしはもう無理。放っといて」

「そういう訳にはいかないだろ」


「もうじきシステムで転送されるわ」


 ライフが減るとシステムでの強制離脱が実行される。

 それがわかっていたとしてもボロボロになって戻るミリアを放っておける訳がない。

 俺はミリアを抱えて逃げ回った。


「このままではどうにもならないわよ」

「ちょっとまってくれ。今考えてる」


「得意のプランBは今回無かったのね……」

「いや! あるかもしれない」


 俺は細い入り口の通路へ戻り、ミリアを下ろした。


「ミリア後ろで休んでいてくれ。この細い通路ならミリアを守りながら戦える」


 俺はなんと頭が良いのだ!

 この狭い通路ならば囲まれることもないしミリアも守れる!

 さらにウイッチアントの射線も切れているから魔力弾の攻撃も受けないのだ!


「オラオラオラオラ!」


 侵入(しんにゅう)してくるビックアントを、俺は1体ずつ処理してゆく。


「ねぇ……!」

「ん? 見たか! このプランB! 俺の作戦すごいだろ?」


 俺の完璧な作戦に感激するが良い!


「ねぇ……! わたし暇だわ……」

「狭いからな二人同時は無理だ、交代するか?」


「ねぇ……! わたし思うの……。これなら第2ステージで狩りしてたほうがよくないかしら?」


『ハッ!?』


 ウイッチアントから逃げて回転効率の悪いこの細道でビックアントを1匹ずつ狩りをしてゆく。

 よくよく考えたら第2ステージでビックアント狩りをしていた方が……(はる)かにいいですね……。


 俺はゆっくりと振り向き、ミリアと目を合わせる。


 ミリアは……(あき)れ顔です。

 

 そしてミリアのアイコンタクト(暗号通信電文)が送信されてきた。

 俺はアイコンタクト(暗号通信電文)を解読し、そっとうなずく。



「リターン!」


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