第3話: 装備を揃えたい。
聞き込みの成果により、ダンジョンの場所を知ることができた。
しかし、気になるのは山を指さされたことである。
どうみてもダンジョンには思えないが、おそらくダンジョンの入り口が山にあるということだろう。
たしかあの山は、ビソチア山と言って、太陽の山とも呼ばれている。
太陽の山と呼ばれるくらいだから普通の山とはなにか違うのだろう。
このビソコの街からはそんなに遠くはないので、歩いて行ける距離ではある。
さて、さすがに素手で行くような真似はできないから武器を手に入れよう。そして次に防具だ。
ということで、俺は街の装備屋に行ってみた。
「いらっしゃいやせ」
装備屋のおっちゃんが挨拶をしてくる。
軽く会釈をし、俺は奥へと進む。
中は10畳ほどの広さで、右側に防具が並び、左の壁には武器がきれいに並んでいる。
きれいに並ぶ武器を1本1本ワクワクしながら俺は眺めている。
そう言えば、楽器店のギターが壁に並んでいるのとよく似ている。
楽器店のギターを見ているときもこんな気持になったことがある。
俺には音楽の才能など無いから、高価な楽器など俺には不要であった。
しかし見ているのは楽しいもんだ。
高い楽器を買うとうまくなるという噂をよく聞く。ホントかな?
思い切って高い武器を買うか! なんてね。
しっかし、テレビ画面や写真で見るより全然迫力がある。
それはそのはず、実際に手にとって感触も確かめられるし、また、重みも感じられるリアルな空間であるのだから。
そう言えば今までに騎士や冒険者が武器を持っている姿はよく見ている。
それなのに、その時はなんとも思わなかった……。
ナゼだろう……、今は違う気持なんだ、武器を見ただけでワクワクしてくる。
どんな武器にしようかな?
そうだ! あまり重い物はダメだ、リアルに持つのだから軽くしないと……でも、ある程度の重さがないと火力が出せない。
う~ん、バランスを考えないと……良いパフォーマンスが出せなくなる。
俺は気になった一本を手に取り、武器を見つめる。
「これだな!」 我ながらセンスが良い。自画自賛。
ところで値札らしきものが貼っていない。
それどころかどの武器を見ても見当たらない。
今までは生活用品ぐらいしか買ったことが無いが、どうなっていたんだっけ?
まあ高価な買物はしたことがないから、普段とは違うのだろう。
しっかし、このおっちゃんもワルそうな顔をしている。
いかにも悪徳商人みたいな感じがする。
「おっちゃん、この武器欲しいんだけど……いくら?」
「100万ゼルでいかがやす?」
おいおいおい、ちょっとまてよ! いくらなんでも高すぎる。
1年間のバイト代を足しても買えないよ……。
どんな名刀なんだ……。
「おっちゃん、いくらなんでも高いよ」
「いやいや、それは名刀でっせ」
名刀きたー! さすが俺の見立てに間違い無し!
というか、俺……騙されてないか?
「でも、安くしちゃいやんす、50万ゼルでどうだす?」
はぁ~? イキナリ半額になっているんですが……。
しかし、いくら半額でも元が高すぎて話になりません。
やっぱり俺、騙されているのか?
ニコニコ笑って手をこすり合わせるその仕草が、いかにも怪しすぎる。
どうしよう……。と言ってもさすがに買えるような額ではない。
別の安そうな武器を探してもそれすら買えないかもしれない。
ここはボッタクリ店に違いない、俺はたぶん騙されている。
武器は無理だ……店を出よう。
「またにします」
その時、焦った様子でおっちゃんが声をかけてきた。
「――まてまて、安くするやんす、10万ゼルでどうだす!」
えっ、9割引きになっている。どういうことなんだ……!?
一体最初の値段ってなんだったのだろう。
というか、それでも手持ちが足らないという事実はいかんともしがたい。
ヤバイ、早く逃げよう! 俺は逃げるように店を出た。
◇
冒険するのにこんな手こずるなどとは、思ってもみなかった。
ゲームのようにはいかない。
ゲームだったら始まりの武器や、初心者救済などがあるはず。
せめて貯金ぐらいしておけば……。
15年間ここで俺は何をしていたのだろうと悔やむ。
ゲームならな~。初期マップを見て、ダンジョンを真っ先にさがし、もうとっくに出発している頃だ。
そんな初期マップすら持ち合わせていない。
そうだな、ゲームは進めやすいように作られているからだ。決められたシステムに助けられながら楽しく冒険する。
俺は甘く見ていたかもしれない。
ここにはゲームシステムなどは存在しない、柔軟な対応が必要となる。
ゲームでは体験したことの無いような交渉もここでは必要となるだろう。
システム制限がないのであれば、盗むことも可能ではあるが……。
いやいや!
それは犯罪だ! さすがにそんなことはしたくない。
リアルに冒険する事が簡単ではないことを認識するのであった。
◇◇◇
色々考えながら俺は家に帰った。
出鼻を挫かれた俺の冒険であるが、システムなど無いのだから何か別の方法あるはずだ。
考えるんだ、なにか別の方法を……?
――そうだ、防具は要らない!
『当たらなければ、どうという事はない』
名言だ! かっこいいぜ。このセリフ、誰かに決めてやりたい。
序盤の狩りといえば、基本的にアクティブモンスターが居ないと相場は決まっているし、キケンなモンスターが街の周りにいるなんてほぼほぼ無いのである。
イキナリ襲ってこないという優位点を活かせば、やりようはある。
しかし武器だけは必要だ。
これだけは無いと素手になってしまう。
なんとかお金を貯め、安い武器をあの店で……。
――ダメだダメだ。あの装備屋には行きたくない。……困った。
家にある斧はどうだろう?
斧といってもモンスターを倒すには心細い。
すぐ折れそうだし、しかも短い。
家の裏にある竹藪を切るのがやっとである。
そうだ。作ればいいんだ!
さすがに鉄を用意するのは大変だが、竹なら家の裏に沢山あるではないか。
そうだ! 竹槍だ! これで行ける!
昔の日本人はこれを使い、強大な敵へ立ち向かったと聞いている。
前世の記憶が役に立った!
この世界でメイド・イン・ジャパンの力を見せつけてやるぞ!
おし、今日は寝よう明日は力作業だ。