第2話: 冒険がしたい。
冒険がしたいという気持を抑えきれず、俺はすぐさま行動に移す。
で? ダンジョンはどこにあるんだ?
ダンジョンがあるという噂は聞いたことがあるが、どこにあるのかまではわからなかった。
冒険者ギルドがあったはずなので、そこで聞き込みをすることにした。
◇◇◇
冒険者ギルドの前に来た俺は、立ち止まっていた。
なぜここで立ち止まったかというと。嫌な予感がしたからである。
今までの俺ならはこんな事は思わなかったはずだが、前世の記憶によりこの扉の先の光景が見えてきてしまう。
扉はウェスタンドアで出来ており、西部劇みたいな扉である。
こんな扉は映画とかでよく見たことがある……。
これを開けると人相の悪いふらつき共が銃をぶら下げ酒をかわす。
そんな前世のイメージが俺を襲う。
恐る恐る扉を押し中の様子を伺うと、コワモテのおっちゃんがカウンターから睨んでくる。頭はスキンヘッドで肌は黒い、そして葉巻をくわえている姿は、まるでマフィアのボスのようだ。
悪い予感というのは的中してしまうものだ……。
怖くて引き返そうかと一瞬思ったが、今はどうしてもダンジョンに行きたい気持がまさり、俺は勇気を振り絞り中に入っていった。
「おい、坊や、ミルクは置いてねーぞ。お前みたいなガキはさっさと帰れ」
うん、怖い、しかも感じ悪い。おまけにガキ扱い。
どうしよう……、ウジウジしてても始まらない、とにかく聞かなくては。
「あのー、ダンジョンの場所を聞きたくて……」
おっちゃんは更に睨んでくる。
俺はなにかまずいこと、聞いたのだろうか?
ダンジョンの場所ぐらい教えてくれたって良いと思うが……。
「まずは学校へ行きな!」
「え? 学校? 学校ならもう卒業しましたけど……」
「ちがう、冒険者学校だ。そこで何年か勉強してこい」
冒険者の学校があったとは知らなかった。
学校で訓練をしろということなのか。しかし今『何年も』と言っていた。
今すぐにでも冒険したいこの俺の気持、どうしたらいいのだ。
訓練なんか実戦で積んでいけばいいじゃないか……。
もしや、これはゲームでいう、チュートリアル的なやつでは?
俺は、チュートリアルなどスキップするタイプなんだ。
電化製品のマニュアルだって読みやしない! ……自慢だが。
「実は俺……、経験豊富なんだ」
「嘘つくな!」
経験は実戦で積めばいいし、知識という点ならば、前世の経験豊富なゲーム知識が俺にはある。よって問題など何も無いはず……。
とにかくダンジョンの場所だけでも聞き出してしまえばなんとかなる。
「え~と、ダンジョンの場所だけでいいので……教えていただけませんか?」
「――帰った、帰った」
しばらく粘ってみたがダメだった。
話にならない……、これじゃ門前払いじゃないか!
いや、門は潜っているけどな……。
俺は、外に出て呆然と空を眺める。
するとウェスタンドアの開く音がし、一人の男がこちらへ向かってくる。
立派な体格に高貴そうな装飾の鎧。を纏う姿は、ただ者じゃない感じが伝わってくる。この人はおそらく冒険者に違いない。
しかもかなりの上級者だと感じた。
リアルで見る冒険者の迫力は、ゲームの中とは比べ物にならない。
「我が名はヒート! なあ、ボーヤ……冒険者になりたいのか?」
俺はボーヤに見えるのか!?
俺にはリュージという名前がちゃんとあるのに……。
そうだ! 俺は15才なんだ。前世の記憶が戻ってからどうしても大人と思ってしまう。脳は立派な大人だが見た目は15才のままなのだ。
あ、そうだ! この人に聞こう、この人はきっといい人に違いない。
ここは夢見る少年を演じ、なんとしてでも聞き出すぞ。
「はい! 冒険者を夢見ています!」
「そうか、冒険はいいぞ! 男のロマンだ! そしてダンジョンには出会いが待っている!」
熱い、この人は熱すぎる。
でも悪い人じゃない。
「お兄さんカッコイイ! そして強そう!」
「おっ、分るか!? お前は見込みがあるぞ!」
「ダンジョンの話が聞きたいです! ダンジョンって近いんですか?」
「うん、うん、ダンジョンか、……ダンジョンはな………………あれだ!」
声高らかに冒険者は一歩踏み出し腕を振りながら指をさす。
俺は吸い寄せられるようにその方向を振り向く……。
「ぇ、………………あれって、山ですよね?」
ちょっとトキメイてしまった自分が恥ずかしい。
ついつい、この人のテンションにのせられてしまった。
「あれがダンジョンだ。……男がダンジョンへ行く理由を君は知っているか?」
「……えっーと?」
なんか次に出てくる言葉……、予想できる気がする。
「それはな、そこにダンジョンがあるからだ!」
いやいやいやいや。名言ぽく言われても……、山を指差してたら全然実感が湧かないです。
まあ、俺。山は好きだけど……、山に登れとでも言いたいのでしょうか?
「――あっ、ありがとうございましたー!」
――俺は野球部が声を張って元気に挨拶するかのようにお辞儀し、足早にここを離れていった。
「ちょっとまってくれー、若者よーーー。話はまだ……」
この人はヤバイ、絶対ヤバイ、退散、退散。
あの人のテンションにはついて行けないです……。
まあ、あの山の麓に入り口があるということなんだろう。
もし入り口が山頂だとしたら登るしか無いな……。見つかるかな?
まあ冒険なんだから、探索も楽しみの一つさ!!